村上春樹「色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年」読み解きメモ

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アカ…朱雀
アオ…青龍
シロ…白虎
クロ…玄武(福建省では黒虎)
たさ「き」つくる…麒麟または黄竜
木本沙羅…沙羅双樹(涅槃の象徴)

鏡子の家

大宰「斜陽」-三島「鏡子の家」-春樹「多崎つくる」

「鏡子の家」清一郎、峻吉、収、夏雄が「多崎つくる」アカ、アオ、シロ、クロに対応
鏡子は多崎つくる、四人を繋げる役割

ニーベルングの指環

緑川…春樹作品における「悪」的存在
   「死のトークン」の話をする

灰田父と緑川がであった「旅館の前には美しい谷川が流れ」ていた(Kindle版・位置No.924)
「裏庭で薪を割って運んでいる」灰田父(位置No.1008)
「精神の跳躍」(位置No.1033)…マルクス、ニーチェとの関連性

「そこまでの才能はあくまで例外的なものだ。そして多くの場合、彼らは生命を削り、早すぎる死を受容することによって、その天才の代価を支払うことになる。それは命を賭けた取り引きのようなものだ。取り引きの相手が神なのか悪魔なのか、そこまではわからんが」

(位置No.1060)

…悪魔との契約(「指環」の下敷き、「ファウスト」)

「その資格を、言うなれば死のトークンのようなものを、別の人間に譲り渡せばいい。つまり手っ取り早くいえば、代わりに死んでくれる人間をどこかで見つけてくるわけだ。」

(位置No.1073)

…恐らく「指環」の呪い。資格を持った人間は、人間が一人一人持っている「色」を見分ける力を持ち、「ある種の色を持った、ある種の光り方をする人間」(位置No.1102)ならば、その死を了解の上で肩代わりしてもらえる

左手の小指にアーモンド型の小さな宝石がついたリングがはめられていた。

(位置No.1273)

…沙羅のリングは「指環」と対応している?

灰田は自分の父親と同じ運命を繰り返している。

(位置No.1627)

・ヴォータン=オーディン

オーディンはドイツ語でヴォータンと呼ばれる。「指環」ではさすらい人として森に現れ、ジークフリートと対峙する。つくるをハアタイネン一家(クロの家族)のサマーハウスへ導く、「親切な老人」(位置No.3326)の正体がこれにあたる。

「この近くだ。案内してあげよう」。老人は最初にドイツ語で、それから英語でそう言った。

(位置No.3330・太字は記事執筆者)

広場を挟んだ正面には大きな教会があった。丸い緑の屋根を持ったずんぐりとした教会だ。黒い鳥たちの群れが磯の波のように、その屋根から屋根へと忙し く飛び移っていた。 白いカモメたちが怠りのない目であたりをうかがいな がら、広場の石畳をゆっくりと歩いていた。

(位置No.3307)

上記の「黒い鳥たち」はワタリガラスのフギン(=思考)・ムニン(=記憶)に対応。ヴォータン=オーディンはこの二羽から世界中の情報を集める。

老人が被っている「古いハンチング」(位置No.3328)=オーディンが被るつばの広い帽子

オーディンは死の神。故に「冥界への道筋を既に死者に教えた死神のように」(位置No.3346)と形容される。

・闇の奥

いずれにせよ、多崎つくるという名のかつての少年は死んだ。彼は荒ぶれた闇の中で消え入るように息を引き取り、森の小さく開けた場所に埋められた。人々がまだ深い眠りに就いている夜明け前の時刻に、こっそり密やかに。墓標もなく。

(位置No.620・闇の奥、ノルウェイの森?)

湖はまるで運河のように、うねりながら細長くどこまでも続いていた。

(位置No.3277・蛇行したコンゴ川(指環を持つ大蛇ファフナーの寓意)に対応か

国土全体が瑞々しく豊かな緑色で覆わ れているような印象があった。

(位置No.3293・ジャングルの緑に対応)

霊肉二元論

東洋/西洋文化の橋渡し役になり得る観点

つくるは当時、シロとクロを異性として意識しないように一組の、肉体を固定しない観念的な存在として見ていた

我慢できないほどの痛みを感じると、彼は自分の肉体を離れた。そして少し離れた無痛の場所から、痛みに耐えている多崎つくるの姿を観察した。

(位置No.505)

以下、不思議な謎の女性への嫉妬の夢

彼女は存在でしかない。そして彼女は肉体と心を分離することができる。

(位置No.558)

愛する女の心か肉体か、どちらかを、あるいは場合によっては両方を、誰かが彼の手から奪い取ろうとしている。

(位置No.573)

嫉妬とは囚人が自らを閉じ込めた牢獄

「自由にものを考えるというのは、つまるところ自分の肉体を離れるということでもあります。自分の肉体という限定されて檻を出て、鎖から解き放たれ、純粋に論理を飛躍させる。論理に自然な生命を与える。それが思考における自分の中核にあるものです」

(位置No.820・灰田の発言)

意識と筋肉がひとつに繋がらないのだ

(位置No.1385)

本物の灰田は、その現実の肉体は、隣室のソファの上でぐっすり眠っており、ここにいるのはそこから離脱してやってきた灰田の分身のようなものなのではないか。そういう気がした。

(位置No.1400)

その後つくるは再度眠りに落ち、現実のような夢を見る(現実と夢の合一・分裂の解消)。シロ・クロ・灰田との交合

夢の内容は「絶対者からのメッセージ(位置No.844)」?…つくるは預言者、「自由意思を超越したところで行われ」、「そこには背反性もなければ、二義性もない」。つまり分裂がない

「夢と想像との境目」、「想像とリアリティーの境目」

(位置No.1470)

…ラカン?

その夢はほぼ定期的(位置No.1498)


その他

沙羅はつくるより二歳年上…「春の雪」の聡子・清顕?

「共同体」存続のルールは言語化されず…日本的?

それは彼の耳には自分の声ではなく、見知らぬ人間の声として響いた

(位置No.413・春樹作品おなじみ、自分の声が他人のよう)

まわりは見渡す限り、荒ぶれた岩だらけの土地だった。一滴の水もなく、一片の草も生えていない。色もなく、光らしい光もない。

(位置No.496・グレート・ギャッツビーのオマージュ?)

曲集『巡礼の年』第一年、スイスの巻
フランツ・リスト『ル・マル・デュ・ペイ』
『田園風景が人の心に呼び起こす、理由のない哀しみ』の意

沙羅が感じた、つくるが「どこかよそにいる」(位置No.1300)ような感覚…「ダンス・ダンス・ダンス」に類似

灰田が自分の罪や汚れを部分的に引き受けて、その結果どこか遠くに去って行ったのではないかという気さえした。

(位置No.1632)

神(マレビト)の代受苦?

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