亡者の会議『高橋和巳全集 5』295頁

「ああ、またしても、と彼は思った。彼にとっては、勧誘されることの煩わしさよりも、すしろそれは、いつまでも社会人として自立しえない者たちの見苦しい青春への未練と映った。文章の表面を飾る政治的修辞はどうあれ、一たび瓦解した党派への執着は、権利は要求しても義務はない学生生活への身勝手な未練でなくて何だろう。かつて毎日のように顔をあわせ、文字通り口角泡をとばして憤激しあった誰かれへのイメージが、無限の時間にへだてられた死者たちの回顧のように、彼の眼前にあらわれては消える。重い土壌をかぶせられ、蟻と蛆にその形骸をもむしばまれた死者たち。しかもなお往生できず、こちらの墓地からあちらの廃墟へとさまよう亡霊たち。まこと、もし呼びかけに応じて集まり、互の不遇者面をつきあわせれば、それはすでに灰色の党派ですらなく、むしろ〈亡者の会議〉と名づけるにふさわしいだろう。この呼びかけを起草した古在も、そして岡屋敷も村瀬も藤堂も日浦も、そしてあの青戸の立場ともっとも近しかった西村も・・・・・・。
高橋和巳「憂鬱なる党派」『高橋和巳全集 5』295頁

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