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引き続き展覧会へ。

さて、前回に引き続き、休みの日を利用して、巡回するのを待ち望んでいた、待望の展覧会へと足を運びます。こちらの美術館は、当館から車で30分ほどの距離にある岐阜県現代陶芸美術館さんです。
こちらは、当館と同じく陶芸の盛んな立地である、岐阜県多治見市にある美術館で、当館と所蔵品でかぶることが多く、展覧会などでの作品の貸借等、交流のある美術館でもあります。磯崎新氏の設計による、モダンですっきりとしたデザインの建物と、レストラン、ショップ等やお茶室、陶芸体験施設などが併設されています。今回もですが、非常に魅力的で面白そうな展覧会を開催してくれる、素敵な美術館です。

今回の展覧会は、東京都千代田区にある穐葉アンティークジュウリー美術館の館長の監修の元、2010年1月にBunkamura ザ・ミュージアムからスタートして、山梨、福井、広島、釧路、秋田、旭川、滋賀、山口、茨城、広島、東京(八王子)と全国を巡回して、最後がこちらの岐阜県というものです。スタートのBunkamuraザ・ミュージアムからポスタービジュアルに使用された作品の繊細な美しさと、工芸品としてのデザイン性の高さ、完成度に引きつけられて、是非とも見に行きたくて、首を長くして待ち望んでいた展覧会でした。
陶磁器の美術館で、ジュエリーの展覧会というと「?」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、ジュエリーの技法の一つとして広く使用されているエナメルという技法は、陶磁器の釉薬と同じように加熱して定着させることで知られています。また、今回の展示の中には英国貴族の代表的な文化である、アフタヌーンティーセットも含まれています。それらに使用されるいわゆるカップ&ソーサーも、英国の陶磁器産業の発展に大きく寄与した事を忘れることは出来ません。
今回のメインとなる時代背景は、ヴィクトリア女王の在位していた1837年から1901年、イギリスが政治、経済共に安定して、発展を遂げた時代でもあります。現在でもその素晴らしい所蔵品で知られている、ロンドンにあるV&A博物館にもその名を残しています。うんちくはまあ、そのくらいにして、まずは展示室に。

この時代のジュエリーの特徴としては、まず、工業のめざましい発展を背景とした、貴金属の加工技術の素晴らしさと、世界各地の植民地からもたらされる様々なバラエティーに富んだ素材及び、それに伴って発展してきた宝石研磨などの技術の躍進が挙げられます。かの有名なダイヤモンド『コ・イ・ヌール』が女王の身辺を飾る所有物の一つとなったのもこの時代でしたね。

展示室に入ってすぐのところにはまず、『若き日のヴィクトリア女王』の肖像画。意志の強そうなまなざしが印象的です。こちらの一室のみが撮影可能です。ジュエリーはシトリンとトパーズのパリュール(同一のデザインで創られた、ティアラ、ネックレス、ブレスレット、ブローチ、イヤリングのセットのこと)、こちらはおそらく、作製当時のオリジナルのケースに収められての展示ですね。日本の茶道具や、婚礼道具などと同様、散逸してしまう事の多いジュエリーで、フルセットがオリジナルのケースのままで残されているのは非常に珍しく、貴重な物です。使われている宝石トパーズのクオリティーもちろん素晴らしいですが、注目して欲しいのは、カンティ―ユ【金線細工】や、グラニュレーション【粒金細工】という金属加工技術の精巧な美しさです。黄金が希少品だったジョージアン時代に、少ない量でいかに豪華に見せるかという工夫から始まったフィリグリー【縒り線細工】を発展させた結果、非常に繊細な美しさを見せることに成功しています。メインビジュアルに使用されているエメラルドのネックレスにも、そうした技法がふんだんに使用されています。しばらくそのような素晴らしい技法の数々を美しいジュエリーとともに堪能して、(覗き込みすぎてガラスにぶつからないように注意)進んでいきましょう。この時代は、世界中から様々な宝石が大英帝国にもたらされた時代でもありました。ダイヤモンドの研磨の技術の発達も、これらの展示から知ることができます。
私が個人的に非常に感動したのは、シードパールと呼ばれる非常に細かな真珠によって作られたジュエリーの数々です。ミキモトで有名な養殖真珠の方法が確立するまで、天然の真珠というのは潜水夫が命掛けで海底に採りに行く、しかも必ずしも採れるものではないという、非常に貴重なものでした。それを非常に贅沢に集めて作られたティアラやパリュール、ネックレスの美しさ、そして、芥子粒といわれるような小さなパールのひとつひとつに穴をあけて土台となるマザーパールに繋ぎ止めていくという、気の遠くなるような膨大な作業を成し遂げる当時の職人の技に圧倒されました。
そのほかにもミニアチュールや、モザイク画など、顕微鏡もない時代にいったいどうやって作っていたのかと思うような作品の数々。単眼鏡をお持ちの方は是非とも持参されることをお勧めします。

そのほかにも、ヴィクトリア女王のジュエリーといえばやはり思い浮かぶのが、「モーニングジュエリー」と呼ばれる一群でしょう。当時の喪服とされたモーニングドレスという黒いドレスや、ジェット(流木の化石)製のジュエリー、遺髪を使用したヘアージュエリーなども展示されています。
また、当時発達した技術としては、ボビンレースなどの手工芸レースが展示されています。
こちらも、初期のごく単純なパターンの幅の狭いものから、ドレスなどに用いられた非常に手の込んだ豪華なものまでを、一覧することができます。「糸の宝石」ボビンレースは、コレクターがたくさんいる分野でもありますので、こちらもなかなかの見ごたえでした。

そして最後の部屋にはアフタヌーンティーセットの展示。こちらはシルバーウエアと呼ばれる銀製のセットと、陶磁器製のカップ&ソーサーなどが展示されています。素敵な空間となっていました。

こちらの展示、今月まで開催されていますので、是非ともご覧ください。
そして、その流れは当次回展示「アーツアンドクラフツ」へと続きます。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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