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【PFFアワード2024】セレクション・メンバーおすすめ3作品《♯01木村奈緒》

PFFアワードのセレクション・メンバーの仕事は大変だ。約4ヶ月の審査期間は、毎日映画を観なければならない。毎日映画を観るのが仕事だなんて娯楽のように聞こえるが、どの作品も誰かの渾身の一本なのである。観ていてうっかり寝ちゃったとか、考え事しちゃってたとかはあってはならない。ぼんやり観れないから、エネルギーが要る。審査会議までに観終えなければならないというプレッシャーがのしかかり、うかつに出歩けない。

『松坂さん』

ならば私の人生にPFFがなければ良かったかと言うと、まったくそうは思わない。むしろPFFがなかったら、今頃どんなに(精神的に)貧しい人生だったかと思う。なぜか。そこに映画があるということは、同じ数だけつくり手がいる。つまり、私は映画を通してそれらの人と出会ってきたのだ。つくり手たちに連れられて、私は行ったことのない場所に行き、知らなかったことを知り、笑ったり、泣いたり、驚いたりした。これらの時間がなかったら、私の人生は、はるかに退屈なものだったと思う。
 
前置きが長くなったが、これを読んでいる人にも、その「出会い」を体験してもらいたい。そこで私からは「人と人が関わることの歓び」を感じられる3作品を紹介する。

畔柳太陽監督『松坂さん』は、不器用な主人公・木嶋と、人付き合いが苦手な松坂さんの出会いをとおして、他者と関わることの根源的な歓びを描いた一作だ。人と関わるのは面倒くさいし傷つくのは嫌だ。だけど、他者との関わりの中でしか自分も変化しない。人は変われるということは、生きるうえでの大きな希望だと私は思う。
 

『季節のない愛』

ノゾミとヨリコ、ふたりの女性の再会を描いた中里有希監督『季節のない愛』は、映画を通して「あり得たかもしれない現実」を形にする。過ぎ去ってしまった時間は取り戻せない。現実世界で「あの時こうしていれば」は、かなわない。でも映画でなら、それが可能かもしれない。ふたりの間に確かに流れる時間の先に訪れるラストを体感してほしい。
 
尾関彩羽監督『よそのくに』は、人と人だけでなく、世界のあらゆる要素が呼応し、響き合っていることを描く。私たちは揺れる葉っぱを見て吹き渡る風を感じ、波音を聞いて打ち寄せる波の大きさを思う。目で見て耳で聞くだけでなく、目で感じ、耳/音で見るのだ。自分という世界と、他者という世界、遠く果てまで広がる世界が呼応するダイナミズムをミニマムな手法で描いた圧倒的な9分間。

『よそのくに』

さて、私はPFFアワードを通して人生が豊かになったと書いた。でもそれはたくさんの映画を観た私だけが得をしたのであり、つくり手にはその豊かさが還元されていないのではないかという疑念が生じる。映画をつくることそのものにも歓びはあるはずだが、映画を通して見も知らぬ人たち=観客と出会えることにこそ、映画をつくる歓びがあるのではないか。だから、一人でも多くの人にPFFアワードの作品を観てもらいたい。劇場に行けば、やっぱりそこには他者と関わる歓びがあるはずだ。

セレクション・メンバー:木村奈緒(ライター/美術学校スタッフ)

「第46回ぴあフィルムフェスティバル2024」
日程:9月7日(土)~21日(土)
会場:国立映画アーカイブ ※月曜休館

「ぴあフィルムフェスティバル in 京都2024」
日程:11月9日(土)~17日(日)
会場:京都文化博物館 ※月曜休館

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