人生の峠『高橋和巳全集 5』94頁

「古在や村瀬はともかくも賢明だし、否応なしに賢明にならざるを得ないような仕事に従事しているから、いずれは態度を変えるだろう」と藤堂は続けた。「だが、途中で力尽きて病に倒れた奴や下積みになってしまった男たちは、人生もまた自然のように変化するものだということをすら見抜きそこなう。人生は少なくとも二、三の峠があり、登り坂があり、その転機ごとに装具を変えねばならぬということ自体が我慢がならず、何ものも産み出さない不機嫌さの中に沈みこむことも多いんだな。おれなんぞは初めから堕落しとるから、そういう人間が増えれば、仲間ができるわけで、多少うれしくないこともないがね。岡屋敷の場合なんかは、病気で床にしばりつけられてしまって、変わろうにも変わりようがなかったんだから気の毒だがね」
高橋和巳「憂鬱なる党派」『高橋和巳全集 5』94頁

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