ジェット機の爆音『高橋和巳全集 5』339頁

「だが、それももう私とは関係はない。おれは多分、アメリカの大学の食堂ででも、かつて新聞でインドシナ戦争やハンガリー事件の報道を、ある種の昂奮でもって、しかし結局は自分に関係なきものとして読んだように、それを読むだろう。暮れなずむ残夏の空の蒼と夕焼の紅の交錯を青戸は仰ぎ見、やがて、その同じ空を、海の彼方に向けて飛び去ってゆく自分の姿を想像した。新調の背広に威儀を正し、自分の英語が本当に通ずるかどうか――いや、自分の異国での将来はどんなに孤独だろうかと、ジェット機の爆音の中で考えているだろう自分の姿を。」
高橋和巳「憂鬱なる党派」『高橋和巳全集 5』339頁

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