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優しい「間」と「光」を描き出す #PIECESの本棚

 みなさん、こんにちは。PIECESプロボノメンバーの中原です。今回のテーマは #PIECESの本棚 ということで、私からは学生時代からずっと大好きな辻村深月の小説の中でも特に私にとって大切な本となっている『かがみの孤城』を紹介させていただければと思います。

かがみの孤城 ー辻村深月著(2017年)

 この物語では、学校での居場所をなくした7人の中学生が、突然光り始めたそれぞれの部屋の鏡から、不思議な孤城に吸い寄せられてしまいます。なぜこの7人がここにたどり着いたのか、ここは一体どこなのか、その理由を探っていくとそこには大きな驚きと感動が待ち受けていた、、そんなお話です。

残酷なまでに優しい主人公の闇を照らし出す”少し不思議”な世界観

 私が辻村深月の小説が好きな理由は、その世界観が時に残酷なまでに優しく、そしてその物語に差し込む光がとても温かいからです。辻村作品に出てくる主人公は、心に大きな傷を抱えていることが多いです。その闇はとても深く、時に絶望に飲まれてしまいそうなこともあります。しかし、この辻村ワールドでは、そんな時に”少し不思議”なことが起きるのです。それは人が生まれながらに持つ「想像力」であり、「未来を信じる力」でもあります。

 この本の中では、ある時突然いつもの部屋にある普通の鏡が突然光り出し、鏡の向こうの世界から狼の仮面を被った女の子から西洋の童話に見るような立派なお城に招待されます。そして、そこから主人公であるこころの長い1年が始まるのです。

「安西こころさん。あなたは、めでたくこの城のゲストに招かれましたー!」
唖然とするこころの目の前で、城の鉄格子が開く、ゆっくりとした音が聞こえた。

絶望に光は照らされ、そしてバトンは繋がれていく

 特にこの作品は、子どもの頃のしんどさや生きづらさに焦点を当てて、こころの心の声を丁寧に描き出すことで、とてもリアルな心の動きを描写しています。こころの周りに存在する、お父さんお母さん、学校の先生、フリースクールの先生に対して心を開くことの難しさや反発してしまう気持ちを痛いほどに感じてしまい、読みながらごめんねとこころに届けたい思いでした。

どうしてこんなに怖いのに、涙が出ないんだろう、と思っていると、薄く凍るような息遣いを漏らす唇に、涙の塩辛さが当たった。知らないうちに、涙はずっと目から出ていたみたいだった。

 しかし、この物語が最後に私たちに語りかけてくれるのは、みんな大人になるべくして大人を迎えるのではなく、傷つきながらも誰かに救われる経験によって人を信じながら前に進むことができ、そして気付いたらしんどい時期はやがて終わっていて、今度はあなたが誰かを救う番になっているんだよ、ということでした。

大学院を卒業し、結婚し、苗字が変わり、『心の教室』に携わりながら、いつしか心に、ある想いが芽生えた。

今度は私の番だと。

どうしてそんなふうに思ったのか、わからない。
けれど、昔から、胸に、一つの光景が焼きついている。胸に強い、痛みの感触が残っている。
今度は、私がその子たちの腕を引く側になりたい。

優しい「間」が生まれ、光が照らされ合う社会に

 大人だって、みんなずっと強く生きていけるわけではない。みんな誰しもがかつて傷ついた心を救われたひとりの子どもであったのです。そう受け止めることで、この今の社会で生じている様々な悩みや課題も少しだけ見え方が変わってくるように私は感じました。私はPIECESに関わらせていただきながら、これからの社会を生きる子どもたちがもっともっと人の可能性を信じて歩めるよう、その可能性を決して疑わずに時に支えながら、時に支えられながら、みんなでともに歩んでいきたい、また、みんなを照らす光の一部でありたい、そう思っています。

 そして、PIECESが目指す一人ひとりの市民の間に生まれる優しい「間」によって、それぞれが光の一部となり、お互いを照らし合いながら誰しもが孤立することなく、温かく抱擁される社会が実現されるようこれからも歩み続けていきたいです。

最後までお読みいただき、どうもありがとうございました。

今日の担当 中原 亮
Twitter:https://twitter.com/ryofredrick1


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PIECES Magazine|長谷川真澄(Masumi Hasegawa)|note認定NPO法人PIECES(ピーシーズ)に関わる様々なメンバーが、子どもとそのまわりの社会について書いたnoteたちをまとnote.mu


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