「バカなフリをする」か「バカなことをする」か

グローバルに事業を展開している広告会社には、本当に色々な国の人がいる。とあるテレビCM制作プロジェクトはイギリス人、スペイン人、アメリカ人、ベルギー人、日本人の混成チームだった。

そんなチームで仕事をしていると、ある事に気付いた。当然ながらどんな国にもひょうきんな人とそうでない人がいるのだが、ひょうきんさ、面白い人のあり方が、国によってちょっと違うのだ。

たとえば。夜明けの都内をスーツを着た男性が走り抜ける、という演出の広告で、ロケーション確認中、電車の高架の「最大3.5メートル」という文字がなんかカッコ悪いと言い出す人がいた。それを編集で消すのは大変なので別にいいじゃないか、何がカッコ悪いの?という人もいて、ちょっと空気が険悪になったところで、イギリス人のクリエイティブディレクターが急に深刻そうな顔になってこういった。「ちょっとまって。あのランナーって身長いくつだっけ?」

そこでみんなが爆笑して一気に場がなごんだ。これは非常にイギリス的な笑いのセンスで、「バカな振りをする」というやつだ。ミスター・ビーンなんかその典型だろう。

同じチームで別のテレビCMを撮影したとき。海岸での撮影だったが、カモメが飛んでくるタイミングがあって、それが映りこむと絵として美しい。ただ、当然カモメはコントロールできないので、次に飛んで来るまで待つしかないのだが、あまり待ちすぎると同時に夕暮れどきのマジックアワーも逃してしまう。みんながイライラするなか、アメリカ人の営業担当が大声でカモメの鳴き真似をしてみんなを笑わせた。

これはアメリカ式の笑い、「バカなことをする」だ。ひどい二日酔いの面々がバカなことを繰り返す映画、「ハングオーバー」なんかにそれが象徴されている。

それでは日本はどうか。まあこの両方やハイブリットもあるのだが(それはアメリカやイギリスも同様)、特徴的だと思うのが「バカなことを見つける」とでも表現できるもの。漫才のボケとツッコミがこの典型で、ボケのやったことの面白さをツッコミが抽出する、つまり「バカなことを見つける」のだ。

これは本来は「いとをかし」の精神で、物の奥底に潜む面白さやかわいさ、興味や風情を見透かす日本人特有の繊細な感性の賜物だろう。でもこれは、ともすれば本人にとって不快な「イジリ」に発展しかねない。人の容姿を笑いにする芸は海外では大体不評だが、それはこの「バカなことを見つける」笑いの文化が日本より希薄だからだ。

海外からどう見えるかは置いておいても、嫌な思いをする人がをいるかもしれないなら、わざわざこのタイプの笑いを持ち出さなくても笑いのオプションはある。

バカなふりをしよう!

または、

バカなことをしよう!

おわり

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