オキナワ・バックストリート・ニンジャ

オキナワ南部、ナカグスク・ヴィル海浜地帯。

コンクリート・ビルディングの隙間にのぞく空には、天然の太陽が輝いている。シーサー・ジーマミートーフ工場の煙突から立ち上る有毒な煙は、その美しい空の中へと吸い込まれることなく浄化装置にかけられる。濾過された有毒物質は空路からキョート共和国に運ばれ、アンダーガイオンに投棄される。まさに古事記で予言されたマッポーの世の一側面だ。

焼け付くような紫外線が降り注ぐ中、一人のニンジャが地元企業ビルディング群の屋根を駆けていた。何故この女がニンジャと解るか? それは、彼女がニンジャ装束に身を包んでいるからだけではなく、人を襲い時にはバイオ水牛すら襲う獰猛なバイオヤンバルクイナが、彼女から逃げていくからだ。

ニンジャの名はオキナワバンディット。ソウカイヤのオキナワ方面支部の斥候だ。彼女らはニンジャ・ソウルに憑依され、闇に落ちた者たちである。オキナワバンディットが手にしたものは、常人の3倍近い脚力。だが、その彼女がよもや追っ手に会おうとは、彼女自身ですら予想だにしていなかっただろう。

オキナワバンディットは焦燥していた。何者かが自分をつけ回している。その焦りから、彼女は屋根から目立ちにくい裏路地へと飛び降り、小道を進んでいった。しかし、運悪く道はそこで行き止まりになっていた。

「Wasshoi!」
禍々しくも躍動感のある掛け声とともに、ジーマミートーフ屋の煙突の上からもう1人のニンジャが跳躍した。そのニンジャは体操選手の着地ポーズのように姿勢良く腕を広げたまま、稲妻のような速さで路地裏に飛び降り、オキナワバンディットの退路を塞ぐ。

日陰の中で対峙する2人のニンジャ。彼女らはお互いの中心点を軸にして、円を描くようにじりじりと歩み、間合いをうかがった。
「ドーモ」
 飛び降りたばかりの暗い影が、横歩きを一瞬止めて一礼をした。
「ドーモ」
 オキナワバンディットもこれに答えて一礼をする。

先に正々堂々とアイサツをした女は、動脈血のように赤黒いニンジャ装束をまとっていた。海風がマフラーのようにたなびくぼろ布を揺らして、彼女の口元をあらわにした。赤々と燃える目より下は、金属メンポで覆われ、その両頬には「忍」「殺」の文字が刻まれていた。

そのニンジャは、ゆっくりと、しかし冷徹な声でこう言った。
「ここまでだ、オキナワバンディット=サン。おぬしに逃げ道は無い。観念せよ」
「何故私の名を? 貴様は、もしや、ニンジャスレイヤー=サン!」

オキナワバンディットが驚きとともに声を発した瞬間、気勢とともにニンジャスレイヤーの右腕がムチのようにしなり、目にも止まらぬ速度で2枚のスリケンが射出された。
「イヤーッ!」
「ンアーッ!」
 スリケンがオキナワバンディットの両目に突き刺さる! 両目から血が噴出した!

それでも、オキナワバンディットは素早く三回側転を打ち、トンファーを構えて反撃に転じようとした。

機先を制するように、ニンジャスレイヤーの右腕がムチのようにしなり、目にも止まらぬ速度で2枚のスリケンが射出された。
「イヤーッ!」
「ンアーッ!」
 スリケンがオキナワバンディットの喉元に突き刺さる! 壊れたスプリンクラーのように、喉から血がふき出した!

「待て、私を殺しても組織が貴様を…」
 有無を言わせず、ニンジャスレイヤーの右腕がムチのようにしなり、目にも止まらぬ速度で2枚のスリケンが射出された。
「イヤーッ!」
「ンアーッ!」
 スリケンがオキナワバンディットの股間に突き刺さる!

「洗いざらいしゃべってもらうぞ」ニンジャスレイヤーが近づく。
だが、「…サヨナラ!」 と言い残し、オキナワバンディット=サンは突然爆死したのだ。
 ニンジャスレイヤーは舌打ちする。自爆だ。闇のニンジャ・ソウルは再び海の底に沈み、次なる獲物を狙うことになるだろう。

ニンジャスレイヤーは黒コゲになったオキナワバンディットの胸元から、巻物を取り出した。密書を届ける途中だったのか。 ニンジャスレイヤーは入念な結び目をほどいて、それを開いた。達筆が踊っていた。
『コヨイ ジーマミートーフヤ シウゲキダ』と。(「オキナワ・ソウカイ・シンジケート」に続く)

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