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問いの向こうにある複雑な社会に手をのばす #問いを贈ろう

目に涙をため
顔を真っ赤にして
いつもより眉が上がったあの子は
普段話す声を3くらいだとしたら10くらいのボリュームで
普段話すスピードを2くらいだとしたら9くらいのスピードで
言葉を発した。

そして、手を握りこぶしにしてわたしの方に拳を向けた。

「かんしゃく」というメガネで切り取られた
そのメガネをそっとはずしてみると
そこには一人の人の姿が浮かび上がってくる。

わたしには、その子の声がまるで「叫び」のように聞こえていたとしても
わたしには、その子の仕草がまるで「殴ろうとしていた」ように見えても
その子に何が起こっていて、本当の本当はどうしようとして、
何を考えて、何を感じていたのかの全貌は
わたしにはわからない。

だから自分のメガネで切り取る前に
一人の人として生きているその子の姿を
なんとかそのまま見つめようとする。話を聴こうとする。

*    *    *

自分のメガネは、自分の経験や価値観、そして自分の生きてきた集団の文化や歴史から生まれた自分にとっては大切なリソースでもある。

そのメガネを大切に扱い、その上で自分のメガネを自覚して、そのメガネをはずしてみて日々何かを見つめるのはとても難しい。

「かんしゃく」と切り取ったあと、わたしはどんな行動をしているのだろうか。もしその場をおさめようとする時、その背景に、わたしはどんな感情があって、どんな経験が影響しているのだろうか。わたしが生きてきた社会の規範がどう影響しているのだろうか。

難しく、終わりはないけれど、自分のメガネや、そのメガネをかけたくなった感情や経験に気づき、それを大切に大切に扱い、そっと違うメガネをかけようとしてみる。そっとメガネを外そうとしてみる。

そっと自分に問うてみる。
そのメガネをはずしたら、目の前のことはどんな風に自分に映るのだろうと。

「どうしようもなくなる前にいろんなことがあったんだよ」

夕暮れの砂利道を散歩しながら、さっきより呼吸が落ち着き、上にキュッと上がっていた肩の力が抜けたその子は、片方の拳を、もう片方の手にぶつけながら、「ほんとはね」とつぶやいた。

その子の中に息づく、まだ話されないたくさんの「ほんと」を想像しながら、今話された大切なほんとにそっと目を凝らす。

*    *    *

わたしたちの周りには、さまざまな生活環境で暮らす子どもたちが、さまざまな人がいます。今この瞬間も。わたしの隣で。

民主主義の危機に直面し、立ち上がったある国の友人とやりとりをしていた時、共にできうることをいくつか具体的に共有してくれた最後に、友人はこう付け加えました。

「何より知ろうとしてほしい。そして忘れないでほしい。危機は今始まったことではなく、そして続いていくから、関心を向け続けてほしい」

また、子どもや若者たちが危機に晒されるある地域で働く方はこう教えてくれました。

「人の関心が薄れたその狭間に暴力が入り込む。ニュースで報道される時だけ何かが起こっているわけではない。わたしたちにとってはこれが現実で、これが日常なんです」

この世界には、まだ出会っていないけれど共に生きる隣人の暮らしがあり、その暮らしから発せられているさまざまなサインがあります。目を凝らして知ろうとしなければ、耳を凝らして聴こうとしなければ、出逢おうとしなければ、もしかしたらすぐ隣を通り過ぎても気づかないかもしれないサインたち。

だからこそ、日々その環境に目を向け、安全が失われ困難になる状況を、そして安全が失われるその前の様々なサインを受け取り、働きかけていくことが必要なのだという思いを抱きながら、わたしたちPIECESは活動しています。

見えないけれどすぐ隣で起きている暮らしのことに。
見えないけれどじわじわと広がっているかもしれないほころびの兆しに。
見えないけれど確かにその手元から育まれている、新たな明日のことに。
そっとメガネを外して、目を向けてみる。

様々なことを見つめ、問い直し、社会に影響を与えることを自覚しながらアウトプットを育む。そのきっかけの一つとして、わたしたちPIECESは「問いを贈ろう」キャンペーンを展開しています。

この社会に起こるさまざまなことは、時に矛盾し、時に正解はなく、複雑だからこそ、「問い」を通じてさまざまな角度から社会を捉え直し、よりよい地域と世界をつくるきっかけをさまざまな人たちと共に耕し育んでいきたい。31個の「問い」を贈りあうことで、皆さんと一緒に、自分と社会のウェルビーイングを考えていきたい。今回のキャンペーンには、このような思いが込められています。

誰もが、一人の市民として、この世界のありのままを「みつめ 」、起こっていることを「うけとり」、自分や社会に「はたらきかける」。問いかけを通じて「優しい間」を生み出し、やわらかな変容を起こしていく。

ぜひ、「問いを贈る」ムーブメントを、わたしたちと一緒に広げていただけたら嬉しいです。

最後に、PIECESから「問いの贈りもの」をお届けします。

あなたの心には、
思いやりの灯火が点っています。
その灯火で、あなたは何を/
誰を照らしたいですか。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

認定NPO法人PIECES 代表理事 小澤いぶき

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イラスト/まえじまふみえ

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