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仕事を忘れて聞き入ってしまった半生

フロアを歩いていると ギュッと手を握られる。
「おはようさん」
満面の笑みで車椅子に座っているNさん。
いつもニコニコ笑って、何かにつけ「私あなたの事大好きよ」と言ってくれる。癒しの一時。

リハビリで平行棒を持って歩く度、カンカンと金属音がなる。両手の指には、色々な宝石の指輪が一杯。
「Nさん、素敵な指輪ねー」
「主人が買ってくれてん」と小さく綺麗な高音の声、満面の笑み。
「ご主人に愛されて幸せですね」
うふふふふふっ、と手を口にあてて身をくねらせて照れておられる。
ホッペの横で指を4本たてる。
[何? 4?」
「4人目」
「何が?」
「4人目の主人」
「へっ?」思わず変な声になる。
すごい、宝石より4回の結婚の方が気になるやん!
私の驚く顔を見て 又 ウフフフフッ。
「やっぱりその優しい声、笑顔、笑い声、だからもてるんですね。」
「最初の主人は病死してん、二回目は浮気されてん、三回目の時今の主人と逃げてん。」
「へっ」
いや絶句。
「一回きりー、泣いて過ごしても笑って過ごしても同じ一日なら楽しく笑って生きな損でしょ ウフフフフッ」
と優雅に左手で口を隠して笑わられる。
「いやその通り! でもそんなあけっぴろげにお話されていいの?」
「私の若い頃に似てるねん。」
手をキュッと握ってくれる。冷たくて柔らかい手で握られるとフワッと和らぐ。
有難うございます。でも私、全然もてないし、女らしくないし、ギスギス バタバタ、ゲラゲラなんですが。
「3人目の時、殴られて目の周りが回るくマジックで書いたみたいになってん、不注意で火を出して、主人に殺されると思っていたら一番に駆けつけてくれた今の主人が 一緒に逃げよと言ってくれてん。」
壮絶やん! 目をみはるばかりの私の顔を見て、
ウン ウン とうなづきながらニコニコ。
もっと話したい。 聞きたい。仕事忘れてるし。
バタバタ と横を走っていく先輩社員に気がつく。いやいや色々話を
聞くのも大事。

たまに施設に素晴らしく男前の孫息子が病院に連れて行くと迎えにこられるのを見てとても羨ましく温かい気持ちになったものだけど、色々乗り越えてきはってんなぁとしみじみ。
食堂でぼんやり思いかえしていたら、先輩社員が寄ってきて
「Nさんの昔話聞いた・・・?」
私だけではなく、色んなスタッフにお話しされているようだった。

自分自信の為にいつも笑顔でいると、幸せがやってくる?幸せになるのかも。

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