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一球の記憶〜昭和プロ野球選手の言葉〜


昭和•平成初期のプロ野球をこよなく愛する僕。

最近読んだ『一球の記憶』(宇都宮ミゲル著)は読み応えがあり、昭和プロ野球の素晴らしさを改めて実感できた名著だった。

プロ野球を夢中になって観ていた日々…。

昭和プロ野球選手たちの記憶に残る一球は、昭和プロ野球の名勝負を演出した一球でもあり、プロ野球の歴史を作った一球でもある。

一球を語る選手の言葉に魅了されながら、プロとしての矜持が伝わる言葉を知ることができたのも『一球の記憶』の醍醐味だ。

『一球の記憶』を読み終え、心に残った昭和プロ野球選手たちの言葉を書いてみた。

「打てなければ自分が許せません。だから練習でバットを振るしかない。それを続けるのは苦しいし、しんどい。だけど、四番っていうのはチームで最も打つ打者でなければならない。そして常に一番信頼される選手でなければならないんです」
   【チャプター3 長池徳士 阪急ブレーブス】

「僕がそうやってクイックを盗んでいくでしょう。そうするとエースピッチャーは必ず修正してくるの。兆治(村田兆治)なんかはあの投げ方でしょ?最初はカモにしとったけど、直して、直して、走りづらいよう工夫してきよる。鈴木も東尾(修)もそう。さすがエースやという感じですわ」  【チャプター7 福本豊 阪急ブレーブス】

「スイッチを始めてから私が常に目指していたのは一試合のうちに左右の打席でホームランを打つこと。そして今日、見に来てくれたファンには私の右打席、左打席、二つのホームランを見られて満足したと感じてほしかった。現役時代はそう思ってプレーし続けてきました」
  【チャプター10 松永浩美 阪急ブレーブス】

「良い部分がぐっと伸びていけば、多少、どうかなという部分が残っていてもプロとして続けられる。こう考えるようになったのも、自分が普通じゃなかったということが影響しているかもしれませんね」
  【チャプター14 山口高志 阪急ブレーブス】

「お互い話なんかしないんだけど、阿吽の呼吸というか、分かり合ってた。山田は真っ直ぐでどう抑えるか。門田は私の真っ直ぐをどう打つか。それで二十年もやってきてる。ノーアウト満塁、ノースリーから打ちにきますからね(笑)。そういう打者とのしのぎ合いがいいんですよ、プロなんですよそれが。だから打たれても天晴れという感じですがすがしい」
  【チャプター17 山田久志 阪急ブレーブス】

「長嶋(茂雄)さん、王さんだってとにかく振ってた。落合が引退間際に、自分の練習量を超える選手はいないと言っていたけど、本当にそう。天才っていうのは生まれついての能力っていうより、とにかく一つのことをやり続ける、実行するっていう人だよね」
 【チャプター19 竹之内雅史 阪神タイガース】

「エースと呼ばれる選手は怪我しちゃいけないし、休んでもいけない。そして、登板したら最後まで投げると。二、三年でエースの座から落ちてしまうっていうのは、果たしてエースなのかどうか疑問ですよね、やっぱり」
   【チャプター21 東尾修 西武ライオンズ】

「野村(克也)さんが監督だった時にね、なんで大事な場面でいつも自分を使ってくれるのかって聞いたことがあるんですよ。するとね、『結果は関係ない。ただお前が打席に立って、必死になっている姿を若手に見てほしいからだ』と。僕は褒められるのがあまり好きじゃないんだけど、野村さんのその言葉はやっぱり嬉しかったですよね」
【チャプター28 八重樫幸雄 ヤクルトスワローズ】

「マウンドに登る時は冷静ではいられません。あそこはおっかない場所ですから。テレビ、ラジオがあって皆さんが注目している。そんな時、普通の精神では投げられないはずなんですが、あの場所では興奮状態でもまたダメなんです」
  【チャプター30 江川卓 読売ジャイアンツ】

「僕も江川も、二人だけにしかできない野球を作っているという自負はありましたよね。やっぱり四番打者やエースは、勝敗を超えてファンに見せなければいけないものがあるでしょう。もちろんチームが勝つためだけにやってるんだけど、それ以上のワガママな部分。昭和の時代というのはそれを許してくれたし、ファンもそういうワガママな野球に期待していたわけですよね」
  【チャプター31 掛布雅之 阪神タイガース】

「山口の時だけはバット、変えたよね。バットを変えるっていうのは、握り。こぶし一握り分、バットを短く持った。俺にとっては最高の侮辱。この握りを上げさせるっていうのはもうそれで打者として負けたようなもん。あれだけはっきり握りを上げたのは山口高志の時だけ。もう、この握りにすごい戦いがあるから」
  【チャプター33 栗橋茂 近鉄バファローズ】

「どうも日本のプロ野球はこぢんまりしてきてるような気がしますよね。ノーアウト一、二塁になるとほとんどがバントじゃないですか。そういう場面ではスタンドからも『しっかり送れ〜、だ〜れ、誰』なんて応援の歌が聞こえてくる(笑)。本当に、これってプロ野球なんですかと僕はおもっちゃう」
   【チャプター34 宇野勝 中日ドラゴンズ】

四番打者とは、エースとは、ライバルとは、勝負とは、つまるところ昭和プロ野球とはどんなものであったかがわかる珠玉の言葉だ。

子供のころ、球場で生で観たプロ野球選手は気安く声かけるなんてとてもできない雰囲気で、はっきり言って怖かった。

当時の僕が知りたかったこと。

一流のプロ野球選手が何を考え、どんな気持ちで野球、チーム、ライバルと向き合っていたのか。

その答えはこの本に書かれていた。

それは昭和プロ野球の魅力そのものだった。


昨今の来場者プレゼントや球場グルメも結構だが、松永浩美さんのプレーに対するプライドと考え方こそファンサービスだと思う。

山田久志さんの言葉からは、ライバル門田博光さんとの関係性、チームの勝敗を超えた、己のプライドを賭けた勝負の素晴らしさが伝わる。
山田さんのサブマリン投法は美しかった。
門田さんのフルスイングも同じくらい美しかった。

八重樫幸雄さんの言葉からは野村監督と選手の信頼関係を垣間見たようで、何度読んでも胸が熱くなる。野村ヤクルトが強いチームになれた理由がわかった気がする。

江川卓さんと掛布雅之のチャプターが続いてるっていうだけで、もう堪らない。
このお二人もまた、チームの勝敗を超えた勝負をしていたのだ。

ワガママな野球を期待していたファン

なんて素敵な響きだろう。

僕もそのひとりだった。

だからワガママな野球を見せてもらえた幸せを噛み締めながら読んだ。

僕が今のプロ野球を観なくなった理由のひとつは宇野勝さんの言葉にある。


書き出すときりがないので、僕の思いはこのへんにさせていただく。

最後に、

『一球の記憶』には『あの選手が最も輝いた時代  そのシーズンを振り返る』という特別付録がついている。
著者の宇都宮ミゲルさんが総合的に検討し選出したメンバーがダイヤモンド上に記載されたもので、宇都宮さんの解説つき。

宇都宮さん選出メンバーと解説は、昭和プロ野球マニアの視点と愛に溢れていると感じる。

僕は『1985年の中日ドラゴンズと宇野勝』が好きだ。

宇都宮ミゲルさん、素晴らしい本をありがとうございました。読めてよかったです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

               ピアニカたろう










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