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『地下鉄のザジ』を読んだ

2021/4/28、スタバにて読了。

実験的な作風で知られるフランスの詩人、レーモン=クノーによる長編小説。全く同じストーリーを何パターンもの表現方法で手を替え品を替え記述していく狂気的エッセイ『文体練習』の作者だといえば、ピンとくる方もいらっしゃるかもしれない。そういえば、先日惜しまれつつも引退したラーメンズの小林賢太郎さんが、『文体練習』を愛読書としているらしいとどこかで読んだ。脇道に逸れたが、今回ぼくが読んだ『地下鉄のザジ』は、クノーを一躍文壇の寵児にした作品だ。

口が悪くて手に負えないおてんば娘のザジが、周りの大人たちを巻き込んでパリの街に大騒動を引き起こす。スラップスティックな展開と前衛的な言葉遊びは、日本でいうところの筒井康隆を彷彿とさせる。事件がテンポ良く進展するし、登場人物たちのキャラクターもいきいきしているので、振り落とされまいと紙面にしがみついて読んだ印象だ。とにかく疾走感がある。その疾走感は、読者に爽快なカタルシスをもたらす種類のものだ。

登場人物たちがよく叩く軽口は、物語にとって良いアクセントとなっている。パリっ子たちのジョークは決して上品とはいえない。しかしそれが、かえって彼らを愛すべき存在にしている。もちろん地の文においても、クノーの言い回しの妙は冴え渡っていることを付け加えておかなければならないが。

叙述トリックにより、あえてジェンダーが曖昧にされている登場人物がいるのも面白い。好ましい余白の残し方だと感じた。

ところで、『地下鉄のザジ』はどうやら映画にもなっているらしい。このハイスピードなドタバタ喜劇をどう映像にまとめ上げたのか興味があるので、さっそくTSUTAYAでレンタルしてしまった。フランス映画におけるヌーベルバーグ運動の先駆けとなった作品でもあるらしいので、到着を心待ちにしている。


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