珠王戦振り返り〜欲張る心と怖がる心〜
2020年最初の公式戦は二大タイトルの一つでもあり、世界選手権代表選考会(今年は団体戦メンバー)を兼ねた珠王戦だった。結果は1勝4敗1分と目標の3勝が出来ず内容的にも課題が多かった。
私は来年のWTに出る為に早く強くなって皆んなに追いつきたいという焦りがあったようだ。大会終了直後は連珠では味わったことのない、周囲に置いていかれるという焦燥感を初めて感じたし、とても残念に思っていた。しかし翌日帰宅して落ち着いて考えたら、不甲斐ない手ばかりだったのをのぞけば、キラキラした幸せな二日間であった。一度棋道で挫折した私のような者が、日本のトップと同じ空間で対局でき、局後や道中も連珠や勝負観について語り合い、連珠に浸れる時間を持てた。何という幸福なことだろうか。今の弱い私でも勝負で起こる一つ一つのことに痺れるような興奮を覚える。出来ればもっと内容を高めて、本当の意味でギリギリの勝負を味わってみたい。私はまだまだ連珠に挑戦してみたい。
6局のうち印象に残っている3局を振り返ってみたい。
1R 河野五段戦
遊星から7題。白有利と言われてる形だけど実戦経験はないから本当にそうなのか、好きな黒を持って味わってみようと思った(こういうお散歩して景色を見てみよう的なのんびりしてるところは勝負師として向いてないなとつくづく思う)。初見?で11まで正解を打てた。しかし予定していたAの透かし止めが急に不安になり、左辺と上辺で禁手を狙われるような気がしてしまった。その時は読んだつもりだったけど後からその手順を振り返れなく、勘違いだったかもしれない。何れにせよここで第一感の手を諦めてBに打ったのは、怖がる心が作用した結果だと思う。反省したい。
17手目はかなり考えた。ABCの順にフクミ手が続くからだ。そのまま追い詰めになる手順もあるが、全ての受けは読み切れなかった。上辺は元々黒が絶望的な形勢なのに、唯一ラッキーにも夢を残してくれた場所だ。深入りして失敗したら今度こそ勝つチャンスはゼロになる。私は迷った末自重して暫く受けに周り、次のチャンスを待つことにした。
人生ゲームで最後の賭けもやらなくて終わってしまうような1局にならないようにしないと!
河村九段のTwitter解説にこう書かれた。確かに受けたらそのまま自然死する可能性が高く、チャンスに賭けるのもあったと思う。でもAIにかけたが、やはり上辺の追い詰めはなかったようで読みは合っていた。受けに回ったのは下辺に黒石が貯まればそこで再度上記の順をした方が詰みやすいと思ったから。なので本譜はよく読まず21と上辺と繋がりやすい場所に打ってしまった。一番硬いのはAで、実戦はここからAと引かれて三々禁にされた。
私は自重したことよりも、ワンチャンを欲張って丹念に読まずに21を打ったことの方を反省すべきと思った。明らかに心のバイアスが読みの姿勢に作用してしまったからだ。
5R 牧野初段戦
丘月を提示されたらこれをやろうと思っていた。あまり覚えておらず、17からはその場の読みで打った。ここが珠王戦を通して一番考えた局面。黒も白も剣先を幾つか抱えて、右辺と下辺で一気に攻めるのは結構難しそうである。剣先は受けに働くからだ。黒の私は左辺に開拓したい。しかし白からACEなどの好点に入る手は気になるから、攻めたいけどケアもしたい。
そこでBを選んだ。Aの方が硬いから欲張った手だ。この手はより外に回って次の攻撃力があるのと、下辺の好点に打たれた時少しだけAより働いている。白からAやCと攻め合われるのが怖いが、Dとすれば剣先を作りながらミセ手で手番を取れるので、受けになるだろうという読みだった。
白は大人しく26としてくれたので、2728の交換をしてから29と攻めの主導権を握れた(29は一個上の方が本筋かもしれない)。この連珠は黒が主導権を握れないことも多いから、かなりうまくやれたと思う。31を打って、次に追い詰めの筋があることに気付いた。
一気に行く珍しい筋。35には外止めで詰みはなかったが本譜は発生してしまった。3940の交換は左辺でフクミ手が乗るのを防ぐもので、43が当初の読み筋。以下50で四がノルけど乗り換えして三が二つ残る。白の四三は四で取れる。詰みだ。しかし長い。何度も確認したが、四や四三がノル筋があるから怖かった。
四三がノルのは大丈夫なのを分かってるのに、より安全に、と本譜は上図の43のミセ手ではなく、四を引いていった。ところが、予定の順は46で白にミセ手が発生するではないか!四を引いたばかりに、止めた白石が出現して剣先となったのだ。うっかりした。やっちゃったと思った。よくあるのだ。ミセ手でいくか、引くかで、どちらか一方が正解なのが。私は完全に慌ててしまった。
よく見ると、この46から生じるミセ手は四を連続して消すことができるのだ。簡単なのに、気付いてなかった。剣先ができる恐怖が先立って、45を反対に引いてしまった。これでも詰むだろうと。詰まなかった。詰みを完全に読み切ってたのに、その順を恐れて予定変更からさらに恐怖で読み切れずに逃した。
この着地失敗は堪えた。実に私らしい。実戦恐怖あるあるだ。何年勝負師をやってるんだ。将棋でこんな負け方したら死にたくなったろう。しかし私はこの日はそれほど落ち込まなかった。中盤で読みを入れて牧野さん相手に主導権を握れたことに満足していた。現場では他の選手にワーワー言って一通り八つ当たりしたが、次の紀藤戦はちゃんと謙虚に打てた。この大ミスしてからの紀藤戦を耐えたあたりが、本大会の私のカッコ悪くがんばったハイライトだったと思う笑。
6R 紀藤初段戦
直前の牧野戦と全く同進行で、逆の白を持つことになった。これを選んだのは、牧野戦で黒番での手応えを感じたからと、もし白番になったら私が悩んだ23で紀藤君がどう打つか知りたかったからだ。紀藤君はオーソドックスなAと打ってきた。この手は呼珠じゃないのでもう少し主張したいと見送った手だった。
私は打ちたかった下辺に24と打てたが、満足して気が緩んで26はかなりのおばかさんだった。27で青ざめる。23を緩いと放置して26と後手引くのは明らかにおかしく、26でもっと得をしなければ単なる一手パスだ。しかもこの手は厳しく、Aと外から受けたいがそれには詰みがある。黒はBがフクミ手になるので好いタイミングでここに置くことが出来るからだ。ここからは泥水をすする覚悟でCと中止めした。
黒にばかり貯金が増えていく。私はかなり形勢を悲観していたが、それでも何かしらフクミ手が当たるように当たるように受けていた。驚くのは、AIにかけたらここではもう白に評価値が触れていた。私はまだ泥水をすする気満々だった。この36も受けのつもりで打っていた。
41と相手も付き合ってくれて、絶望的な局面は凌げた。ここでAと連を止めるのがまた呼珠になっている。私は先にBと打ち、Cと打たれてからAを入れたが、すぐにAと手番を取って下辺、あるいは右辺に攻め合いするチャンスだったかもしれない。Bと剣先を止められてからはなかなか攻め切る絵が描かず、結局受けを続けることになってしまった。手番管理に甘さがあったが、あの一手パスの局面からよく耐えられたと思う。満局だったが充実した対局だった。
全体を通すと、主導権をはっきり握れれば一直線に攻め倒す手はよく見えている。これは私の連珠の特徴でもあると思う。反面主導権が無いときに、持ってる手札が少ない。そういう場面の戦い方がまだまだ分かってない感じがした。
作戦も初期値不利なものを持つことが多かった。無策のままここまできてしまったが、いよいよそれでは通用しなくなってきた。ちゃんと序盤を準備するのは今後の必須課題だろう。
中山珠王、全勝優勝おめでとうございます。renju portalに掲載されてる棋譜、特に後半三局はびっくりするような構想で鮮やかに勝ってるのでぜひ多くの方に見て欲しいです。
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