貧困の罪『高橋和巳全集 5』212頁

貧困が必ずしも人間の罪悪ではないことを日浦は知っている。吹き溜りのように、無気力や醜悪さが貧しい地帯に吹きよせられるにしても、その責任の大半は吹きよせた無情の風の側にある。誰だって好きこのんで襤褸をまとっているわけではないだろうし、たまたま衣服が汚れたからといって、その人の心までが汚れているとはかぎらない。頭ではそう考えようとしても、獣的に光る周囲の男たちの目には、どうしようもない嫌悪が起った。そしてまた、きたならしい街を、激しく肩で呼吸しながら案内してゆく見知らぬ女の後ろ姿にも、日浦は抹殺するより方法のない人間の腐敗を見た。
高橋和巳「憂鬱なる党派」『高橋和巳全集 5』212頁

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