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シラスを知らしめていく

シラス1周年おめでとうございます、神山です。

この記事は元々、『ゲンロン戦記』を読み、シラスで國分さんと東さんの対談を見たというタイミングで書かれる予定でしたが、結果としてそれから1年近くたった今、書いています。

この番組のレビューにも書いておりますが、この1年で配信された動画に対してレビューを11件書き、年間2位(タイ)という記録を残したらしいです。このアーカイブが残る半年間は都度言っていこうと思います。

シラスへの登録方法については、山下Topo洋平さんのこちらの記事が詳しいです。

 シラスがどんなプラットフォームか、ゲンロンがどんな出版社なのか、というのは僕が語るよりも、シラスで番組をひとつ見てみるとか、ゲンロンαで記事を読んでみるほうが分かりやすいかとは思います。一方で、先日急逝してしまった丫戊个堂さんも、偶然ゲンロン友の会北海道支部(現”蝦夷クラスタ”)立ち上げ直前に来道してオフ会が発生していたり(僕はおあいしてはいないんですが、そのあたりから相互フォローとかになったはず)と、ふとした縁で続く関係は多かったなと感じており、僕が記事とすることで手を伸ばす人が生まれるかもしれない、という思いから、この文章を書きます。

シラスを知らしめていく

シラスとは何か。まずは公式サイトなどにある文言を引用する。

シラスとは:シラスは観客と配信者をつなぐ、新たな放送プラットフォームです。従来の放送サービスとは異なり、すべてのコンテンツが有料で提供され、購読料金を通して配信者を支援する仕組みが特徴です。
特徴01:とことん話を聞く
シラスの母体はゲンロン※。ゲンロンのトーク番組は3時間、4時間が当たり前。そんな長時間番組に特化した延長機能や資料配布機能が充実しています。
特徴02:才能を支援する
作家、クリエイター、アーティスト。チャンネルを購読することで、彼らの創作活動を継続的に支援できます。シラスは「顔の見えるクラウドファンディングサイト」でもあるのです。
特徴03:ともに育つ
配信者なくして観客なし。観客なくして配信者なし。それがシラスの哲学です。そのためにすべての番組を有料にしました。密度を高め、本物を育てましょう。
シラストップページより引用)
※筆者註:ゲンロンは東浩紀が創業し、現在は上田洋子が代表を務めている出版社であり、批評誌「ゲンロン」(かつては「思想地図β」)や単行本「ゲンロン叢書」、電子雑誌「ゲンロンβ」の出版のほか、ポータルサイト「ゲンロンα」、ひらめき☆マンガ教室やゲンロン新芸術校といったスクール、トークイベントスペース「ゲンロンカフェ」の運営をしている。

2021年11月現在、シラスのチャンネル数26チャンネル。1つはゲンロンカフェでのトークを中継するチャンネルであり、その他は個人や団体がやっている25のチャンネルがある。特徴02にもある通り、上田代表、物語評論家、パフェ評論家、医者、アーティスト、ミュージシャン、建築家、写真家など様々な配信者=シラサーがいる。シラサーは誰もがなれるわけでなく、希望者が上田や東との面接等を経ることで、配信チャンネルを持つことができる、と度々言及されている。その配信者のクオリティ(?)保証があることで、長時間配信に対して視聴者はついていったり、課金したりしやすくなっている部分もあるだろう。

ユーザーはそれぞれのチャンネルの月額会員として登録し、チャンネル番組見放題となるか、それぞれの番組を単品で購入して観るかという選択肢がある。特徴01にある通り、ひとつひとつの配信が2時間~8時間という幅があり、とりあえず見てみるのであれば単発課金で構わないだろう(大体ゲンロンカフェだと6時間超だと延長課金が必要、他チャンネルだと2時間超で延長課金が必要)。

シラスはツイキャスやspoonと同様にアイコンと名前が付随したコメントを配信中に入力することができる。又、Amazonや食べログのように内容の紹介や感想を投稿するレビュー機能もある。コメントは150文字までとTwitterに近い文字数を上限としており、配信者のレスポンスを期待できる装置であり、同じ配信を見ながら他の視聴者と感想を共有できる実況的な役割を持つ。レビューは上限字数がなく、たとえばこのnote記事をそのままレビュー欄に載せることも可能である。他の視聴者情報については名前とアイコンとレビューだけが表示されるという仕様であり、レビューを辿って知らない配信に出会うといったこともあるだろう。これらが重なることで、ひとつの動画における配信者とコメント群のなかで、あるいはレビューを触媒としたチャンネル内で、シラスの中で、他サービスと連携してシラスの外側で、それぞれコミュニティが立ち上がっていく。

シラスでは無料配信時間がそれぞれの番組に設けられているとはいえ、ほとんどの時間は有償の(支払済の)ユーザーによって動画内のコミュニケーションが発生していることから、荒らしコメントやレスポンスだけを求めるコメントなどがほぼ皆無になり、呼応や疑問、コメント同士の会話などが目立つ。特徴03における観客が育つということであろう。また、そういった観客のコミュニケーションを見ることで、シラサー側もチャンネルのコンテンツ内容を調整することができる。Youtubeなどの広告型で規模拡大が必要なプラットフォームであれば、視聴数を稼ぐためにキャッチーな内容や目立つサムネイルにすることが求められるが、むしろシラスでは視聴者が購入してから見ることになるので、そういったハッタリよりも、かっちりとした内容説明や、信頼できる振る舞いが求められる。観客だけでなくシラサーもまた日々進化中となるのだ。

ゲンロンの社名と同じく(ゲンロンは言論であり原論であり幻論だった、と思う)、シラスもまた複数の意味を持ったネーミングである。ひとつはアイコンにも見える通り魚の「しらす」、ひとつは江戸時代の奉行所で法廷が置かれた場所としての「白洲」、ひとつは思想や言葉を「知らす」、ひとつは様々な物事を「統らす」。それぞれ現在のシラスに重ねて語ることができるキーワードだろう。ここでは一例目のシラス、魚のしらすについて語り、文章を閉じよう。

魚のしらすは何かひとつの種類を指す単語ではない。しらすは様々な魚の稚魚のうち、白いものの総称である(但し、流通に乗っているものは多くの場合、カタクチイワシの稚魚。新江ノ島水族館にあるシラス展示のコーナー「シラスサイエンス」もカタクチイワシの稚魚展示である)。しらすと呼ばれたとき、その魚の学名が何なのか、博物学的な分類は意味をなさない。様々な地域のしらすを集めた時、そこにはウナギもアユも、勿論イワシも存在する。つまり、抽象的な意味でシラスはあらゆる未来に変化する可能性を持つものである(勿論、生物学的には最初から何の稚魚か判断可能であり、変化するものではない)。

シラスにまつわるコミュニケーションでも多様なユーザーの混在したものが見られており、この名づけはクリティカルだと感じる。観客が、シラサーが、既に何かしらの成魚であるかもしれない。しかし、シラスはそういった垣根を払い、稚魚であっても、コミュニティに入っていくことができる空間を形成している。プロフェッショナルの集団、エリートの集団とは違う、未成熟な素人ながら、ある時は文学について、ある時は政治について、ある時は芸術について、楽しみながら知を深めていくことができるプラットフォームなのだ。

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僕のレビュー一覧がこちら。レビューしている放送はどれもおすすめですので、アーカイブが消える前に見てみてください!ではでは。

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