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レックスを選ぶ理由

 春先の日曜日、スバルからレックスまで並ぶデジャブを見る。

これだけ並ぶのもめったにない

 さて、僕がスバルやR-2でなくレックスを選んだのは希少性からではない。そりゃ小荷田さんがレースで使ってたからだよ、なのだが、ホントはどういう車なのか。
 富士重は54年にかけ自社で軽乗用を作った。自工会軽自動車分科会の幹事会社だったのも今は昔のことだ。中でもレックスはState-of-the-artではなく造形もキッチュだが、思い入れの強いff1より気楽に言えるだろう。

企画/造形

 前史を自技会誌1969年12月「スバルR-2のすべて」¹⁾から引用する。

 「スバル360(K11)は昭和33年通産省の国民車構想に応える軽乗用車として誕生以来すでに11年余、その間適切な初期設計と、その後の積み重ねられた幾多の改良により30万台以上の生産および販売を記録し、現在も広くその独特なデザインと使いやすさ、信頼性と耐久性により世に愛されている。
 今般K11とならんでその長期にわたって培った信頼性と耐久性を受けつぎ、いよいよ拡大する青年層への需要にも応え、高速長距離走行にもマッチしえる性能を具備した条件のもとにスバルR2(ママ)(K12)を開発し世に発表することになった。」

 R-2は真面目な製品だが、顧みすれば世の中の流れを捉えられず戦略転換できなかった。では、HEV-BEVは戦略転換点か?捨てる糞切りが出来ない水平対向は重く傾角が大きいため高重心・高モーメントだし、4WDは全く進化せず、安全は既に強みはない。特にADASは過大評価で、衝突安全の方がまだ優位性がある。だのに国営放送でコンピュータ京と共に粉飾ストーリーが放送され、世間に恥の上塗りをしている。彼は衝突安全が造り上げたストーリーに乗じただけで安全なぞ少しも考えていなかった。
 このように転換点での技術の抽斗は空だ。だが、チューニングの才覚はある。設計手法に生物進化の考え方を用いているからで、従来構造をランダムに改変し、偶然の改良を積み重ね最終仕様に辿り着く手法だ。これを生かすべきである。今更AWDのメカニズムを紐解くとか、ADASはバグがあって当たり前とか、そんな質のトップでの挽回は減量するより厳しい。

 在りし日の栄光に戻すべく「幅広い需要層」に応えたのがレックスだ。自技会誌1972年9月「スバルREXについて」²⁾に説明がある。

 「スバル360を受けついで、昭和44年に発表されたスバルR-2は、その耐久性、使いやすさおよび親しみやすいスタイルにより多くの需要層に愛されて今日にいたっている。先般発表されたスバルレックスは、R-2の基本レイアウトを継承しつつ幅広い需要層に応えるべく開発された軽乗用車である。」

 R-2の失敗を造形と断罪し、ハットルームの少ないパッケージングと豪華な内装を売りとした。その「魅力あるスタイル」で4ドアやバン、最後は拡幅し9年間も売り切ったのは見事だ。その後FMCしたFFレックスの造形は偶然にもアルト/フロンテに似ているが、簡潔で素晴らしく見える。

これが1972年当時最先端モードのウェッジライン
こんなにも変わるものなのか
https://www.subaru.jp/onlinemuseum/find/collection/2nd-rex/index.htmlより引用

 今、初代レックスを「カッコいい」という人もいる。僕は、工業製品に対しては機能的な造形にこそ美を感じるから、ハーリー・アールの、趣味性を持つ造形のための造形は性能上、生産上も合理的なそれから逸脱すると思ってしまう。
 佐々木さんが寄稿したスバル技報No.2「スバルREXの車体構造」³⁾の文面にそれが垣間見える。

「・・・外板パネルの張り剛性は、アウタデザイン時のデザイン的要素により左右され、設計時点ではいつも対策という後手にまわることが多く、また張り剛性の要因そのものを定量的には握(ママ)するのがなかなか困難であり、・・・」

 今と同じだ。プレスの形状凍結は型状態にも依存するし、ハードルを乗り越えるからこそイノベーションなのだが、造形指示との乖離は、経営層が会社の開発力や生産技術の実力把握ができていないからである。だからこそ、1956年の「インダストリアルデザインⅥ」に生産技術の章がある。今も同じ愚に陥っているが、造形と企業工業力の乖離を無視したプロセスで、真の工業製品が成立するのだろうか?

原動機

 水冷2サイクルエンジンの歴史は、スバル技報No.3「EK34エンジンの開発経緯」⁴⁾に記載される。EK34はクランクケース、駆動系は空冷共用でシリンダ、ヘッド、エキマニを変え、ファンの代わりにW/Pが付く最小限の変更だ。以下引用するEK34Sの設計方針は中・低速性能・実用性重視である。

<設計方針>(筆者註)
①    高速性能はEK33S(空冷スポーツ)と同等以上とする。
②    EK33より大幅に最大トルクを増す。
③    EK33Sより燃費、低中速加速、騒音を改良
④    チューンアップのしやすいエンジンとする。
⑤    信頼性・耐久性の向上を図ること。(EK33の経験を活かし、その長所を引継ぎ、且つ問題点を改良すること。)
<具体的達成手段の案>(筆者註)
0案:ポートタイミング変更、VCM30。高速は他スポーツに劣る
1案:ポートタイミング変更、36PHH。高速は他スポーツに劣るが、R-2SS並、中低速は向上
2案:ポートタイミング変更、36PHH。高速、中低速は他スポーツと同等
3円:ポートタイミング変更、36PHH。高速は他スポーツに優るが、中低速は劣る

 他車の中低速スカスカ度は知らないが、量産は先述通り1案である。
 軽スポーツの主軸はフロンテクーペ、MAXハードトップ、ミニカスキッパー、ホンダ水冷Zなどパーソナルカーに変わるが、レックスのスポーツ系企画は「振らずに」有意差を中低速に置いた。0案もTSグレードとして商品化したが、カタログ数値上表れない「乗りやすさ」は商売のメリットにならず翌年4サイクルに移行した。経営層は1972年に、2ストでの排ガス規制対応の明言を避けているから既に変更は決定事項だったろう。世の中を読みスポーツ系の短命を察した結果の企画ならまあまあの戦略である。
 他人のヤングやR-2(SS仕様)は回せないから却って乗り難い。R-2SSオーナーが僕のレックスに乗り「すごくパンチがある」コメントはまさに設計の狙い通りである。上は7000rpm位が上限で、もう少し回るといいと思う。
 レックスGSRのパワーユニットは、最終2サイクルとして地に足の着いた堅実なセットである。高出力ポート、ヘッドに合わせクランクが強化され、当時の良心が見える。シリンダは鋳鉄でボーリングが楽だ。また360、R-2と共用部品が多くうれしい。

OH途中のEK34 高性能の証、レッドエンジンだ
掃気、排気タイミングが違う(吸気はセダンと同じ)

シャシ

 レックスのシャシは略R-2と同じなので、レックスを語るにはR-2をよく勉強する必要がある。「スバルR-2について」から引用しよう。

「使用上の容易化に対しては、操縦安定性の改良に重点をおき、フロントおよびリヤホイル走行時アライメント変化の解析を行い、フロントおよびリヤともにセミトレーリングアームを採用し、良路、悪路とも姿勢の安定、旋回時における進路特性の改良を行った。」

 スバル360の操安課題は何か。横転である。前軸のフルトレはロールセンター(R/C)が地面だが、スイングアクスルの後軸はR/Cが高く、ロール軸は極端な前傾だ。旋回で横力が大きい時、リヤを中心にジャッキアップを起こし、重心が持ち上がり横転限界を超える。当時の路面状況では車高を落とせず、Ftロール剛性を高くする手段しかないが、乗り心地上限界がある。
 そのため、R-2では運転者への警告になるロール量を保持しつつ旋回性能を上げられるよう、適度なロールセンターを設定できるサスとして、従来構造を生かしたセミトレを選択した。フロントはスバル360に対しトーションバーの角度変更で済む。リヤはアウターアームとインナーアームを持つ構造で、曲げに強い平板のアームに捩じりを許容させ、かつアクスルシャフトをスライドさせて自然な軌跡を描くことに成功した。標準車のロールセンター高は地面から100~150mm程度で軸は若干前下がりだ。これにより、亀の子に対し横転特性は十分な性能になった。
 さて、R-2のサスに携わったのが最初の配属先の副部長だった。人形町で生まれ育ち「し」と「ひ」が入れ替わる。「あのよー、〇〇君よー」が口癖だ。亡くなって相当経つが、もっと話を聞いておけばよかった。
 閑話休題。「スバルREXについて」からサス説明部を引用する。

「フロントサスペンションはR-2に対し、ばね定数をアップ、トレッドの増加、ピボット部ブッシュの硬度アップによってロール剛性を高め、またセミトレーリングシャフトのインナーハイ角を5°より6°30´に増加させロールセンターをアップし、さらにタイヤコーナリングパワーアップと合わせアンダステヤの度合いを強めた。
 リヤサスペンションはトレッドのみ増加した。いっぽう、舗装率の向上、高速道路網の発達に合わせ、ばね系を硬めにして、ピッチングをおさへ(ママ)乗心地のバランスを計った。」

 GSRは太いスタビ・強化ダンパとし、姿勢を30mm下げている。姿勢公差は±15mmあるのでその位下げないと有意差はない。
 また、全車ホイールリム幅を3.5Dにし、コーナリングパワーを上げた。そのくせタイヤ幅は他車が145なのに135のままである。逆に前後トレッド1145/1125mmは他車比大きい。高速時代の道路環境に合わせ、よりアンダーステア設定にし高速安定度を増している。
 自動車ライターの御託は真似できないが、360軽のくせに全く不安なくコーナーに入れることがこのクルマの成果である。侵入速度の低さがその感覚の原因であるにせよ、ビートの方がよっぽどロールを大きく感じてしまう。多少の突起乗り越しでは突き上げも酷くない。それはストロークの大きいサスと共に、次章で述べる車体の貢献も大きいはずだ。

車体構造

 僕の持論は「車の基本は車体構造だ」である。入社当時、騒音改善は防音材、制振材及びゴムマウントであり、発音体の車体はブラックボックスだった。入社3年目、初代インプレッサの仕事ではベース車のレガシイで発音部を特定し、車体構造を変え発音を最小化しようと取り組んだ。後のレガシイPGMから「ロードノイズはタイヤで直せ、車体で直すな」と散々文句を言われたし、結果的に成功したとは言えない。果てに「車体をやりたいなら衝突へ行け」と異動させられたが、衝突でも同様にロバストの高い車体開発を意識し携わってきた。月日は流れ、あの振騒で自技会で表彰されたことを知り、少しはその遺志が関係したと勝手に思っている。
 レックスがFMCした存在意義は、上物開発での車体改良にある。従来車を超えたコスト、質量と強度剛性の高い両立だ。

<車体構造の方針>(スバル技報No.2「スバルREXの車体構造」³⁾より)
(1)R-2の客室、トランクルーム、ラゲッジシェルフ等のスペースを確保する。
(2)ボデーの主要断面の増強と結合法の合理化により、剛性を増大し振動騒音を改善する。また床回りを増強し、衝突時のキャビン空間を確保する。
(3)基本レイアウトでR-2を継承することにより、ボデー部品の共用化による準工費用の低減と、更にマルチスポット溶接機等の集成設備の使用を考える。
(4)R-2のボデー板組構造をできるだけ踏襲して、開発のロスを少なくし、開発期間の短縮をはかる。
(5)コスト低減を考えてパネルの歩留まり向上をはかり、目標を64%以上とする。

 社内準工メタル質量は120.9kgとあり、Reinfが多くないからほぼボデコン質量と考えてよい。レックスはR-2比+6.6kgであり、ボデコン投影面増加に加え、強度剛性向上策のサイドストラ、ルーフ廻り断面拡大、床断面拡大やRrフレーム追加も要因である。
 この向上策で、ボデコンの曲げ剛性EI=0.95×10⁵kg・m²、捩じり剛性GJ=1.30×10⁵kg・m²/radを得、この値はR-2比各々100%及び30%増加している。+6.6kgでそれだけ向上すれば安いものである。

絶滅したアウタースキンがない構造
前突は荷重を取れないからEA量ゼロだな。
スバル技報No.2「スバルREXの車体構造」³⁾より引用

 明らかに言い過ぎだが、360㏄軽として乗り心地やがたつきはすこぶる良いレベルではないかと思う。他銘と比べてみたい。このように車体構造は正常進化している。縁の下で確り支えている真面目さが真の良心である。その良心も経営層次第である。

 正直、レックスをろくな車ではないと思っていた。だが、スバル360、R-2のパワーユニット、シャシ及び車体構造を正常進化させた車であることを知り、EXデザインすらまともに見えだす、不思議な錯覚に陥っている。

参考文献
1)坪井,正田ほか:スバルR-2について,自動車技術, vol.23, No.12.
2)小暮:スバルREXについて, 自動車技術, vol.26, No.9.
3)佐々木:スバルREXの車体構造, スバル技報, Vol.2.
4)小山, 大西ほか:EK34エンジンの開発経緯, スバル技報, Vol.3
高橋宏知, メカ屋のための脳科学入門, 日刊工業新聞社, 2016
森本他, インダストリアルデザイン Ⅵ, 技報堂,1956
SUBARUオンラインミュージアム 2代目レックスhttps://www.subaru.jp/onlinemuseum/find/collection/2nd-rex/index.html

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