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「次亜塩素酸」と「次亜塩素酸ナトリウム」の違いについて

投稿 2020年4月15日 / 追記 2020年5月29日

先日、新型コロナウイルスに対する消毒方法に関し、NITEにて下記3品目の有効性評価を実施する旨が経産省から発表されました。(2020年4月15日)

・界面活性剤(台所用洗剤等)
・次亜塩素酸水(電気分解法で生成したもの)
・第4級アンモニウム塩

中でも「次亜塩素酸水(電解法によるもの)」については、すでに電解装置を導入して近隣住民に配布している自治体もあるため「微酸性電解水」等の名称で知られつつあります。次亜塩素酸水自体は以前から歯科や食品向けの消毒用途で使用されているものですが、厚生労働省から正式に消毒薬として認可されている「次亜塩素酸ナトリウム水溶液」と名前が似ているため、何が違うのかと尋ねられることがあったので、この機会にまとめておくことにしました。基本的に、この2つは主成分の構造は似ているものの、製品液剤の物性が異なるため、扱い方、注意すべき危険性も違いがあります。

次亜塩素酸の特徴

成分名:次亜塩素酸
化学式:HOCl (組成式表記ではHClOとも)
pH:5~6.5 (微酸性)
濃度:0.001~0.008% (10~80ppm)
殺菌原理:主に塩素の強い酸化作用による。細菌やウイルスの最外層にあるタンパク質や脂質成分を変性あるいは分解することで、不活性化する。
メリット:濃度が低いこと及び液体のpHが微酸性であることから、肌への刺激が弱く臭気もほとんどない。
※ただし有機物汚染が多いと、その酸化に塩素が消費されてしまい効果が減弱するため、ある程度汚れを取った面への利用が好ましく、さらに十分な液量が必要とされる。通常の手指清拭の補助的な使い方を想定していると見られる。
デメリット:次亜塩素酸の分子は反応性が高く不安定なため、熱や紫外線で容易に分解し酸化力を失う。1週間以上の長期保管が難しいため、HClOの強い酸化力を維持したまま、広く流通できるボトル製品等にすることは難しい。
その他情報:消毒薬としての認可なし。
使用方法の例:器具、物品類の清拭。
基本的には物の消毒用。手指は非推奨だが濃度次第。
使用方法を含め、常に最新情報を確認のこと

次亜塩素酸ナトリウムの特徴

成分名:次亜塩素酸ナトリウム
化学式:NaClO
pH:12~13 (強アルカリ性、危険)
濃度:6% (ハイターやピューラックスなどの製品)
殺菌原理:主に次亜塩素酸イオン(ClO-)の酸化作用による。不活性化の原理は同上。
メリット:入手が容易、布などの表面積の大きなものも含浸にて消毒が可能。
デメリット:強いアルカリ性により肌・物品を腐食する危険性あり。市販されている原液はいずれも濃度が高いため、希釈操作・濃度管理の知識がない人が扱うと薬傷等の事故のおそれ。強酸性液体と混合すると、有毒な塩素ガス(Cl2)を発生して人体に有害(いわゆる「混ぜるな危険」)。
強い臭気がある。(分解による僅かな塩素、およびアンモニアと次亜塩素酸イオンが反応することによって生じる化合物「クロラミン」の臭い。いわゆるプールの臭いはクロラミン類に起因)
その他情報:消毒薬として認可。
使用方法の例:布や器具などの浸漬消毒。希釈した状態でも手指の消毒、噴霧は推奨されていない。
例:花王ハイターHP(https://www.kao.com/jp/soudan/topics/topics_110.html)
手指は不可。物の消毒のみ。

比較

有効成分の酸化力については
  次亜塩素酸(HClO)> 次亜塩素酸イオン(ClO-)
と次亜塩素酸のほうが強いため、低濃度・弱酸性という安全性も鑑みると次亜塩素酸が性能的には優れているように見えますが、保管安定性が悪いのと濃度が低いため、保存・使い方を誤ると効果が期待できません。
次亜塩素酸水(微酸性電解水)は低濃度のため刺激性が低く手指の洗浄や器具清拭への利用が検討されていますが、汚れを十分に除去した上で、十分な量を用いるなど使用方法への理解が必要です。なお、加湿器に入れるなど継続的に空間に充満させるような形での噴霧は濃度によらず推奨できません。(一時的な皮膚接触と、慢性的な吸引では曝露量と経路が異なるため)いずれにしても安全性の評価結果を注意深く読む必要があります。
次亜塩素酸ナトリウムは勿論(希釈したとしても)噴霧利用は禁止です。(そもそもアルカリミストはちょっと吸うとむせるので、そのような作業は継続できないと思いますが。)器具の清拭などの場合も、表面にアルカリ成分が微量残るため、拭いた後に水拭き、さらに乾拭きを行う方法が推奨されています。

ご注意

各消毒手法の有効性、正しい使用方法等に関する情報は、専門の保険・衛生機関や国から発表される最新情報を常にご参照ください。

次亜塩素酸と次亜塩素酸ナトリウムのどちらを指しているのか分からない、あるいは化合物の名前だけで、安全/危険と断定する表現を見かけます。どんな曝露量・使い方でも安全、などという化合物は基本無いので、注意して閲覧されることをおすすめします。


<追記>2020.5.29

経産省から、次亜塩素酸水の空間噴霧に関して、WHOとCDCの見解を引用した「ファクトシート」が公開されていますので、ご確認ください。
https://www.meti.go.jp/press/2020/05/20200529005/20200529005-3.pdf
WHOもCDCも、次亜塩素酸水※の空間噴霧は危険性があるので推奨していません。
※次亜塩素酸ナトリウムについては見解がありませんが、上述の通りアルカリ性と酸化力が強いため、もちろん空間噴霧も肌接触もNGです。




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