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スリップするのは君か世界か:前半戦

 勢いだけで書いていけ。どうも、神山です。

 引き続き、赤い夢考察シリーズ。夢が醒める前に書いていきます。今回は最新刊の「令夢の世界はスリップする 赤い夢へようこそー前奏曲ー」の読書会をやるつもりでレジュメっぽくまとめていくつもりでしたが、無理でした。大体駄文。ネタバレ注意です。一応前半を今作のみの話、後半を既刊の他作品との絡みを踏まえた話とするつもりですが、勢いで書いていくので自信はないです。では、やっていきましょう。

章の構成について

 本書の構成は次の通り。

OPENING:自己紹介と能力解説
①01-03:マチトム組と合流!
②04-06:夢水組と虹北恭助組と合流!
③07-08:謎1謎2を解く
④09-10:世界の謎に触れる
⑤11-ED:謎3を解く

①②④のあとにそれぞれバックステージとして、怪盗クイーンが出てくる話があります。ここでも世界の謎に触れたりします。教授とクイーンが会話するのもこのパート。
 一応この物語で提示される謎については、③⑤で解決されていますが、帯文に「はやみねワールドを解き明かす壮大な物語が始まる」とある通り、本書は「赤い夢へようこそ」の前奏曲であり、バックステージや④にて提示される世界の謎についてアクセスしていくのが本義ではあると思います。今後どういった展開になるか現状ではわからないので、いったんここでは保留とし、本書のなかでの事象・違和感などについて整理してゆきます。

スリップ能力者?令夢!

 今作では新たな登場人物として谷屋令夢(たにや れむ)が登場します。中学2年生で、特に容姿や成績などに特出したものはなく「普通」だけれど、スリップという、パラレルワールドへ移動する能力を持っています。能力についてはOPENINGで令夢が語ったのは以下の通りです。

・スリップするようになった原因はわからない。
・いつスリップするかはわからない。何かおかしな夢を見て目覚めると、スリップしているときがある。
・自分の意思ではスリップできない。
・スリップした世界から、いつ戻れるかはわからない。
・何かを成しとげるか解決するかしたら、戻れるときがある。
・世界は移動するが、時間は移動しない。
・スリップした先の世界にいたわたしについては……わからない。
・スリップする先の世界を選ぶことができない。

 尚、この能力の発現は「今年の春」が最初、一学期の夏が今作の舞台なので、ほんの数か月前に発現して、何度か体験し、今回のスリップが発生して物語が始まる、というわけですね。
 スリップする先の世界と、彼女がもともといる世界は、些細な部分であれどこか異なっていることから、様々な可能世界のうちのあるひとつに移動していると令夢は認識しています。全ての可能世界にいる複数の令夢たちがスリップできるのか、この令夢(オリジナル令夢)だけがスリップできるのか、今作だけでは判断がつきませんが、スリップした後に「戻る」を繰り返していることから、あくまでパラレルワールドに移動している主体はオリジナル令夢だと考えられます。

 また、主に後半戦の議論に使うこととしておりますが、上述のスリップ解説には補足がなされており、「時間」についてはいいかげんである、ということが書かれています。たとえば、隣の家の保育園児が小学生になっていたり、先輩が同級生になっていたり。ということで、今作に出てくるはやみねワールドのキャラクターたちは、年代設定がそれぞれの原作の関係からズレています。

 スリップについては、夢水も言及します。この言及には令夢と創也が同席しているなかで行われ、まとめると以下のようになります。

・夢水は夢のなかでスリップ能力について見た。ただし、そのような能力がある理由は不明だし、令夢に与えられた理由も不明である。
・夢水はレベルアップしてステージを進め、ボスを倒していくゲームの話をする(今作の章立ては基本的にSTAGE01~11とゲーム仕立てになっている)。その中で、ゲームの内容に合わせた特殊な装備や能力をプレイヤーがもらえるという話をする。
・この世界がゲームかもしれない、という疑念を創也は抱き夢水に尋ねるが、夢水はそれについては「わからない」と言いながら、スリップでやってきた令夢はゲームを進めているようだと答える。創也は自分たちがプレイヤーかを確認するが、夢水はこれについて否定し、次のように断言する。
 「それはちがう。プレイヤーは、神。ぼくらは―」
 「駒(ピース)だよ」

 夢水の断言、名探偵という役割を与えられていることを考えると、真実であることが限りなく保証されています。しかし、そうなるとスリップ能力を持っているのは、駒たる令夢ではなくプレイヤーである神だということになります。どういうことでしょう・・・。

 確かに、今作では様々な場面でキャラクターたちが自分の意思ではなく、誰かの意思で行動させれられているかのような部分が散見されます。クイーンの行動についてRDが誰かに踊らされている気がすると言ったり、創也が自分でお好み焼きを焼こうとしたり、亜衣がSFミステリを書いていたり……。このあたりの話は後半戦に再度するので深掘りしませんが、何か人形劇を見ているような不気味さがあるのが今作の特徴です。過剰な振舞いをキャラクターたちがしている気がします。「神」に操られている……?

神も仏もあるもんか!

 前述の令夢のスリップ能力について夢水が令夢と創也にする少し前、夢水は令夢がスリップ能力者で、別世界から来た存在であることを言い当てます(創也も事前にわかってはいた模様)。その推理のなかで「令夢のオリジナル世界には神や仏といった概念が存在していないこと」が開示されます。この「神や仏といった概念が存在していない」という世界観が、だいぶ不思議です。

 どうにも「神道や仏教、一神教や多神教が存在しない世界」ということではなく(仏教用語が語源のものなどは単語として存在し、比喩的な用法はある)、神社やおみくじが存在しない、人は死んだら土に還るだけ、という世界は、もともと神や仏がある世界から概念を差っ引いた、ように感じられます。令夢のオリジナル世界では神頼みはしないし神社は存在しない、人は死んでも幽霊にならない(魂は消えてなくなるという認識)、「チェストボードの母の写真に声をかける」という描写から仏壇も存在しない……。

 何かしらの条件に当てはまる、神仏に関わる概念だけが空白にされている、という気がします。これは直感ですが、たとえば「神や仏とコンタクトを試みるモノや方法」など。今作だけでは情報が少なくて明言ができることは少ないですが、令夢のオリジナル世界が存在するのであれば、そういった一定のルールによって削られた世界だといえそうです。

 このゲームの目的について

 さて、このとりとめもない考察記事の前半戦最終幕は、このスリップ世界に入り込んだ令夢が進めていったゲーム(この本のなかだけで行われているゲーム)はどういったものだったのか、という話をしましょう。単純に見えてわりと入り組んでいるんですよね、本書のメインの謎→解決。
 メインの謎といえば①学校内・②校庭・③商店街に出現した変な落書きについて、誰が何の為に書いたものだったのか?というもの。それぞれについて「①カップルが秘密裏に会うため」「②令夢がこの世界に居続けるため」「③泥棒が閉店した店に入り込むため」でした。一見、物語的には②が一番重要な謎ですし、読者に向けられた謎と解決であることには間違いありません。しかし、これはスリップ能力者である令夢が、スリップのルールをハックして発生した謎であり、このゲームの本来の目的とは異なるはずです。この世界で本来クリアしなければならなかった目的とはなんだったのでしょうか。
 そもそも、本来のクリア=元の世界に戻ってしまう、という現象が見られたのはSTAGE3でした。令夢は、創也が①の謎を解いてしまって、元の世界に戻りそうになったから、②の謎を自らの手で起こしました。その結果、③の謎に遭遇し、より長くこの世界に残ることができました。本当にそうでしょうか。「スリップした世界で何かを成しとげたり、解決したりすると、元の世界に戻れる。今、創也君が謎を解いたって言ったから、元の世界に戻りそうになったんだ」(71頁)と令夢は考えていますが、この状況で元の世界に帰っても、謎は解けていません。創也のIt's a showtime!を聞かないことには帰れないのではないでしょうか。
 なぜ、謎解きを聞く前に元の世界に戻りそうになったのか。彼女がほとんど目的を達成している状態になっているからです。STAGE3で起こったことを整理しましょう。

・夏期講習の帰り道で内人と歩いている
・二人は誰かにストーキングされ、襲撃される
・内人はストーカーを撃退する
・内人は令夢を砦に招待する
・創也は①の謎が解けたと発言する
・令夢が元の世界に戻りそうになる

 創也の謎解き発言でないならば、このなかで何かを達成したと言えるのはどれでしょうか。ぼくは「内人はストーカーを撃退する」だと思います。この物語で内人はトムではなく、knight=騎士なのです。騎士が姫を助ける、というベタベタな結末を迎えること、それがこのゲームの目的です。①の謎しかないとき、この謎を解くことよりも、この犯人から身を守られることの方がクリアの判定を得られる行為だとしたら、謎解き前に眩暈が起こることに一理あるのではないでしょうか。STAGE09の章題も内人=knight説の根拠ではありますね。

 元の世界に戻ることを避けたい令夢は、②の謎を作ることによって、「この世界に居続ける」ことに成功します。しかし、結果としてこのことが、彼女を姫の座からラスボスの座にスライドさせることになります。
 STAGE11で内人は目の前にいる令夢が、自分の知っている令夢ではないことを知ります。そして彼は姫に成り代わったラスボスに突き付けます。
「おまえは、誰だ?」と。
 令夢は自分のスリップ能力のことを打ち明け、元いた世界のことを言い、この世界に居たいことを内人に伝えます。しかし、彼女はラスボス。姫ではありません。内人にとっての姫=令夢はあくまで、「もともとこの世界にいた、腕に傷のある、令夢」だったのです。
 繰り返しましょう。騎士が姫を助ける、というベタベタな結末、それがこのゲームの目的です。

……オリジナル令夢、パラレル令夢を幸せにするという解決をもたらすけど、彼女自身は救われない……母もサバイバル内人も赤い夢の住人もいない世界がオリジナル……

 長い!

 という声も聞こえてきていますので、ひとまず考察前半戦はこのあたりにします。だいぶ冗長になってしまい、添削もしていませんが、とりあえず生のままで投稿します。後半戦で会いましょう(後半戦、もっと長くなるんじゃないかな…)。

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