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おたより(数学学習指導要領)

さやわかさん、おたより受験生のみなさん、こんばんは、神山です。今日のおたよりは、先日のゲンロンカフェAIイベント2でも話題に上がった数学の学習指導要領について書いていきます。

いわゆる進学校出身で旧帝大の理系学生=かつての私にとっては、「今年の大学1年生が触れてきたアニメ一覧( https://twitter.com/kai_morikawa/status/1508991974510297088 )」「一番広い世代に伝わる国語の教科書にのってた小説( https://dailyportalz.jp/kiji/ichiban-yuumeina-kokugo-kyokasyo-no-hanashi )」などと同じ程度には世代について把握できる要素である学習指導要領の変遷ですが、学歴コンプレックスもとい学歴オタクもとい勉強熱心な人々の常識は一般常識でないため、あらためて実態はどうだったか調べて解説してみます。

その前に何故「複素数」と「行列」の両方がAI開発環境で、あるいはAIについて考える中で重要という話がされていたのか、振り返ろうと思います。おたよりという中で十分に説明できるかわかりませんが、やってみます。といっても、多分ここから書く説明よりも、先程のウェブサイトや『数学ガール』シリーズ(結城浩、SBクリエイティブ、2007-)を読んだ方がわかりやすいとは思います。特に複素平面についての『数学ガール』の説明は鮮やかですので、ご一読ください。英語版もあります!

「複素数」というのはいわゆる虚数を含んだ数字のことで、「3+6i」とか「2-4i」と書かれます。ここでiがくっついている数字が虚数単位iというもので、この場合はi×iが-1となるような想像上の数字(イマジナリーナンバー)を考えています。このiは頭の中にしかない数字なので「虚(イマジナリー)」と言われています。対して、3とか2は実数と呼ばれており我々が指折り数えられる数字です。というと、小数や分数や指より多いデカイ数字などについてやんや言われますが、複素数が導入されて実数という呼び名が必要になったと思うので、「虚じゃないもの!普通の数字!」くらいに考えておいていただければ嬉しいです。

複素数、そのまま扱っても足し算引き算=演算はできますが、頭の中にしかなかった為、扱いが難しく、どれくらい実数から離れている存在なのかもつかみにくい、という問題がありました。諸説ありますが数学者ガウスが「これって平面に置いた点って言えるんじゃね?つまりx軸を実、y軸を虚ってことにしてさ」と考えました。これが「複素数平面」であり、これまで単に文字付きの数式を演算して考えることが主だった複素数が、幾何学的な操作でも扱えるようになりました。

数字に対して幾何学的な操作を行う道具として存在するのが「ベクトル」「行列」です。ベクトルは複数の数字の情報をひとつに抱えているもので、たとえば(1,1)にある点にベクトル(2,3)をかけると(3,4)へ動かせる、という場合、2つの数字の情報=2次元を1つのベクトルに与えていますが、これを100の数字=100次元にしても、1つとして扱える、というのがベクトルの特徴です。これに対して、行列はこのベクトルを複数まとめることができる、というものです。行列ではn次元の空間を、行列に従って書き換えることができます。これまで「数字をかける」では数直線の上の移動、「ベクトルをかける」ではn次元の空間上の移動、でしたが、「行列をかける」では空間自体を変換することができます。このあたりをうまいこと言い換えられないのですが、具体的な例としては、AIイベントの第1回にて画像の特徴量のみを抽出する、という話がありました。空間の変換という考え方を用いて言うなれば「赤い、以外の尺度は存在しない空間」「大きさ、以外の尺度は存在しない空間」を作って学習させている、というイメージになります。合っているか自信ないですが…。

「複素数平面」により、虚数を含めたあらゆる数についてはたった2次元の平面上で扱うことができるようになりました。そして「行列」は無限の次元そのものを操作することができます。それぞれの概念の一部分でしかないものの、この2つが現代のAI(というよりコンピュータ関係全般)研究の基礎として必須ぽいぞ、ということがAIイベント2の壇上で清水さんが話していたことでしょう。

学習指導要領に話を戻し、Googleで検索してみましょう。すると、ちゃんと数学の学習指導要領の変遷をまとめているページが、サイト『ようこそ!犬プリの世界へ』にありました。…インターネット、捨てたもんじゃないぜ。このサイトは高校数学のエッセンスをまとめていて、サイト主は1996年から高校の数学教師として働きながら、途中大学院での修学や大学での非常勤講師を務めていた赤阪正純さん。学習指導要領のことだけでなく、直近の入試問題解説や単元ごとの解説などもまとめられています。凄い。
指導要領の変遷についてはこちら→ https://inupri.web.fc2.com/katei.html 

この年表によると、1985年~1996年に高校3年生だった人の履修範囲に行列も複素数も含まれています。但し、この期間、複素数平面は指導要領には入っていません。文理や受験科目によっては不要ということはあったかもしれなく、あくまで年代による推定ですが、1971年生まれの東さんが高校3年生=18歳のときの入試年は1990年(1971+18+1)、1974年生まれのさやわかさんの入試年は1993年であり、共に行列が履修範囲に入っています。いわゆるゆとり世代、2006年~2014年に高校3年生だった人の履修範囲には行列はあれども複素数平面はありません。1993年生まれの僕は2012年が入試年となり、入試の攻略法として予備校や教科書の外側では複素平面の考え方を学んだものの、公教育では学んでいないという年代にあたります。僕の世代のあとにくるZ世代(1990年代後半から2012年頃までに生まれた世代)は、更に履修範囲が変更されており、これがイベント中に話題になった「行列のない世代」ということになります。2015年以降に入試年となる学生は、数学Cという科目自体が無くなり、行列が履修範囲から消えています。一方で、複素数平面は我々の世代と違い履修範囲として復活しています。年表に赤阪氏も書いていますが、一次変換(行列)か複素数平面か、を取り合い続けているのが学習指導要領の変遷とも受け取れます。微分積分をマストで学習する必要があるとしたときに、マスターすべきはどちらか、というのは文科省も悩みどころなのでしょう。
もしくは本当に単元同士の派閥争いに高校生が巻き込まれているのかもしれませんが…。

理由はさておき、世代によって「複素数平面を習っている」「行列を習っている」という違いがありますが、前述した通り「複素数平面」はあらゆる数の把握を平面上で行える道具、「行列」は無限の次元を操作できる道具です。それが片一方だけ教えればいい(片方だけで限界だ)、という状況を延々と続けています。1985年時点で、既に現代技術のことを知ることが専門家以外は困難、という状況を生み出していると言えるかもしれません。もちろん、ことAI関係のみに視点を向けましたが、それ以外の科目、教科、単元も世代ごと異なり、同じ義務教育、高校教育であっても様々習っていること、いないことがあります。歴史や科学のような研究が進むことで書き換わるようなものは想像がつくと思いますが、普遍的と思われている数学でも様々な理由でまばらになっています。

自分がゆとり世代として、「習わないからね~」と小学校の担任に言われ、自ら教科書に✗を付けた世代でもあるからこそ、下の世代には習ってないことはあれども、書いてはいる、接する機会があるようになってほしいと思います。

(書き忘れた!)
お読みいただき、ありがとうございました

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