メタバースの語源を探る。「スノウ・クラッシュ」読んでみた
メタバースなんもわからん
2021年10月にFacebookがMetaに名前を変えて「メタバースに注力する」と宣言したことで、メタバースという言葉がバズワードになりました。
色々な人が「これがメタバース」「メタバースとは」を語っていますが、私には何が正しいのか分かりません。全部間違っているような気もするし、全部広義にはメタバースと言える気もする…。
「どういう風にメタバースという言葉と付き合っていこうかな…」と悩んでいたので、「メタバース(作中では『メタヴァース』)」という語の初出とされる小説「スノウ・クラッシュ」を読んでみました。
この記事では、
・スノウ・クラッシュとは
・スノウ・クラッシュのあらすじ
・スノウ・クラッシュの『メタヴァース』について
・バズワードとしてのメタバース
を書いていきたいと思います。
メタバースという言葉が分からない・メタバースという言葉との付き合い方に悩んでいる・メタバースという言葉について知りたい、という方の助けになれば幸いです。
スノウ・クラッシュの『メタヴァース』とは
最初に。スノウ・クラッシュで提示された『メタヴァース』は、
VRゴーグルを被ってログインする、半径1万キロの黒い球体上に広がる仮想空間。メタヴァース内で人は現実世界の自分に模したアヴァターを纏い、コミュニケーションを楽しむサービス。
として描かれていました。
これが言葉として初出の『メタヴァース』ということになります。
スノウ・クラッシュとは
スノウ・クラッシュは、本記事執筆時点(2021年12月)から遡ること約30年前に出版されたSF小説です。1992年といえば、インターネットはまだほとんど普及しておらず、日本では、首都圏のごく一部の家庭にダイヤルアップのインターネットが引かれ始めた頃です。
当時「インターネット」「仮想世界」がどのくらい未開の原野だったかというと、Yahooの創業が1994年。Googleの創業が1998年。にちゃんねる創設が1999年。映画マトリックスが1999年。それらがまだ生まれる前の段階です。
こんな時代にインターネットと仮想世界をテーマとして精緻に描いているという点で、ニール・スティーヴンスン氏の想像力と先見性に驚きを禁じえません。
スノウ・クラッシュのあらすじ
本作は、ウィルス「スノウ・クラッシュ」で世界を支配しようとする帯域幅王L・ボブ・ライフという巨悪を、凄腕ハッカーで『メタヴァース』創設メンバーでもあるヒロ・プロタゴニストとその仲間たちが協力して打ち倒す、勧善懲悪の物語です。
大きく分けて、以下の3つの要素が散りばめられています。
・ディストピア的な近未来「企業統治国家に分割されたアメリカ」
・バーチャル空間『メタヴァース』
・シュメール文明に関する考察「シュメール語を使ったウィルス」
2022年1月に復刊されるそうなので、こういうジャンルが好きな方は読んでみてください。個人的には『メタヴァース』目当てで読んだのですが、シュメール文明の考察周りがメチャクチャ面白かったです。
スノウ・クラッシュの『メタヴァース』について
スノウ・クラッシュの中で表現されている『メタヴァース』の描写について、箇条書きで書いていきます。
『メタヴァース』
「コンピュータの創り出した宇宙であり、ゴーグルに描かれた画像とイヤフォンに送り込まれた音声により出現する世界」
半径1万キロの黒い球体上に広がる仮想空間。
赤道部分にはストリートと呼ばれる大通りがある。ストリートの長さは65536km。ストリートから分岐して道が伸び、建物や公園、モノレールなどが建造されている。
デバイス
スキーのゴーグル程度の大きさのヘッドマウントディスプレイ。解像度は片目で2Kピクセル。
『メタヴァース』に没入することを「ゴーグルイン」と呼ぶ。
土地
『メタヴァース』上の土地は有限であり、建物を作ったりする場合にはまずメタヴァース上の土地を購入する必要がある。土地の値段は、ストリートから近いほど高額。
グローバル・マルチメディア・プロトコル・グループ(GMPG)という組織によってルールが定められており、『メタヴァース』上にコンテンツをアップロードする際にはこのルールに従い、認可を得る必要がある。
アヴァター
『メタヴァース』上では、人はアヴァター(化身)の姿を取る。
アヴァターを手に入れるには、レディメイドのものを購入する・アヴァター組み立てセットを購入してカスタマイズする・オーダーメイドのアヴァターを買う・自分でアヴァターのコードを書く、など様々な方法がある。
基本的に、アヴァターは現実世界の自分と同じ見た目であり、現実世界の自分より大きいアヴァターは作ってはならない、といったルールもある。
通信回線が遅い場合、モノクロのアヴァターとして表示される。
ストリート等のパブリックなエリアでは、アヴァター同士は干渉せずお互いにすり抜ける。一方で、プライベートなエリアや特別にコードが書かれたエリアでは、互いに触れることも可能。決闘を行うこともできる。
『メタヴァース』上での死
『メタヴァース』では、アヴァターの頭と胴体が切り離されると「アヴァターの死」として扱われ、ゴーグルインが強制的に終了される。
その後、『メタヴァース』上のアヴァターの残骸がNPCによって処理されるまでの数分間、『メタヴァース』へゴーグルインできなくなる。
バズワードとしてのメタバース
以上が、スノウ・クラッシュで提示された『メタヴァース』の概念です。
このように、スノウ・クラッシュの『メタヴァース』は、
・VRデバイスを使用する必要があって、
・土地は有限で、購入ができて、
・1社によってもたらされているアプリケーションであり、
・アヴァターは現実の自分と同じ見た目で、
・コンテンツのアップロードには許諾を得る必要がある
ようなシステムとして描かれています。
バズワードとして語られているメタバースでは、
・VRが必須か否か
・土地を購入できる必要があるのか否か
・複数アプリケーションを横断できるか否か
・アバターの自由度、現実の自分との連動性
・中央集権型かそうでないか
・NFT、ブロックチェーン技術を使うか使わないか
などの議論がされているように見えますが、語源としての『メタヴァース』とは異なる、新しい概念として語られているように感じます。
※例えば、VRChatやDecentralandだったり、Meta社の提示する「メタバース」のいずれも、「スノウ・クラッシュ」で提示された『メタヴァース』とは異なるすがたをしていることが分かります。
なんとなく「Vtuberとは」という議論があった時のことを思い出します。
バズワードになった「Vtuber」は、人によって解釈が異なり、
・3Dモデルを使っていないとVtuberじゃない
・2DでもVtuberだ
・顔出しをしていない実況主はVtuberじゃないのか?
・VRとVtuberの関連性は?
などが盛んに議論されたことがありました。
メタバースという言葉に向き合う時は「語源となったスノウ・クラッシュの『メタヴァース』とは既に違う意味の言葉になっていて、人や立場によって持たせたい意味が異なる」ということを念頭に置いて付き合うと良いのではないかと思いました。
最後に
メタバースという言葉との付き合い方に悩み、スノウ・クラッシュを読んで『メタヴァース』の語源に触れてみて感じたのは、「色んな人が色々なことを言っているけれど、意味そのものが語源とはかけ離れているし、言葉そのものはあまり気にせずいこうかな」ということでした。
きっと、大事なことは、言葉の定義だったりメタバース陣取り合戦じゃなくて、面白いもの・人の役に立つものを作り続けることだと思います。
メタバースという新しい言葉が出てきたけれども、それも機会と捉えて上手くツールとして使って、今までよりももっと面白いもの、もっとバーチャルが豊かになるものを作り続けていきたいと思います。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
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