実録・”市場を造った男達、(上)”


#創作大賞2024
*:お断り、ノンフィクションベースの記載で氏名等変更しています。
3.11及び日本の地震被災地に本作品を捧げます。

1976年
就職間もない先輩より借りた四メリ・スカイラインGLを国道沿いのガソリンスタンドで燃料補給、料金支払いセルモーターを再度回す。
「シャコタンの何がいいのかなあ・・・?」
シャコタンとは車のスプリングをカットしたり、当時は流行した板羽根式リアサスペンションを逆に付けて車体落とす、ローダウンの事である。
「胃潰瘍になりそうだ、借り物だから事故らないよう急ごう」
一人呟く松田幸雄は山岳部へと消える。

「親父、いたか?」
「何だ幸男?その車は・・・」
松田の父、源三は怪訝そうな表情で見つめる。車体低くおまけに地元ナンバーではない。
「いつから暴走族になった?」
「違うって借り物、大学時代の先輩から」。
草刈り鎌を片手に憤る源三へ頭垂れそして話す。
「アルバイト抜け出して来たから汽車では来れなくて、俺ね就職先を今アルバイトしている所にしようと思っているのだけど」。
呆れ半分にたばこに火をつけた源三が尋ねた。
「福島の小さい農村部、しかもお前はばっち(末っ子)。好きなことをすればいい、外国の航空会社だか何だかは知らんがな」。
「何でそこまで知ってる?」
実は水天宮のアルバイト先近くへ源三の義理妹が住んでおり、バイト遅く帰宅出来ない時に息子が転がり込むのを事前につかんでいた。
「それとなあ・・・」
息子が借りて乗ってきた車に目を配り答える。
「すぐに車高を戻せ、しかもエンジンがふけておらん!」
「けどよお、借り物だぜ」
「アホ!、お前なあ免許取り消しになって良いのか」。
怒鳴ると怖い親父へ逆らえずじまいでいた、車を普通にして戻すとそれはそれで悲惨なものである。

              *
春爛漫も経過した時、正式にアルバイト勤務先が正社員としての勤務先となった。所が部署が異なる、航空会社なのに貨物扱う部署へ配属になり左右判らず本当に困り果てた。
「おっとその前に大切、ライバル他社といえどもいざと言う時は助け合う仲だから挨拶廻りをしないと」。
松田は配属してすぐ出来立て名刺持参で各地を回った、そこへは最強ライバル会社もいる。
「同業先輩からも伺っていたけど日本の会社が最大ライバルではないか、
やはりここは別格なんだ・・・」
考え事をしていると肩を握られた、振り返ると大柄な紳士にスレンダーな美女が立っている。
「よう元気そうだな?正社員デビューと聴いたぜ」
「貴方様は・・・?」
「俺か?ここの責任者、チャーリーと呼んでくれ。じゃあまたな。詳しくは彼女へ聴けよ」。
後ろ姿を見て思わずカッコイイと言いたくなった松田。
「初めまして、私は三河です」
「あっ、すいませんこちらこそ」。
日本的な名刺交換が開始される。
「あのう、チャーリーさんって日本人ですよね?」
「そうよ。いわゆるあだ名、ヘネシーをすく空にしてビジネスで儲けて
チャラにする方だから。お酒が強くないと彼とは付き合えないわよ」。
元国際線乗務員より地上職勤務になった、三河文江が悪戯っぽく笑う。
「僕も頑張らないといけないな」
「大丈夫。貴方の会社には私達女性の憧れ存在でもある方がいますよ」。
「・・・?」
またも謎へ包まれたかの気分になった所で無線が入り松田の挨拶廻りはひとまず終える、そこから三年程貨物業務と旅客業務を兼務し晴れて日本の玄関である成田空港転勤へと至る。

               *

 蒸し暑い夏の続く東京以上に大阪の下町は暑かった、ボロアパート改造したかのようなお世辞にも事務所とは呼べないような所に彼はいた。
「エミちゃん、今夜も残業を頼めるかなすまんね?」
「いいですよ。それよりクーラー欲しいです店長この暑さは」
「ああ、クーラーねえ・・・」
持っていたボールペンを止めて片岡源次は電車の通過する姿を見つめる、西日が入り部屋はより厳しい暑さを増す。
「大手を辞めなかったらこんな苦労無かった、けど・・・」。
片岡はそれまで日本屈指の大手旅行代理店へいた、しかしどうしてもお客様本位の商売が出来ない現実に我慢出来ずエリートコース捨てて退職しこれには大手銀行支店長の実父からも反感買う羽目になる。
「今は自分を信じるしか無いんだよなあ今は・・・」
左手には大量の紙切れがある、数十人の社員動員し手書き対応せぬ限り不可能な日本で非公認の格安航空券。
「これさえ世間から認められたら皆が幸せになれるのに・・・」
売れない格安航空券は不良債権という爆弾同然の危険な商品で尚且つ日本政府がガンとして公認させていないものだつた、仕入れから何から高いリスク伴う、それでも片岡は継続したかった理由がある。
”庶民が気軽に海外旅行を出来ない国は先進諸国で日本のみの汚名返上”
 求人広告も満足と出せない片岡の所へやってきた応募者こそ実務経験大手であった広田恵美、バツイチで底抜けに明るいが妥協しないファィタータイプ。広田もまた元勤務先上司の無知さへ呆れて退職、それがキッカケで離婚のシングル・マザーとなる。
パソコンも満足にない時代、モノクロモニターのPC画面眺め時には海外のサイトを見る。
「日本は本当にこうしたネット分野遅れていますね」。
「そうなんだよ、アメリカより二十年は遅れているかな?」。
「店長凄い、何で知っているんです?」。
「僕の業務ライセンスは大半が向こうで取得だから」。
日本における法外費用、嘘みたいに長い歳月を費やす位なら北米でのライセンスはIATA(国際旅客協会)あるカナダ・モントリオールに依頼なら90日待つのみで費用は高くてUS7.000ドル程度で済む、日本の異常さ(国際的に使えない資格、勤続十年以上同一旅行代理店勤務が取得条件等)は国際常識へ通用しないものなのに。

 クーラー設置話を聴いて帰宅が深夜0時近くの片岡は妻の真澄が待っていた、実家も近いことに加え誕生間もない子供を考慮しての再スタートに関西を選んだのである。
「何とかしてやりたいなあ・・・」
「どうかしたの?」
ビールを飲み干した片岡が続けた。
「エミちゃんにさ、クーラー事務所に欲しいと言われてね」。
頭をかいてぼんやりする夫にひとこと。
「大切な貴方の部下なのです、用意すべきでしょ違う?」
「けど費用が・・・?」
「一国一城の主が言い訳したら社員が逃げます、設置は明日の午後でいいですね」。
毅然として真澄は言い切った、時にこの強気さへ片岡はほれ込み学生結婚した仲であった。
「わが社の本当の社長は女房だなあ・・・」。
テレビの野球ニュース見つめながら片岡が呟いた・・・。

         ”辞令と出世”

業界へ慣れた八年目の松田には美千代との間に長男が誕生、一年後は長女も誕生という順風な日々でいた。ある日ランチタイムの頃の事。
「松田さん、チャーリーさんから昼飯でもご一緒しませんか?の伝言
来ていますがどうされます?」。
「嬉しいね、いつもの場所で12:30分に。俺は今日ナイト(夜勤)だからと伝えてよ」。
エアーライン・クルー集う場所へ一足早くチャーリーが椅子を陣取る、彼の部下達もいる。乗客側には奇妙と見える光景もこれでさえ実は身内行動なのは知られていない。
「よう元気そうだな、お子さんはどうだい?」。
「いやあ、休日は寝ていられないですよ」
コーヒーで完敗の後に好みなメニューを頼む。
「なあ今日は真剣な話あるんだ」。
「どうされました?」。
もしも?という予想が松田の頭をよぎる、旅客大型輸送に伴う二重予約に加えた多くの空席へ各社が苦しんでいた。対応したくても運賃認可制度の日本では救いようないからである。
「今日、うちでも一本をキャンセル予定だんだ。松田さん所は?」
「実はうちもダブル・ディリー(一日・二本就航便路線)を同じ方向にて調整しています」。
「やはりなあ・・・」。
チャーリー今岡は頭を抱えた。
「あのう、ライバル社に手の内教えて良いのですか?」。
「馬鹿だねえ君は・・・」
新人社員へ旅客部ベテラン、光岡雄一のお叱りが飛ぶ。
「俺たち外資系は飛ばない時、お互い助け合わないとお客様が泣くぞ知らんのか?」。
「はっ、はあ・・・」
新人の田中浩司がポカンとする所を松田が伝える。
「これね、あるお客様より教わった事なのね。私達が協力しないと最後は日本から出国する場合は日本の航空会社へ助け求めるでしょ違う?そこが重要なのだよって」。
「そうか、マイレージ・プログラムとかいろいろ・・・」。
「まあね」。
細かくあるが新人への説明はこの場で割愛と松田はあえてしなかった。
「で、うちのキャンセル便の乗客をそちらのどこで拾える?逆にそちらのキャンセル便をうちのどれで拾う?」。
専門用語が飛び交う中で会話が行われ、その後に持ち帰った各社公式ブリーフィンク採用される。国際空港でのフライト・キャンセルの裏舞台にはこのような”乗客がチェックインカウンターで騒いで係員に土下座要求して解決するような低俗レヴェルではない高度なビジネス&政治的判断を空港という現場で行う時がある”。
 ハンドリング終えた頃、東京支店オフィスよりファックス。深夜の帰宅前に海外の本社より社内電報入り翌日は急遽、東京支店に松田は向かう。出向いた先へそうそうたる面子が椅子に掛けている、滅多に会えない本社出向の日本総支店長もいる。
「ミスター、マツダ。若手のホープとして聴いていますよ」
「さあ、僕は何せジョークが下手でして」。
白頭男性が席から立つと発言する
「会話続編は総支店長に代わり、私が仕切ります」。
「仕切り屋の副支店長様か・・・」
松田は内心、穏やかではなかった。副支店長の評判は業界でも芳しくないからである、要件を早く済ませたい本音先行する。
「君から見た弊社の旅客営業部の営業利益はどうか意見を聴かせて欲しいのだがどうかね?」
「松平副支店長、調査を何もしないでそこはお答えしかねます」
叩き上げの副支店長は睨め付けた。
「一体、どこがかね?」
「まず貨物に関してのみなら答えは出せますがお時間48時間必要です、また旅客営業でしたら最短で7日営業日必要です金融機関営業日の7日間。調査はケータリング部門も含みます」。
「何を血迷った事を、貴様は株主か!」。
常務取締役の佐々木光男は語気を荒げるが総支店長、ロバート・レィモンドは丁寧な日本語で呼応する。
「その時間、調査方法でパーフェクトかミスター?」。
「はい、専任スタッフいや助手1名いれば更に完璧です」。
「オーケー、ゴー・ア・ヘッド」。

松田の調査は提出の一か月後にどう処理されるかが決まった、加えて本社意向反映も出るという。夢中で行った調査報告書についてライバル他社のチャーリーを酒の席へ誘い尋ねた。
「お前さん、心配なんだろう家族がいるから海外赴任をさ」。
ストレートでバーボン片手にするチャーリーがさらに続ける。
「俺は嫁さんもらう前に済ませたから今は海外赴任なんか来ないな、
けどチャンスあれば欲しいと思うぜ!」。
「チャーリーさん・・・」。
「行くならばこうした仲でなく、敵・味方と完全に判別される審判下すお客様の場所、ニューヨークにしたほうがいい。俺達の商売で聖地でもあり憧れの場所だ」。
 松田の腹はこの声で決まる、その夜は初めて酔いつぶれる程飲んだ。

              *
        ”水平線から地平線へと”
 広田は誰より早く勤務先へ来てから掃除等をしてオフィス開店準備始める、時間合間にテレビチャンネルつけた番組を見てビジネスヒントを得る。
「新聞・新聞はどこだ・・・」。
「おはよう」。
「店長、吉報かもしれませんよ」。
新聞とテレビを見た広田が語る。
「やっと安い旅行を求める時代が来たみたいです」。
「はっ?」。
小さなベタ記事が片岡に飛び込んだ、その記事同様内容をテレビでも扱う状態でいる。
「そうだね・・・しかし俺もアホだった」。
「どうしたの店長」。
机引き出しを出し中を調べる片岡はメモを取り出した。
「大学時代の先輩が確かいたんだよ業界に」。
「えっ凄い、うちらのですか?」。
「いやもっとだよ、メジャー外資系航空会社だから」。
会話をしながら電話片手に幾度もメモを取る片岡に笑みが出る。
「今ね、先輩は成田の責任者だって」。
「ひえ~、安く乗れるのかな、なんてね」。
おどける二人に明るい話題がさらに続く。
「あと、安く海外行きたいという問い合わせ頂いたお客様います」。
「いいねえ、どこへ何名様?」。
「それがですね、ハワイで団体」。
いきなり団体とは驚く片岡、人数聴いてさらに驚いた。
「総勢百二十人程です、どうしましょうか?」。
経験値では大手へ仕切られ美味しい所は持って行かれるばかりか、旅行業法でどうしても複数旅行代理店に航空券座席販売させる義務が出る。
「エミちゃん、そのお客様は他社へ話したの?」。
「はい、人数言う前に単価の折り合い付かずお断り受けたとかで弊社に相談されまして」。
片岡は必死に模索した、依頼人は本気なのか?バジェットはいくらなのか?それとも・・・。
「ご相談連絡のお客様の連絡先は?」。
「はい、こちらです」。
メモを見て片岡は決めた、すぐ再度に電話を入れた後に表情が締まる。
「出張だ、エミちゃんも同伴」。
「どこへですか?」。
「この団体ツアー依頼主にだよ、娘さんはうちの女房を出迎えさせに行くのでいいかな?二時間後、大阪駅で集合しよう」。
「はい、了解です」。

 公衆電話の酷い雑音の中、聴こえる通話内容へ松田は腰を抜かすような衝撃を覚えた。
「嘘だろう片岡、挨拶代わりの電話がホノルル行き座席百二十人分確保してくれというのか?」。
「本気です先輩、大手が断ったのは日系運賃で依頼主は乗らない意味ではないですかね。今夜中に相手へご挨拶に伺います、飲めませんが日本酒持参もしています」。
地方への交渉事には欠かせない事項を都会生まれ育ちの片岡は心得ていた。
「数の単価の絡む案件だ、幹部にも念押ししておく、お前の所が幹事になるのが条件だいいな?」。
松田は後輩の成功を願い込めて引き受け条件も組み込んだ、奇しくもこの莫大ツアーが松田の調査結果本社公表直前とは誰も考える余地は無かった。

 調査報告書を受け、松田は言い切った。
空気を運ぶ位なら日本で認可されていない格安航空券を僕へ造らせて販売させて下さい成功させてみせます。

 世界初の国際線、日本発着便格安航空券はこうして誕生した。
(後へ続く)