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はじめて見る景色〜A級リーグ振り返り〜②対局1日目

ここからは一局一局感じたことを振り返っていく。

1R 田中寿樹五段

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朝、盤の前に座ってまず思った。「え、わたし8:30から石並べるの???」

普段なら二度寝してる時間である。笑えるくらい非日常であった。入り込める気がしなかった。田中五段は初手合で、調べると遊星には必勝を相手に引かせる作戦を取っていた。なんとなく策士というイメージがある。前夜もう一度おさらいしようと、必勝のあらゆる変化を詰め連珠を解くように3時間ぐらい検討した。ところが提示された白4は、黒が良いと言われていてあまり打たれないマイナーな4だった。瞬間的に頭が真っ白になった。予想が外れるなんて、よくあることなのに、朝8:30から盤の前に座っていることと相まってか、緊張からか、動揺して10分ぐらい固まってしまった。

この4は丸田五段と練習していた…にも関わらず、覚えることが多すぎて2週間前にやった練習などその後の記憶で上書きされ、ほとんど覚えていなかった。イチから黒5を考え直す。何をやってるんだという自虐と後悔。平常心を保てないときは大抵勝手読みがでる。案の定序盤でドボンした。

自分の公式戦でもなかなかない14手での敗戦。早速やらかした。A級のレベルじゃないんだよ、という声が聞こえた気がした。しかしながら、私が他人と異なるのは、叩かれることにだけはこの中の誰よりもきっと慣れているだろうということだ。私自身も、女流棋士全体もずっとずっと弱いと叩かれ続けていた。それに比べたらへっちゃらだ。ちょっとだけ、予選で戦った相手や、連珠界のみなさんに、A級のレベルを下げてしまってごめんなさいと心の中で詫びて、次の対局に意識を切り替えた。

2R 神谷俊介八段

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どんなに酷いポカをしても問答無用に強い相手がやってくる。神谷八段は花月を提示してくる可能性があると思い、部屋で2時間ほどおさらいした。しかしながら、金星………。用意の白4から進めてみるものの、中盤ではたと気づいた。これ、白に打ちたい手がないじゃん…。

私は序盤が落ち着いた局面で、この連珠は一体どういう全体像なのか、黒と白はどんな構想を描いていくのかを、ぼんやりと考えるのが好きである。持ち時間の長い対局では、その時間が最も楽しく充実した気分になる。ところが、日頃ほとんどの対局でまっとうな進行にならない問題がある。つまり神谷八段クラスまでいかないと、正しい手順で中盤にたどり着かないのだ。私は初めて正しい進行で迎えた中盤を前にして、ここで考えているようではダメだった、、、、という当たり前のことに気がついた。

なぜこの白4を選んでいたか。それは多くの珠型から合流できて省エネできるから。覚えることがありすぎて局面の良し悪しで選ぶ余裕がなかった。なぜこの白6を選んだのか。中山がこれが最善と言ってたからという薄っぺらい理由。これではダメだ。根本からあかんかった。

自分は研究しているとき、正しい手順を覚えるためにやるのかな?と思っている節があった。しかしもっと大切なことがあった。局面自体が、有利か不利か。自分らしいか、やりたくないか。打ちたい手があるか。構想を描けるか。そういうことに、もっと注目しなくてはいけなかった。神谷先生に正しいことを教えてもらえる機会は少ない。だからそれを補うためにAI検討や棋譜ならべがあったんだと。帰ったら、そういうところを重点に置いて検討をしよう。自分の一番大好きな、連珠の全体像を見て考えるということを普段からやろう。打ちながら反省した。

あまりにも主張がない白だったので、強引に主張を作る手をしたものの、やはり不自然で咎められた。しかし私は神谷八段が時間を使い切るまで打たないことで、受けがあるのではと感じていた。秒読みに入ってから、神谷八段は読んでない手を繰り出しあっという間に寄せた。時間の使い方は正直クレイジーだと思ったが、読みの深さは自分とは桁違いだとわかった。

3R 舘雅也五段戦

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舘さんも初手合。あらゆる作戦を使う方なので予想が絞れず、無策で臨んだ。渓月の白番で、あまり実戦経験のない形になったが、落ち着いた局面は悪くないように思えた。速度は緩やかで、これからお互いに構想を描きながら空間をおさえていく感じ。わたしは黒19にすぐに白20に打ちたい!という感覚がムクムク湧いてきて、手応えを持って打った。このリーグで初めて打ちたい手が出来た瞬間で、心底ホッとした。勝敗よりも、自分の感覚が確かに存在していることを確認できたので、これでもう戦える、と思ったのだ。(全局を通して一番自分の好きだった手、感触良かった手を問われれば、この舘戦の白20だと思う)

いつも五目クエストだと舘さんにはすぐに攻めの形を作られてしまうが、本局は白の模様に苦戦しているようだった。次第に手番もこちらに来た。詰みはなかなか読みきれないが、これは実戦ではよくあること。白20のような、構想を考えるほうに長時間の連珠では頭がシフトしているので、直線を消費していくような詰みの思考は「別口」。前者が覚醒しているときは意外と後者が鈍ることがある。慎重に時間を使った。

ついに読みきれずに途中まで引き始めたら、弱い防ぎを打ってきたのであっけなく詰んだ。舘さんはとても強い方なので、拍子抜けした。ただ中盤で自分が考えた手が通用したことは自信になったし、やっと連珠らしい連珠を打てて充実感があった。何より初日全勝も全敗も居なくなる、という盛り上げに加担することができてホッとした。全敗を覚悟していた大会だったので、これで肩の荷がおりて伸び伸び打てそうな気がした。

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最後まで残った中山岡部戦を牧野さんと横で見ていた。牧野さんは「作戦が少なすぎて…」と小声で愚痴っていた。「わかる!」思わず同意した。でもこうして強い相手と3日間過ごせること、その同志として隣に牧野さんがいることに、しみじみと幸せを感じていた。

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