見出し画像

ケアし、ケアされることで癒される社会に #最近考えていること

 そこはかとなく不安な気持ちが続く日々。私がそんなときにふと思うのは、いつかの友人が元気でいるかどうかということだったりする。そう思うと気になっていてもいられなくなり、久しぶりの友人にメッセージを送ってみる。そうしてやりとりしているうちに、近況報告から懐かしいあの頃の話に移り、あなたは私はあの人は昔ああだったこうだったと話が盛り上がる。そうしていると、不安な気持ちがちょっと安らぐ。

 そんなことを時折していると、どうやら私は人を気にかけることで安らぎを得ている側面があるなと思うのだ。一体この感情はどこから来るのだろう。そう思っていたときに、ふと東畑開人氏の『居るのはつらいよ』の一場面が思い出された。そこでは、ユング派分析家のグッゲンビュール=クレイグ氏の提唱する「傷ついた治療者」について話をしている。その章の一部部分を見てみよう。

 ”そうなのだ。患者は自分の癒す部分を治療者に投影し、それに癒されることで自分を癒す。あるいは治療者は自分の傷ついた部分を患者に投影して、癒すことで癒される。そしてそれは反転もする。患者もまた自分の傷つきを投影することで、治療者に傷ついた部分を見出し、それを癒すことを通して、自分の傷を癒す。あるいは、治療者もまた自分の癒す部分を投影したことで癒すようになった患者に癒されることで、自分の傷を癒す。
 グニャグニャ、グルグルしているけど、傷と癒しはここでは完全に混ざり合っている。
 ケアすることでケアされる。ケアされることでケアする。それらは複雑に絡まり合った投影によって可能になるというのが「傷ついた治療者」という考え方なのだ。”

 そう、私は他者を気にかけることにより他者に自己を投影して癒されていたのかもしれない。そしてそのケアはこの社会にきっと循環している。誰かが誰かを想うことで、この社会は成り立っている。そう感じるのだ。

 今の時代について考えを及ぼすと、この時代では核家族化が進み、身近に人との関わりを持つ機会が昔に比べると少なくなっているのかもしれないと思う。自己責任で完結してしまう物語はちょっと辛い。もちろんこの世界にはたくさんの優しさと美しさが存在している。一方で、1人で乗り越えていくにはしんどいチャレンジも時には迎えなければならないことがある。そう、誰しもがきっと傷を抱えてしまうことがある。だからこそ私たちは頼り合い、お互いの傷を癒していくことが必要だ。

 先ほどの『居るのはつらいよ』で「傷ついた治療者」について語られている章の最後に、とあるデイケア施設に入所していたが、あるとき急逝されたユウジロウさんを思い出しながら、筆者である東畑氏が次のように語る文章がある。

 ”僕らはユウジロウさんのことを思い出す。思い出し続ける。思い出されることの多くは、ユウジロウさんに笑わせてもらったときのことだ。それはきっと、ユウジロウさんにケアされたことを思い出すからだと思う。
 さらに言わせてもらうならば、ユウジロウさんを思い出すことそのものによって、僕らはケアされ続ける。月から受け取り続ける。だって、一緒に過ごした記憶そのものに、得がたい懐かしさがあるからだ。
 (中略)
 僕らはユウジロウさんを思い出し続ける。すると、ケアが生じ続ける。だから、今もこうやって、僕は彼のことを思い出して、書いている。”

 ここの部分を読んで改めて、私は友人たちと一緒に過ごした記憶への懐かしさにケアされているんだなと感じた。今は確かにしんどい状況が続いているかもしれない。でも昔あの人とただひたすら馬鹿話で盛り上がったこと。きれいな景色を見に行って美しいものを共有したこと。そうした小さな思い出のかけらの集まりに私は今この時も救われているんだなと思うと、あの時の日常を一緒に築いてくれた仲間たちやあの景色を描いていた自然への感謝がこみ上げてくるように思われる。そんな当たり前のようなことに改めて気付かされた今日この頃の私である。

◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎

 そして、PIECESでは現在、孤立を深め、居場所を探し続けて漂流する若年妊婦が、「にんしん」をきっかけに社会に自分のHOMEを見つけるためにNPO 法⼈ピッコラーレとともにクラウドファンディングを行っています。あらゆる人に小さな日常の小さな安心のかけらを届けるため、今必要な取り組みだと思うので是非応援のほどよろしくお願いいたします。

(引用)東畑開人(2019年)『居るのはつらいよ』第7章、医学書院

今日の担当:中原 亮(Nakahara Ryo)
Twitter:@ryofredrick1
note:Ryo Nakahara


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?