しあわせはゆれる。
10月15日。
15年間、毎年欠かさず祝い続けてきたキャラクターの誕生日。
忍足侑士、お誕生日おめでとう。
彼とは15年前、「テニスの王子様」に触れたことで初めて出会った。
178cm、A型、関西弁、丸眼鏡。そして何よりも声。わたしは彼に恋をした。
キャラクターに誕生日なるものがあるということに気が付いてから、さまざまなキャラクターに対して、おめでとう、と祝うことを多々してきたのも昔の話で、こと彼に関してはこれまで祝わなかった年はない。
大人になった今でこそケーキ屋さんでホールケーキに"HappyBirthday YUSHI"の文字を入れてもらえるけれど、中学生のなけなしのお小遣いでは300円のコンビニスイーツですら高級品だった。
まあ、キャラクターの誕生日にスイーツを食べる、というのはよく考えればわりと謎の行為である。
わたしの忍足侑士への想いは、また別の日に話すとしよう。
わたしから彼へ祝福を込めて。
彼を思って短編を書いたので、気が向いたらどうぞ。
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「ねえ侑士、明日の夜何食べたい?」
「んー、まだ今日初めての食事中やねんけどなあ」
すっかり身支度を済ませ自分の食器をカチャカチャと洗っている彼女の背にぼそぼそとつっこむ。関西人の性だ。
明日は俺の誕生日。忘れているふりをもう少し続ける。
「今日帰りに買い物行くし。何がいい?」
「んー……スパイスカレー」
「スパイスカレー?食べたいの?侑士が?」
そんなの初めて聞いたよ、とけたけた笑いながらエプロンを外し、洗面所へ移動するついでに俺の寝癖をふわと撫でる。
きっと休憩中に本屋でスパイスカレーのレシピ本を厳選し、帰り道にスーパーで数多のスパイスたちとにらめっこをするだろう。
その姿は容易に想像がつき、とても愛しい。
食事を終えた俺がのろのろと身支度をはじめたころ、ゆーし、と声がする。
「はいはい」
「行ってきます。戸締りしてね」
「ん、行ってらっしゃい」
触れるだけのキスをして、肩の埃を払ってやった。
彼女はやさしく微笑み、俺に背を向ける。
「あ、なあ」
「ん?」
「好きやで」
一瞬キョトンとしたのもつかの間、わたしも、とはにかんでから玄関を出て行った。
リビングへ戻り、彼女の淹れたコーヒーの香りを胸いっぱいに吸い込む。揃いのカップから立ち上る湯気は、ゆらゆらと朝日に照らされている。
これを幸せと呼ばずして何と呼ぼう。
いつまでも続いてほしいと我ながららしからぬことを願い、まずは明日、どんな顔で驚いてやろうかと大きくあくびをした。
2021.10.15 Happy birthday!!
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