生き抜いた後だから、"夢"を語りたい(映画『ヒーリングっど♥プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!』感想)



 映画『ヒーリングっど♥プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!』を見てきた。
本作はその感想記事であるため当然ネタバレをしていく。
まだ見られていない方はご注意されたし。

概要的な話

 本作はヒーリングっど♥プリキュア初のメインタイトル映画である。
コロナウイルスの影響で映画の公開スケジュールがずれたことにより本編最終回後にメインタイトル映画公開となった初めての作品である。
そのためかこれまでの作品に観られなかった試みが多数盛り込まれている。例えば公開時の現行作品であるトロピカル〜ジュ!プリキュアの短編作品の同時上映。
そしてゆめのまち本編ではテレビ放送から実に11年が経過するYes!プリキュア5GoGo!とのクロスオーバー が描かれている。
このクロスオーバーに関しては公開2週目から副音声としてボイスドラマ が楽しめるという新たな挑戦もしている。 副音声に関しては公式からのアナウンスで2回目以降の鑑賞に楽しむのがおすすめとされている。
 今回の記事は通常鑑賞を一度した上での記事となっている(つまり副音声版は未観賞)。 そのため副音声を見た方からすれば違和感のある記事になる可能性があるのだが、この点もご注意されたい。
ネット上の評判では副音声ボイスドラマかなり完成度が高いとのことだが時間の都合上観賞できない可能性が高い……プリキュア5好きとしては痛い。
だが、ある種のストレートな感想を残すことにはそれなりの意義……まぁ自己満足ともいえるが、そういうのはあると思うのでそういうつもりで読んで頂けたら幸いである。
まぁ、恐らくソフトで販売された際の特典になると予想しているので、何らかの形で副音声版を鑑賞した際改めて別の記事を投稿する可能性もあるとだけ言っておこう。

では本編の話に入っていこう。
本作はのどかの母親やすこの引率でのどか、ちゆ、ひなた、アスミ、そしてパートナーのヒーリングアニマルたちが東京に行くところから物語が始まる。それは東京で流行している夢を実体化できるシステム「ゆめアール」を体験するため。
その過程でのどか達は、ゆめあーるプリンセスのカグヤ 、その母親でゆめアールを開発した我修院サレナ謎のエゴエゴ、そしてプリキュア5と出会い戦いに巻き込まれていくというのが本筋だ。

構造を読む

 映画のストーリーはカグヤと母親サレナの親子愛が物語の中核になっている。
彼女たちの真実や思惑が明らかになる度に物語の盤上がひっくり返って行く 入り組んだシナリオ構造になっていると言える。
また既存キャラで言えばのどかの母・やすこの活躍、娘のどかがまだ病弱だった頃に二人で結んだ約束が映画の大きな幹を為している。
この二つの親子の描写で、この作品が親子関係に焦点を置いた物語だと分かりやすくなっている。
敵であるエゴエゴもサレナがカグヤのためにビョーゲンズを改造して作った生命体だと中盤明かされるが、この対比を念頭においてみると興味深い。 
ビョーゲンズに接触した結果苦しみながらもそれを討ち倒した花寺親子とビョーゲンズを利用してでも自身(母親)の願いを叶えようとするカグヤとサレナ親子の対比……最終回後だからこそ見せることができる構造ではないだろうか。
 だがあまりにも情報量が多いため1時間弱のに尺に収まり切っていない印象も受ける。
ゆめアールを作った目的=世界の幸福を願う親子の夢、だが親子には血の繋がりがない、実は妖精だったカグヤの寿命問題を知りサレナが変質していった……と情報が小出し小出しにされ、その都度頭の中で整理するし感情を分かろうとするがなかなか追いつかないと思った。その点は少し残念である。

プリキュア5という必然性


 だが本作はそのマイナスを帳消しにしても余りあるほどの加点ポイントが多いことも確かである
一つはアクションシーンの力の入れようだ。激しい打ち込みとチーム連携で見せるプリキュア5との共演なので格闘には元々期待をしていたが、これを魅せる魅せる。
中盤ではヒーリングアニマルとの合体で生まれるパートナーフォーム、終盤ではその名の通りキュアグレースとキュアドリームのコラボレーションであるドリームキュアグレース、 キュアグレースのカグヤフォームと映画専用フォームをマシンガンのような勢いで打ち込んでくる。こうしたアクションの詰め込みは前述した尺調整の悪さを一部助長し、カオス化させているようにも思えたが見応え満点である。
 もう一つはキーワードである夢の描き込みだ。
親子で紡ぐもの、生きている自分が得た目標、かつてできなかったことをして得られる時間、他人を思って初めて明確化するもの、その裏返しにある身勝手さ……映画を通して、多種多様な夢を語っているのだ。
そして他者と繋がることで出来ることが出来る夢の形の提唱、それはプリキュア5が2年間かけて伝えてきたそれと同一に思えた。
しつこいようだが私は副音声版を見たり聞いたりしていない。ノーマルな公開版を見た時にプリキュア5の存在は明らかに浮いているし、出番も少ない。
 しかしテーマ的に見ればプリキュア5が合流する必然性はそれなりにあったと思う。
そしてそれは敵エゴエゴのあり方からも窺える。
彼は最初はサレナに従順な存在として描かれていたが、娘を思うがあまり暴君的な振る舞いも辞さないかセレナの傲慢さと横暴に嫌気が刺し、反旗を翻すこととなる。
一番強い自分がこの世で一番であるために、自分の行動は全て自分の利益のために。
それは自分を守るために、でもあるのだと思う。
元は誰にもある陽の部分(この場合は娘を想う心)から生まれた執念とプライドで身を固める姿ーーそれはかつてプリキュア5と戦ったナイトメアやエターナルらの幹部を彷彿とさせるのだ。
エゴエゴの声優を演じるのが、両組織の幹部でありながら最終的に組織と袂を分かったブンビー役の高木渉氏というのも妙技であろう。

夢と他人と……

 表裏一体の夢とエゴ、その熾烈な激突の果てにヒーリングっど♥プリキュアとプリキュア5は勝利し、浄化するがかぐやは実態を失いかける。
奪われた人々に夢を返し、そしてその夢を守るために彼女は犠牲になるーー

 私は彼女が死ぬと思っていた。助かるビジョンが浮かばなかったのだ。
それはそこかしこに死という言葉とイメージが広がっていたヒープリのテレビシリーズの延長線と捉えていたからだろうか。
 しかし、次の場面で私は思わず涙を流してしまった。
 グレースの呼びかけによりカグヤに人々の夢の力が集まり、彼女は消えずに済むのだ
奇跡が起きた、いや違う。
全く見ず知らずの誰かのためにその願いのために 人 はその力を使うことができる。 元々サレナはカグヤを生き永らえさせるため、理不尽に人々とその夢を巻き込む身勝手な計画を立てていたがその必要はなかったのだ(遡れば、映画冒頭でプリキュアの力を借りようとしなかったカグヤの姿も被ってくる)。
自分一人じゃないこの世界 、他者と生きることを知っている人間は輝ける夢で他者と繋がることが出来たのだ。
やや飛躍した綺麗事的なものの見方かもしれないが、この暖かさに号泣してしまったのである。

もう一つの終わり

 親子、友達、パートナーあるいは敵味方、様々な形で人と人との繋がりを描いてきたヒープリの物語の帰結に相応しい作品だったと思う。
テレビシリーズ本編はsurvive、自己の生存などに重きを置いたとてもシリアスなもので賛否が分かれた印象がある。
私はやや肯定寄りだがそれでも 思うところがあるという意見がよく分かる(強烈なテーマへの賛否だけでなく、例年に比べて1か月分の尺短縮も要因だと思われるが)。 公開時期的にそうしたことを 念頭において見ざるを得ない部分もあるのだが、結果的にそれが良い相乗効果を発揮したとも思っている。対比的かあるいは補完なのか、ifの最終回と思う人もいるのではないか。
 個人的には愚かしいかもしれない、どこかで負けそうになるかもしれない それでも負けないために生き続ける戦い続けるという選択をした後だからこそ本作での夢を語る物語がスッと心に入ってくる気がする。
少なからず偶然性もあるがコロナという時代を含めて生きることを語ったヒープリ。その壮絶な時代の後には夢を語り、繋がれる時よあれ。そのような願いを感じる。
生きたい、生きていてくれてありがとう……物語がカグヤの誕生日にて幕を閉めるのもまた本作が生きることの肯定を描いたヒープリ、そのもう一つの最終回として見られることを意識したのであろうと思う。
ここまで記せば察しが付くだろうが、私はこの映画をプリキュア史に残るトップクラスの傑作だと評価したい。
ここまで読み進められた方は9割9分観賞済みだと思われるが、まだという方がいたら是非とも劇場に足を運んでほしい。


少しだけ小話をしたい。


カグヤとセレナ親子を繋ぐキーアイテムとして登場した竹取物語。実はこれ、今回共演したプリキュア5(厳密には5GoGoの)38話「二人の力! ドリーム & ローズ!」でもお話のモチーフに取り入れられている
それは竹取物語のかぐや姫に自分やココたちの異邦人性を重ねるくるみとそれを気にしない無邪気な姿勢ののぞみの意見が衝突するというものだ。
今回の映画でそれが共通点が意識されていたのかは不明だが(竹取物語の引用では下手なやり方なので)こうした点から深読み出来るのもまた歴史ある作品の楽しみ方の一つだろう。

トロプリ

そして映画の締めを飾るのが同時上映のトロプリ短編正式名称映画トロピカル〜ジュ!プリキュア プチ とびこめ!コラボ♡ダンスパーティ!である。
上映時間は約5分。
シナリオはと言うと……
ヒープリ組からお誘いを受けたダンスパーティーへ向かう一行。その開始時刻は今から3分後。急行するその途中で思わぬハプニングが…
 映画の締めを飾る合同ダンスに参加させるため、というある種の事情をそのままシナリオ化とも言える思い切りの良さが功を奏し、ノリのいいトロプリの軽快なアクションを存分に堪能できる単作として仕上がったと言ってもいいだろう。
公開日にはまだ登場していない9話パパイヤ及びキュアフラミンゴがフライング参戦しているのも特徴だが、妖精枠とみられるくるるんは未参戦である。 となるとくるるんの本編での登場はまだしばらく先かと推測したくなるが、答え合わせはもう少しで出来るだろう。

イレギュラーにレギュラーを重ねた映画枠となったが全体的に満足できる構成だったと思う。これが新しいテンプレートへとなっていくのかあるいはこれをたたき台にしてまた違うものが出来上がっていくのかわからないが、ラスト告知されたトロプリ映画に期待したいところである。


なお 今回の記事では 音声入力した文章を下書きにし構成再編集するという 新しい手法を試している それを踏まえて上になった点などがあればコメントなどで指摘していただけるとありがたい。

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