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通過点で、あるということ



今日は店名の由来についてのお話を。




私のお店は7坪ほどの小さなワインスタンドで、食事はそんなにいらないけれど美味しいワインをグラスで楽しみたくてご来店くださるお客様がほとんどです。


ご近所での食事の前に軽く食前酒を楽しまれたり、週末の陽の明るいうちからゆったりとしたワイン時間を過ごされたり。

仕事終わりで帰宅する前にどうしても一杯だけ飲みたくてお越しくださる方や、梯子酒を楽しまれた終着地点として遅めの時間にお越しくださる方もいらっしゃいます。

それほど食事に重きを置かない形態であるがゆえにご利用の用途は様々で、最近では有難いことに海外のゲストが増えてきたこともあり、少しずつではありますが開業前に思い描いていた形に近づいてきたように思っています。




お店を始めて4年半が経ちますが、フランスから帰国した当時は今ほど気軽にナチュラルワインがいただけるスタンディングのお店は大阪には無くて、気持ちのいい接客を受けながら落ち着いて美味しいワインが頂けるお店が増えればなと思っていました。

フランス人は本当に時間をかけて食事を楽しみますし、何よりも人とコミュニケーションを取ることを大切にしています。

それは飲食店との付き合い方にもいえることで、毎日のルーティンとして通うカフェのギャルソンとの何気ない会話然り、食前酒を楽しむバーでの店主や常連客との他愛のない会話然り。

他者と良好な関係を築くツールとして、お店という空間やそこで供される飲料がとても重要であるということを異国の地で気付かされたのです。


それと並行して、例えばホテルや空港のロビー、コインランドリーや深夜のサービスエリアなど、公共の施設での束の間の時間を快適に過ごすことの大切さを改めて知ることになります。


抽象的な例えかも知れませんが、これらの空間で共通するのは退屈な「待つ」という時間を余儀なくされるということ。
しかしながら、もしその空間が少しでも快適なものであれば、とても有意義な時間になり得るかも知れません。

例えば無料でWi-Fiが利用できたり気の利いたBGMが流れていたり、簡単な事務作業が出来る椅子やコンセントがあったりと、行く先々での行き届いたサーヴィスと、それらを享受する人たちのマナーの良さにとても感動しました。

無造作にグランドピアノが置かれていて、道ゆく人がプロ顔負けの技術で即興で演奏して、聴衆が心ばかりのチップを弾む光景というのは、やはり外国ならではと言ったところでしょうか。
そんな心地よい空間でいただくコーヒーは、例えそれが売店のインスタントのものであったとしても格別に美味しく感じられたのです。


海外での生活は特に長い移動時間が付きものですから、発想の転換と言いますか、どうすれば隙間の時間をより有意義なものとして捉えられるかを常々考えていました。



本来の目的地に向かうための「通過点」をいかに快適に楽しむかという自問自答は、回り回って酒場という空間を作るのにとても役に立っている気がしています。




随分と話が逸れてしまいましたが、お店の店名の由来についてに話を戻します。

私のお店は「ワインスタンド ペルシュ」といいまして、ペルシュとはフランス語で「止まり木」を意味します。
カウンターには大きな馬酔木(あせび)が生けられていて、こちらが当店のシンボルであり店名の由来にもなっています。

お店にいらっしゃるお客様を木の枝に止まる小さな鳥に見立てて、

“ 小さな鳥がふらりと木の枝に止まって羽根を休めて、少しだけ元気になってまた飛び立っていくような、そんな居心地のいい通過点でいられたら “


そんな想いを込めてお店の名前をつけました。


希少なワインがグラスで空いているわけでも他店様より何か秀でた商品があるわけでもないのですが、フランスで心から感動した体験を自身のフィルターを通して具現化したものが、ペルシュという酒場なのです。

かつて私が通過点である場所を快適に過ごしたという経験が、ワインだけでなくお店を取り巻く全ての要素に反映されて、ペルシュで過ごす時間がお客様にとって少しでも快適なものであって欲しいと思っています。

たとえ全ての方の心に響かなくとも、縁あって羽根を休めた止まり木が思いのほか居心地が良くて、それがきっかけでワインがより身近な存在になったのであれば、これほど酒場冥利に尽きる事はありません。

人生を楽しむうえで何気ない空白の時間をいかに快適に過ごすかは、小さいけれども確かな幸せであるとそう信じています。



開業前に視察を兼ねて東京に行った際、とてもお世話になっているお店に連夜お邪魔させていただき、その旨をポストした際にいただいたご店主の言葉が今でも私の心の支えになっています。

少し気恥ずかしい気もするのですが、その言葉を添えて今回の話を締めくくらせていただこうと思います。



『何気ない日々の線路は続くよ何処までも。
此処は始発でもなければ終着でもないただの中継点です。
ここに来てどこかに去る人たちにとって憩いの場なのだったら嬉しい限りです。
次回またご来店することがあればワインを飲みつつ良き時間を過ごして欲しいと思います。
これからきっと大阪で素敵な空間を提供されるんだと思っています。
連日のご来店有難う!』


まだまだ道の途中ではありますが、ふと立ち止まりそうになった時に読み返しては、いつも勇気づけられている大切な言葉です。





一本のワインとの出会いが、その後の人生を大きく変えてしまうかも知れない。
そんなワインに人生を狂わされ、現在進行形でワインに狂わされ続けている小さなワインスタンドの店主の話。

日々思うあれこれや是非ともお伝えしたいワインに纏わるお話を、このnoteにて書き綴らせていただきたいと思っております。

乱筆乱文ではございますが、最後までお読みいただきありがとうございました。


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