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スキンケア×マイクロバイオーム:研究段階からトレンドへ

腸に常在菌がいて、宿主である私たちの健康に一役も二役も買っていることはよく知られたことですが、肌にも常在菌がいます。
そして、私たちが"乳酸菌を摂って健康になろう!"と、ヨーグルトや納豆を食べたり、ヤクルトを飲んだりするように、スキンケアにおいても"美肌になるために常在菌の力を借りよう!"という考え方について紹介していこうと思います。

タイトルのマイクロバイオームとは細菌叢(細菌の集団)という意味です。

細菌叢の"叢(そう)"は「草むら」と打つと変換されます。草が群がり生えるように、皮膚上で細菌は300種以上が存在して集団を形成しています。(人間にとって)良いも悪いも寄せ集めていますが、悪い菌だからと言って一挙手一投足悪いことをしている訳ではありません

同じ現象について表しているのに、宿主に害を与える関係なら「寄生」ですが、相互利益を生む関係は「共生」という言葉が使われます。

ちなみに人間の身体の細胞数について、私たち自身の細胞は50%残り50%は身体内外にいる常在菌の細胞が占めているという試算が報告されています、、!
もはや宇宙船わたし号といった感じです。こんなにもいるのか!と驚くと同時に、私って私だけの身体じゃないんだ、、、(細菌)と謎の一体感を持ち得ます。

この膨大な数の細菌たちの働きを活かして共生していこう!という試みがスキンケアにおいて新たなトレンドになりつつあります。

初めは"肌にいる菌(微生物)"と聞くとニキビの原因であるアクネ菌を思い付く方は多いと思います。腸に善玉菌、悪玉菌が存在するように、肌にも悪玉だけでなく、善玉として働く菌もいるわけです。

これらの善玉菌の働きとして、主に肌のpHを維持することで悪玉菌が増殖することを防ぐことが挙げられます。
ちなみにこのpH(酸性とアルカリ性の度合)という値は、健康の指標としてとても重要です。例えば腸内細菌とpHの関わりで言うと、便の色から腸内環境の健康具合を推し測ることができます。
理想は黄~黄褐色です。善玉菌が優勢だと腸内は弱酸性(pH 6.2~6.8程度)になります。すると胆汁分泌が抑制されるので、便全体が黄色っぽく色づきます。一方、悪玉菌が優勢となると腸内は弱アルカリ性(pH 7.5程度)になり、色が黒くなります。

肌が弱酸性ということは一般常識になりましたが、汗の中に含まれている乳酸や皮膚表面の脂肪酸などによって、健康的な肌はpHは4.5~5.5の間に保たれています。基準から外れたpHは乾燥や湿疹、アトピー性皮膚炎といった肌の状態を示すことがあります。酸性寄りになると脂性肌、アルカリ性寄りだと乾燥肌だという指標となります。

話は戻り、細菌のその他の働きについてですが、皮膚免疫と深いつながりがあるという研究報告も増えてきました。腸内細菌と同様に、その代謝産物がシグナルとなり免疫細胞を活性化させていると考えられています。
(私自身、皮膚の細胞から皮膚モデルを作製して、免疫応答に関する研究に取り組んでいますが、より生体に近いメカニズムを再現するためには常在菌の役割も加味したモデルを作るべきだと考えています。)
細菌叢(の善玉菌あるいは悪玉菌)の働きについては、まだまだ未知の部分が多く、研究は盛んに行われています。

そんな皮膚マイクロバイオームの研究知見をどうスキンケアに活かすかというと、各ブランドは特定の悩みに焦点を当てて開発し、また同時に消費者への啓発しようという動きがあるようです。

まず従来のスキンケアのアプローチは、殺菌作用 or 微生物フレンドリー(=何の影響も与えない)の製品という2択でした。

そして新たなアプローチの考え方として、以下3つが挙げられます。
プロ・バイオティクス:細菌を与える
プレ・バイオティクス:細菌を養う(環境を整える)
ポスト・バイオティクス:細菌が生成した因子を利用した製品

この中で、衛生管理の難易度の高さから①プロ・バイオティクスは化粧品という製品としては難しそうなので、製品展開は②プレと③ポスト・バイオティクスが主となりそうです。

そして悩みと細菌の組み合わせが研究されています。
ニキビ→アクネ菌
酒さ(赤み)→コリネバクテリア
ふけ→プロピオン酸菌とブドウ球菌の比
アトピー→細菌叢の多様性・安定性の低下
エイジング→細菌叢の組成の変化

加えて、オイリー肌・ドライ肌・ノーマル肌という肌状態によってバクテリア遺伝子の分布バランスに傾向があるという報告がされています。
そのため、コリネバクテリウム属(Corynebacterium kroppenstedtii)、キューティーバクテリウム属(Cutibacterium acnes;所謂アクネ菌です)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus epidermidis;表皮ブドウ球菌です)の3つの属の中の種に注目し、そのバランスや役割に関する研究が行われているようです。

増えすぎると人にとっては迷惑な細菌でも必要です。要はバランスが保たなければならないということです。持ちつ持たれつで、餌を取り合ってみたり、棲み分けてみたり、細かな、いくつものニッチがあります。
つい0か100か思考をしてしまうけれど25や78とか微妙な割合だってある(世の中の大半はこっち)ことを覚えておこうと改めて感じました。

面白いことに、この細菌叢の組成は性別・年齢・遺伝・民族によって変わるので、指紋のように1人1人異なってきます。さらに言うなら、天候・気温・食生活によっても変わるので、個人においても常に組成は変動しているのです!
自分特有のバランスを形成している細菌たちを自分の仲間だと考えてうまくコントロールすることで共生していきたいです。

EUでは、健康と美容の境目が融合してきているという流れになってきています。つまり、美しくなるために特別なことをするのではなく、健康な身体をマネジメントしていくことで結果、美しさを得る、というものです。これは老若男女問わず、皆が目指していく姿になりそうです。

まだまだ消費者として聞き慣れないスキンケア×マイクロバイオームですが、すでにいくつかのブランドは製品を発表しています。研究の域から応用へ移行し出した過渡期にあるので、これから日本でも流行・普及するのかはまだ予測が難しいです。ただ、日本は乳酸菌研究の歴史が長く、細菌の良さを理解する土壌が醸成されていると思うので、受け入れられるのではないかな、と勝手に感じています。

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