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桃太郎電鉄(Switch版)とのつきあい方

はじめに

中学受験は時間との闘いです。「ゲームなんてやってちゃダメ」ということになりがちですね。ですがものによっては、学びに役立つゲームもあります。その代表が「桃太郎電鉄」です。
本稿では、「桃鉄」の良さは何か、桃鉄の問題点は何か、桃鉄とどう付き合っていくのが良いのか、考えていきたいと思います。本稿ではSwitch版について述べていきます。

ルール

①プレイヤーはサイコロを振ってコマを進め、ランダムで決まる目的地への一番乗りを目指します。一番乗りすると多くのお金がもらえ、またランダムで次のゴールが決まります。手に入れたお金で各地にある物件を購入して収益を上げ、最初に決めた年数が来たとき、最も多くのお金を持っているプレイヤーが勝ちます。
②誰かがゴールしたときに一番遠くにいたプレイヤーには、貧乏神(ボンビー)がつきます。ボンビーがつくと行動のたびにお金や物件が減ります。時折「キングボンビー」などにパワーアップし、莫大な損害がでることもあります。
③移動するルートはだいたい現在の日本の鉄道に沿っています。飛行機や船のルートもあり、沖縄や北海道、外国に移動することもできます(飛行機、船のルートは現実に沿っていません)。
④都市の名前がついたマスは「物件駅」で、その都市近くに実際にある名産品、食べ物、イベント施設、工場などを買うことができます。都市の物件を全部買うと、特別な効果が出ることがあります。

要は日本を舞台にしたすごろくですね。「電鉄」の名前の通り、鉄道路線を移動するところ(高速道路ではなく)、そして現実に沿って日本の都市が配置されているのがポイントです。

「桃鉄」の良い点

それでは、「桃太郎電鉄」の良い点を挙げていきましょう。

①全国の都市の場所と名前を知ることができる。

都市名のついた物件駅は、だいたい実際と同じ場所にあります。受験用のテキストにはたくさんの都市が出てきますが、それも日本全体から見ればわずかです。桃鉄を通じて、テキストに出てこない都市の名前と場所を知ることができるのです。

②物件駅と近辺の特産品、工業を知ることができる。

例えば下の図の豊田では、自動車工場を買うことができます。これはみんな知っていますね。それ以外にも「ジャンボ梨園」や、「八丁味噌焼きそば屋」、「チキンコロッケ屋」を買うことができます。自動車以外の豊田近辺の名産を知ることができるのです。

ジャンボ梨も豊田の名物です

また物件駅では、あまり知られていなかった工業や名産品の様子を知ることができます。図は浜松です。ピアノ工場(ヤマハ、カワイ)、バイク工場(ヤマハ発動機)は皆さん知っていますね。それに加えて、バウムクーヘン屋(治一郎)、うなぎクッキー屋(うなぎパイの春華堂)、ささやかハンバーグ(さわやか)、新幹線車両工場(JR東海の整備工場)なども載っているのです。知っている人はニヤリとしますし、知らなかった人は「こんなところにこんな産業があるんだ!」と驚きます。これは大人でも楽しめます。

静岡県民のソウルフード、さわやかもあります

③全国の鉄道のルートをだいたい知ることができる。

鉄オタのお子さんは、全国の鉄道路線図を当然知っているでしょう。ですが多くの受験生は、日本の鉄道路線図を知らないのではないでしょうか。桃鉄の路線は大まかに実際の路線(在来線)に沿っています。桃鉄を遊ぶことで、日本の鉄道の全体像を、大まかにつかむことができるのです。これは大きな利点です。

中学受験では、新幹線は必ず問われますが、在来線まで問われることは少ないです。また現在は、在来線よりも高速道路の方が重要な交通路になっています。在来線を全部覚える必要はないといえます。ただ高速道路と鉄道のルートは重なることが多いです。鉄道を知れば、他の交通も理解できるのです。

④経済感覚をなんとなくつかむことができる。

買った物件からは、毎年決められた%の収益が入ります。これは投資とリターンですね。どのような物件に投資すれば効率が良いのかも、自然ととつかむことができます。桃鉄を遊ぶことで、経済の大まかな仕組みや、投資の意義について学ぶことができるのです。

⑤歴史についても学ぶことができる。

特定の物件駅を独占すると、その土地に関係の深い歴史人物が味方になり、助けてくれることがあります。例えば兵庫県の赤穂を独占すると、赤穂47士が味方になってくれます。

「戦国鍋TV」を思い出す人も多いでしょう

歴史人物の効果は大きいため、人物に関係する都市をいかに早く独占するかが重要になります。地理と歴史を結びつけて覚えることができるのです。

このように、「桃鉄」は遊びを通じて、各地の様子、交通網のつながりを理解することができます。小学3年生ぐらいであれば理解できるでしょうから、なるべく低い年齢から始めると良いと思います。

「桃鉄」のマイナス点

ただ、「桃鉄」にはマイナス点もあります。

①経済感覚がいかにもゲーム的で、現実感に乏しい。

ゲームですから当たり前ですが、小さな子どもにも分かるように、経済の仕組みを極端に単純化しています。
現実では好況/不況、人口の増減、産業構造の変化、世界的な状況の変化などによって収益が増減します。ですがこのゲームでは、「お金を減らす」仕組みが、基本的に「赤マスに止まる」「ボンビーがつく」の二つしかありません。そのため「収益を増やす=ボンビー対策」となってしまうのです。
またボンビーがキングボンビーになったり、さらに強力になったりすると、激烈に持ち金やカードや物件を減らされ、一気に大幅に不利になります。これはきわめてストレスが溜まります。キングボンビーになった途端、コントローラーを投げ出した人も多いのではないでしょうか?

カネを捨てるな!カードを捨てるな!

では借金を負うと立ち直れないかというと、地元の人やカードによって、あっさりチャラになったりします。表示される金額が莫大なこともあり、お金の価値や有り難みが薄いのです。
実際のお金は実に重たいので、注意して遊ぶべきでしょう。

②ゲームの都合で出てこない重要都市がある。

ゲームなので、全てのマスを物件駅にすることはできません。そのため中学受験で出題される重要都市が、このゲームにはなかったりします。鹿島、神栖、市原、君津、太田、岡谷、尼崎、加古川、周南など。特に大都市圏は大幅に少なくなっているので要注意です。

③中学受験で出題される産業が示されていない都市がある。

中学受験では、川崎は「製鉄・石油化学」と学びますが、桃鉄では「半導体工場」「ソフトウェア工場」です(こちらのほうが現状に合っているともいえますが)。倉敷では、水島コンビナート関係が全く出てきません。岸和田の綿織物、呉の造船と製鉄、中津の自動車なども同様です。

水島コンビナートや隠れた倉敷の特産・マスキングテープには触れられていません

④現実の鉄道路線とは違うところがある。

これもゲームなので仕方ありませんが、現実の路線とは細かい点で違います。次の3種類があります。
(1)ルートが違う。
三大都市圏は大幅に簡略化されており、場所によっては路線が大幅に違います。秩父は八王子とだけつながっています。佐原と銚子がつながっていません。ですから現実の路線を知っていると、「なんでここがつながってないの?」とイラッとするかもしれません。

外房線経由でないと銚子には行けません

(2)省略されている。
大都市圏だけでなく、東北地方や中国地方はかなり簡略化されており、現実にはあるはずの路線がなかったりします。特に中国地方は山陰と山陽を結ぶ「陰陽連絡線」が大幅に少なくなっています。

(3)ないはずの路線がある。
廃線になった路線がまだ存在していたり、完成しなかった路線が存在していたりします。特に北海道に顕著です。例えばオホーツク海に沿った線路は結局全通しなかったのですが、このゲームではバッチリ通っています。今の北海道の路線図と比べると面白いですね。このゲームは「昔の北海道(理想の北海道)」を示していますが、昔の北海道には、こんなに鉄道があったのです。それだけ北海道の人口減少が続き、鉄道の経営が成り立たなくなっていることを示すのですよね。

未成線の興浜線、2006年に廃止された池北線、2021年に廃止された鵡川以南の日高本線などが存在しています
現状はこんなにすかすかです。出典:JR北海道(https://jrhokkaidonorikae.com/map/map.php

また淡路島に鉄道が通っています。現実には明石海峡大橋に鉄道設備がないので、鉄道は通せません。ここはゲーム上の都合でしょうね。この他、鞆の浦、出石、定山渓など、すでに廃止されて久しい観光地行きの線路があったりします。

(4)新幹線がない。
新幹線はカードになっており(振れるサイコロの個数が増える)、路線は全部在来線扱いです。新幹線は中学受験では必ずといっていいほど出題されるので、新幹線は別途覚える必要があります。

⑤遊ぶのに時間がかかる。

最後のマイナス点は、とにかく時間がかかることです。プレイヤー3人、10年設定で約3時間かかります。受験生にとって、3時間をゲームに費やすのは、かなり厳しいでしょう。また10年では、このゲームに含まれた要素をすべて楽しむことはできません。
「シヴィライゼーション」や「信長の野望」同様、「やめ時が見極めづらい」(=いつまでもだらだら遊ぶことになりやすい)のも、マイナス点と言えるかもしれません。

「桃鉄」とのつきあい方

このように「桃鉄」からは多くのことを学ぶことができますが、現実と違う点も多いです。それでは「桃鉄」をどのように遊べばよいのでしょうか。
大切なのは、ゲームとのつきあい方を考えながら遊ぶことです。そこで、「桃鉄」とのつきあい方を考えてみましょう。

①「桃鉄」から学ぶ

「桃鉄」は、現実とは違うことを踏まえて、ゲームはゲームとして割り切って楽しむことが大切でしょう。
そのためには、現実を知っておくことが必要でしょう。そして現実とゲームを比べることで、よりゲームで有利になりますし、現実をよい深く学ぶことができます。そこで、次の2点をオススメしたいと思います。

(1)元ネタを調べながら遊ぶ。
これには、宝島社が出している『桃太郎電鉄でわかる都道府県大図鑑』(リンクで楽天に飛びます)が、非常に役に立ちます。「桃鉄」の画面では県の区切りがないのですが、この図鑑ではどの物件が何県に属しているか、明確に示してくれます。県全体の名産品も示しています。

それに、この本には物件の元ネタが簡単な説明とともに載っているのです。「この物件はこのお店のことを指しているんだ!」と理解でき、大人でも驚きがあります。
元ネタが全部書いてないのは残念ですが、そこは自分で調べれば良いかな、と思います。Amazonではこちらです。

(2)実際の路線のつながり方を確認しながら遊ぶ。
日本全体の路線図を記した本があると、実際の路線との違いがよくわかるでしょう。日本の路線図の本には、大人向け、子ども向けといろいろあります。お子さん向けには、縮尺・形が正しく(時刻表のように地図がゆがんでいるものではなく)、ルビ付きのものがよいでしょう。

地理の知識は、幅広く知れば知るほど、受験では有利になります。社会だけでなく、国語にも有利になるでしょう。

②「ゲームとのつきあい方」を学ぶ

「桃鉄」で遊ぶことを通じて、ゲームとのつきあい方を学ぶことも大切でしょう。
「桃鉄」は競い合うゲームですし、時間がかかるゲームです。そのため感情を害してケンカになることもあるでしょうし、時間を忘れてだらだら遊ぶこともあるでしょう。そこで大切なのは、遊びたいという気持ちや、感情の振れをコントロールすることです。

(1) 「決まり」を明確にする。
「遊ぶ時間を決める」「遊ぶ年数を決めてそれ以上伸ばさない」「ゲームなのだからと割り切って、感情的にならない」といった、決まりを明確にすることが大切です。特に「感情的にならない」は重要です。これからのお子さんは、ディベートをしたり、テーマを決めて議論したりすることが多くなるでしょう。自分の意見を批判されると、人格を否定されたと感じて怒り出す人もいますが、それはディベートや議論ではNGです。またディベートで勝ったからといって、相手をおとしめたりするのもNGです。「ゲームはゲーム」という割り切りが必要なのです。

(2) 大人が手本を示す。
そしてこうした割り切りは、大人が率先して示すことが大切です。特に年齢が低いお子さんは、自分の感情や欲望をコントロールするすべを知らないことが多いです。そこは大人がきっちりと、行動で示すのです。まあ大人も感情的になってしまうことはあるわけですが、そこは「教育」ですから。

ゲームはゲームだからと割り切ること。ゲームしたいという気持ちをコントロールすること。それが「リテラシー」です。現代社会では、ネットのリテラシーが重要なように、ゲームのリテラシーも身につけておく必要があります。現在のゲームでは「課金」が欠かせない要素ですから、今のうちから課金についても学んでおくとよいでしょう。

おわりに

「桃太郎電鉄」は、いろいろ問題点はありますが、日本の現在の様子を学ぶのに、非常に有効なゲームです。ゲームをすればするほど、知識を増やすことができ、地理や歴史の力をつけることができます。また北海道の様子から、日本の交通(特に鉄道)の未来を考えることもできます。
楽しく遊びながら、知識を学び、そしてゲームへのつきあい方も学ぶとよいでしょう。

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