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「見えない壁」この世界の分断に立ち向かう #PIECESの本棚

前回のハッセーくん(長谷川さん)からのバトンを受け取り第二回目となる#PIECESの本棚、今回はPIECESプロボノ&サポーターの高島が担当します。

↓第一回はコチラ

※高島の自己紹介noteは #私の子ども時代 の記事をご参考ください。

「親指の恋人」 石田衣良

さて、なかなか本の紹介と言っても文章にするのが難しい本ばかり思いついてしまい困ったなぁと色々と考えていたところ、ちょうど10年ほど前に読んだこちらの小説がふと思い出されました。
(普段小説はあまり読まないのですが、表紙絵の中村佑介さんの絵になんとなく惹かれて読み始めたのがキッカケだったと思います)

1ページ目を開いた瞬間、目に飛び込んでくるのは「二十歳の男女心中 渋谷雑居ビルにて」の新聞記事の見出し。先に結末を知りつつ読み進めなければならないのが、この小説の悲しくも深く心を動かされる部分です。

「これから送るのは、親しい友達にも話していないことだ。暗くなるけど、いいかな?」
「わたしは……今、この瞬間全身でスミオの話をきいてるよ。全部、話して――」
六本木ヒルズに暮らす大学生の澄雄と、薄給のパン工場で働くジュリア。携帯の出会い系サイトで知り合ったふたりのメールが空を駆けていく。
20歳のふたりは、純粋な愛を育んだが、そこへ現実という障壁が冷酷に立ち塞がる。無防備すぎる恋は追いつめられ、やがてふたりは最後の瞬間に向かって走り出すことに。
格差社会に否応なく歪められる恋人たちを描いた、現代版「ロミオとジュリエット」。

格差社会と「見えない壁」

おそらく時代背景は2000年代の後半。今の10代20代の方にとっては、少し時代感にGAPがあるかもしれませんが(ガラケーの出会い系サイトとかね)、私自身はちょうど東京に出てきて働き始めたまさにその頃でした。地元大阪もある程度の都会とはいえ、東京独特の、なんというか先進性とか革新的ともいうような、イノベーティブでスピード感のある文化にワクワクする一方で、地元のゆっくりと時間が流れる文化とでなにかしらの「見えない壁」のようなものを感じているところでした。

もちろんこの小説の主人公達のようにわかりやすいまでの「極端な貧富の格差」があったというわけではないのですが、その両面を自身の人生で体験しているような気持ちがあり、より感情移入してしまったのかもしれません。

作品中の印象深いジュリアのセリフにこのようなものがあります。

「スミオとわたしのあいだには絶対に越えられない壁があるんだよ。それに気づかないのは、スミオがうえの人で、おまけにいい人だからだよ。わたしたちは、同じ時代に生まれたけど、同じ世界に生きてるわけじゃない」

実は地元の友人に似たようなことを言われた経験があります。東京の文化にすっかり染まった私を見て「見えない壁」を感じさせてしまったのかもしれません。

社会人になり何年か経つと、どうしても学生時代の環境・関係性とは少しずつ変わってきます。好きなことを貫いて起業する人もいれば、会社で一生懸命働く人もいる。新たに家族をつくる人もいれば、家族のためにガマンする人もいる。頑張っても報われない人もいるし、元気に働けない人もいる・・・そこには少しずつ価値観としてズレが現れます。それが「見えない壁」となり世界を分断し、だんだんと越えられない壁のように認識され、それぞれが別の世界で生きている、という風に見せてしまうのではないでしょうか。

「見えない壁」と向き合う

「ロミオとジュリエット」の世界は中世ヨーロッパ後期。その時代から考えると、身分の壁のようなわかりやすい差別はなくなりつつあるのかもしれません。しかしながら、この「見えない壁」は今もなお根深く残っていると思います。

この壁をなんとかしたいんですよね。特に子どもたちや自立する力をまだ持っていない若者たちは、生まれ育った環境ですべてが決定されてしまうことも多々あるのではないでしょうか。人生がハードモードであればあるほど、個人の力に依存することも多くなり、その分負担はとても大きくなります。もちろんこれを乗り越えて大きく成長し、成功を手にする人もいるでしょう。そういう方は美談としてスポットが当たりがちですが、その裏では乗り越えられなかった人もたくさんいます。たまたまイージーモードで大人になれた私からすれば、乗り越えられなかった人を「自己責任」の一言でおしまいにすることがどうしても出来ないのです。

私は決してジュリアのいう「うえの人」でも「いい人」でもありません。ただこの小説に出てくる親世代のような、理不尽を押し付けるだけの大人にはなりたくないなと思いますし(単純にカッコ悪い)、ハードモードな人生を歩んでいる人に対し壁を作って分断するよりも、もしそこに手を差し伸べる余裕があるのなら、できることから少しでも支え合うくらいの関係性があっても良いのでは、なんてことを考えています。

一歩一歩積み重ねつつ、世界の分断に立ち向かう

そんな文化の醸成のために、まだまだ力不足を痛感しています。もっともっと成長していかなければならない。ただし自分が成長することだけが目的ではなく、これまで優しく関わってくれた周囲に対しての恩返し、もとい次世代への恩送りがしたいという気持ちが大きいです。この小説は私がPIECESやその他社会活動に関わるキッカケとなった大切な感情を思い出させてくれました。

これ以上この小説のような悲しい結末の物語が生まれませんように。できることから一歩一歩着実に積み重ね、少しずつでも進めていきたいと思います。このnoteリレーもその一環。PIECESには同じく想いを持って活動している仲間に恵まれていることに感謝しつつ、次の方にバトンを渡したいと思います。

※noteでのサポートやドネーションも大歓迎です。共に「次世代への恩送り」に参加しませんか?

今日の担当:高島慎也(たかしましんや)
twitter:https://twitter.com/TCR0124
note:https://note.mu/tcr69(バンドアカウント)

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