マーラーとストレプトコッカス(連鎖球菌)、頭痛、ヒョレア、心内膜炎

マーラーとストレプトコッカス(連鎖球菌)、頭痛、ヒョレア、心内膜炎
一部業界ではよくしられているMovement Disorders誌に「マーラーはシデナム舞踏病であったのか」という論文が割と最近の2006年に掲載されているのを見つけた。
 シデナム舞踏病は溶連菌感染に伴って起こる不随意運動として古くからしられている。小児期に溶連菌感染に罹り、その後不随意運動がしばらく続くというもので大抵の場合あまり長い期間にそのような運動が持続することはないが、稀に成人期になっても不随意運動の一部がのこってしまうとされている。マーラーの右足に生涯にわたって不随意運動がみとめられたとされる。ニューヨークにマーラーが指揮者として登場したときにjerkyなスタイルが話題になったという。1901年にウイーンで発行されたポストカードでは彼の指揮ぶりがカリカチュアになっている。
さて、マーラーが不随意運動をもっていたという証言がいくつかのこっている。クレンペラーが子供の頃ハンブルグでマーラーとみており、彼は変な顔をつくる癖があり、深海のモンスターをみているように彼をみつめたという記載がある。マーラーが顔面ジスキネジアをもっていたというのはウイーンでは知られた話だった。
さらにさかのぼってのマーラーの子供時代についての記載はほとんどない。しかしAlfred Rollerの貴重は記載があり、以下のように引用されている。小児の頃、かれは四肢の不随意運動におかされていた。このような動きは精神発達の良い子供にみとめられ、気にとめられていないと聖ヴィトゥスのダンスに発展する。この症状はしかしながら、子供が心身ともに成長して適切に発達すると消失する。マーラーにおいては残念ながら生涯にわたって右足に不随意運動がのこった。
 小児期の溶連菌感染→シデナム舞踏病→強迫性神経障害の合併→弁膜症の発見→咽頭炎(溶連菌感染、血培で証明)→感染性心内膜炎にての死というストーリーでマーラーのメディカルヒストリーを説明しようという試みである。さらにはマーラーの持っていた頭痛についても、マーラーの片頭痛として、心内膜炎に伴う片頭痛であると解釈する論考もある。
 マーラーの片頭痛についてはCephalalgia誌のletter to the editorに言及されている。マーラーの頭痛はアルマに宛てた多数の手紙やアルマ自身の記憶として多くの記載がある。頭痛はしばしば列車の旅の間に起こり嘔気嘔吐をともなっていた。列車の外にでて新鮮な空気にあたり、睡眠をとると改善する。頭痛は数時間から一日続く。彼はアスピリン(内容不明)を常用していた。
 このような記載からは片頭痛がもっとも疑わしい。頭痛についてアルマが言及をしている。恐ろしい時間と悲劇的な苦悩であったと。彼女の結論としてはマーラーの頭痛は最期までわずらっていた自家中毒の一種であり、致死的な病気の原因だった。マーラーの片頭痛と、歴史上血液培養で証明された溶連菌感例の一人でもあるが、死亡原因となった心内膜炎との関連の証明はない。
 余計なことであるが2017年になってリウマチ熱に起因する片頭痛様頭痛、マーラーの片頭痛の第2例目かも?というレターがイタリアからcepahalgiaに投稿されている。
 マーラーの強迫的神経障害についてはフロイトとの面談をうけていることもあり記載論考は多岐にわたるのであるが、シデナム舞踏病の一症状として強迫的神経障害がしられており、これもからめて溶連菌に生きたマーラー説を強化するストーリーも作られている。
 マーラーは娘マリアを猩紅熱でなくしており、当時ありふれていたであろう溶連菌感染はマーラーの人生に大きな影響をあたえていたのかもしれない。
 
 さて、まだまだ情報を整理しないと行けないのでとりあえず、ここまで書いて皆様からのご意見ご指摘を募集したいとおもいます。

Cardoso F, Lees AJ: Did Gustav Mahler have Sydenham's chorea? Movement Disorders 2006;21:289-292.

Haan J, Ferrari MD: Mahler's migraine. Cephalalgia 2000;20:254

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