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数年越しに出会えたホンモノ〜バックギャモン・UBC解説会に行ってきた〜

いきなりですが、あなたはこんな質問をされたことはありませんか?

「バックギャモンは、運ゲーですか?」
Is Backgammon an "un-game"?

そしてこう答えたことはありませんか?

「いいえ、バックギャモンは糞ゲーです」
No,it's a "kuso-game"!

(すいません、中1英語の教科書みたいな構文してみたかっただけです)

そんな偏見がある方が、きっと180度見方を変えてしまうだろう大会がUBC(Ultimate Backgammon Chanpionship)です。あまり馴染みのない方にざっくりと概要を説明しますと、、

・海外スポンサーの冠大会でチャンピオンにその期勝ち抜いた挑戦者が挑戦する方式

・マッチ勝敗とPR(AI解析によるどれだけ正しい手を選べたかの評価値)の両方を競う、dual-dual方式

・前年チャンピオンが日本の望月正行氏、挑戦者決定戦まで残ったのが景山充人氏と上田英明氏。なんとトップ3が日本人!!

・望月プロは日本のバックギャモン界を牽引してきた第一人者で、世界選手権者であり、最も評価されているプレイヤーに与えられるバックギャモンジャイアンツでも長年不動の一位を保っている絶対王者

・上田挑戦者はまだギャモンを始めて4年なのに機械のように正確でPRがめっちゃ低くサイボーグと呼ばれている。会社員を辞めてプロの道に進んだ。世界的にはまだ無名だけどめちゃくちゃ強いからきっと五分。世界中が驚きで震える未来が見える、見えるぞっ!の漫画的展開

・挑戦者決定までは海外で、望月チャンピオンが実況する中行われたけどコロナになってしまい、日本でFINALをやって、それを録画し編集し、海外に届けて世界中で観ることに…

雑に説明するとこんな感じで、特徴的なのがdual-dualということと絶対王者に無名の新人(でも実力は五分)が挑戦するという点です。


Day1解説会で観るギャを満喫

3日間、最大12マッチ(13ポイント先取)行われる中で私は初日の解説会に行ってきました。ハレザ池袋という新しい会場・厳かな和室・挑戦者和服と今までのギャモン界になかったこと尽くしで、運営と選手の並々ならぬ気合が否が応でも伝わってきました。

1GAMEだけ盤側で観戦できるという特典があったのですが、観戦記者でありこの手のタイトル戦の対局室に慣れている私が、その場から早く立ち去りたいほど緊張してしまいました。偶然にもそのゲームは序盤でキューブパスがあり早く終わって助かったのですが、一体なぜあんなに舞い上がってしまったのか。対局者が神々しく、自分が研ぎ澄まされている空間に紛れ込んだノイズのように感じてしまいました。

解説者の景山さんに「ああああの!おおおお王位戦決勝の望月中村優里戦を見たのがギャモンにハマるきっかけでしたっ!」とやっとの思いで話しかけたのも握手会レーンにいるような挙動不審ぽさで、景山さんの反応も微妙だったw 

今回は1match終了後の結果を見て、day1の平均PRを予想するニアピン賞という試みがあり、なんと私はダントツ?の近さで賞を獲得しました!この1年いぺチャンネルを欠かさず見ていた観るギャとしては、この予想は譲れないところだったので本当に結果が出て嬉しかったです(笑)。しかしそのときにお願いした記念撮影でもめちゃくちゃ緊張して居た堪れなくなりました。ギャモンの観戦は、純粋なファン目線というこの世界ですれっからしになった私にとって貴重な初心を思い出させてくれるものだということをこの日感じました。

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長年心に引っかかっていたある言葉

少し話がそれますが、女流棋士の中倉彰子さんが5年前に「いつつ」という会社を立ち上げた時、名人戦で使用した盤駒を380万円で購入したことを覚えてらっしゃる方はいますか?

そのインパクトは大いにあり、「ホンモノの日本文化を届けたい、触れて欲しい」という理念が心に深く突き刺さってきました。ホンモノーーーとてもストレートで、簡単で、でもあまりなにかを評価するときに言ったことがない言葉です。その時のわたしは「ホンモノって、、なんだ?」と改めて考えてしまいました。

有名であること、高額であること、長年培った技術を結集させて対局していること、人々に評価されていること、物質として質が高いこと、工芸品として完成度が高いこと、、、どれもホンモノについての説明として合っているようでしっくりきませんでした。私も実際タイトル戦の現場に居ましたから、ホンモノの対局室の空気や盤駒を見てきたんだと思います。とても素晴らしいものでした。しかし、私が心を震わせていた理由はそれだったのだろうか。格が高いタイトル戦でも、一般の予選でも同じように心震える瞬間はありました。ホンモノって一体なんだ?

UBCday1の解説者には若手プロの横田氏がいて、小気味良い断言口調で「ここはこの一手」「当然の考え」という極めた人にしかわからない感覚を披露してくださいました。特に「このレベルだとここからミスが出て逆転はまず起こらない」という言葉は将棋みたいだなあと思い、タイトル戦の控室だったり、奨励会員の検討だったりを思い出して懐かしい気持ちになりました。その横田さんがmatch4で「まずこのPR差は覆ることがない」と序盤で宣言してから、まさかの逆転が起こります。横田さんはじめ、皆が言葉を失っていました。運に左右されながらも必死にコンマ1を削ろうと努力している姿、そして極めた者同士にしかわからないその困難さ、予想通りにいかなかった現実、勝負が持つ魔力のようなもの…いろんな感慨に包まれて、感想戦の空気は非常に重かった。でも私の心の中は震えて喜びにあふれてました。「これはホンモノだ、ホンモノだから知って欲しい」と。

自然とその言葉が自分の中から湧き上がったことに驚きました。長年引っかかってたのに。わからなかったのに。なぜだかこの日、その言葉がすっと出てきたんです。それ以外にしっくりくる表現がなかった。「いい仕事をした」から生まれる感動は確かにあって、この日の解説者たち、運営の対馬さん、撮影のコマラボ、そしてスポンサーのMarcなど、皆がそれぞれ「いい仕事をして」素晴らしい対局になった。でも、いい仕事をしたからといって、今日のような感動が生まれるとは限らない。いい仕事の先にあるプラスアルファ、それを指すのが、ホンモノってことなのかもしれない。

でも正直そんな簡単な言葉で表現すると、色あせてしまうような輝きが対局者にありました。ホンモノだから見て欲しい、と思ったのは嘘偽りない気持ちだけど、やっぱり素晴らしいものを言葉でカテゴライズしたくない。評価は、それぞれの心の中で十分。一人でも多くの人がUBCを見てなにか感じてくれたら嬉しいです。



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