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【Phidias Trio vol.10 “Live on... Ⅱ”】作品紹介: 渡辺裕紀子 «Memory and Stain» (2019)

2024年7月6日にPhidias Trioの定期公演「Live on…Ⅱ」が行われます。
今回は、田中吉史、神本真理、山本哲也、松尾祐孝、木下正道、渡辺裕紀子各氏の作品を演奏します!

公演に向けて演奏作品について紹介をさせていただきます。今回は、渡辺裕紀子さんの作品『Memory and Stain for living room with small piano (2019)』です。
作曲家自身による作品解説を引用します。

Memory and Stain for living room with small piano (2019)

ピアノは不思議な楽器である。持ち運びが困難なため、その場にいる不特定多数の人々によって演奏される。そして、非常に長い時間をかけて、場合によっては人間の生のサイクルを超えて、何世代にもわたって弾き継がれる。もしピアノに記憶があるとしたら、何を思うだろうか。ピアノが弾かれる「モノ」ではなく、生きた存在としてそこに存在する(かもしれない)。彼女/彼らが架空の記憶を持っていたとしたら、それらをわたしたちは再び繋げることができるだろうか。通常、ピアニストはコンサートで観客に演奏を聴かせるために日々練習をする。コンサートが一度きりであるのに対し、練習は日々行われるものだとしたら、演奏家の生の時間は練習の時間でもある。ピアノは弾かれる度に伸縮し、その伸縮によって成長する楽器であり、その成長は「壊れている」や「調律されていない」と理解される。コンサート前には必ず誰かによって決められたルール通りの音程に調整される。ピアニストにとっての練習や、弾かれることで自然に変化していくピアノ自体の音は、コンサートでは聴かれることがない。

渡辺裕紀子

この作品には、パターンAとパターンBの2つの譜面が存在します。演奏にあたっては、片方を予め録音したものを再生しながら、もう片方をピアノで演奏することになります。
なるべくこの2つを同期させるように弾いていくのですが、それはまさに、ひとり黙々とこの作品を練習していた時間の記憶を辿るようでもあります。

練習は演奏家にとっての日常であり、本番に向けてのプロセスとして、いつもごく当たり前に繰り返されるものです。
それは人が生きる日常の中にある音であり、作り上げられたものではない、何らかの真実がその中に隠れているのかもしれません。

他にない味わいを持つこの素敵な作品を、皆様にお届けできますのをとても楽しみにしております。(川村恵里佳)

渡辺 裕紀子(わたなべ ゆきこ)
作曲家・オーガナイザー。自身の作品を「聞く哲学」とし、「思考音楽(Audio-Philosophy)」と名付けている。インターセクショナリティの概念に注目し、異なる社会的属性が交わりあうことで生じる特有の差別や抑圧への気づき、そして自身を取り戻すためのリサーチとして音楽創作を位置づけている。JWCM(女性作曲家会議)の共同代表として、女性と音楽を取り巻く社会についてリサーチを行っている。また、コンポーザーコレクティブ「Cabinet of Curiosities」の一員としてキュレーションに携わるほか、信州で新しい音楽と自然、子どもについて考える「やまびこラボ」の代表を務めている。2023年より桐朋学園大学および日本大学芸術学部音楽学科非常勤講師。

公演詳細

phidias-vol10.peatix.com

【Phidias Trio vol.10 “Live on… II”】

2024年7月6日(土)
15:00開演(14:30開場)
KMアートホール (渋谷区幡ヶ谷1-23-20 京王新線幡ヶ谷駅より徒歩6分)
一般3,000円 / 学生2,000円(当日券500円増)

プログラム
田中吉史 : bogenspiel Ⅰ for violin solo(2003)
神本真理 : 記憶のコラージュ (2002/2024 revised)
山本哲也: Psychedelic Study for clarinet solo (2011)
松尾祐孝 : The Stratosphere (1985)
木下正道 : 炎は炎の中に消える、そして時間は時間の中に VI (2021)
渡辺裕紀子 : Memory and Stain (2019)


フィディアス・トリオ10回目の定期公演となる今回は、〈vol.7 “Live on…”〉に続き、現代を生きる日本人の作曲家たちを特集する。
田中吉史、神本真理、山本哲也、松尾祐孝、木下正道、渡辺裕紀子 — 彼ら6人の作品は、もはや一括りに形容できないほどに、多彩な個性や価値観を感じさせる。この多様性をもたらしているのは、何よりも、徹底した独自の思索と、妥協なき創作姿勢である。
今を生きる音、これからも生き続ける音。それをひたすらに追い求める作曲家たちの軌跡を追う。


出演
Phidias Trio (フィディアス・トリオ)
ヴァイオリン・ヴィオラ 松岡麻衣子
クラリネット 岩瀬龍太
ピアノ 川村恵里佳

2017年に結成。これまでの主催公演では、現代の優れたクラリネット三重奏の作品を取り上げるとともに、 オーストリア、アルゼンチン、ブラジル、チリ、トルコ、韓国、日本の若手作曲家の新作を初演し、 好評を博す。また、ハニャン現代音楽祭(韓国・ソウル)や、日本作曲家協議会主催「日本の作曲 家2021」等、数々のプロジェクトに招聘されている。2021年12月に出演した日本現代音楽協会 主催「ペガサス・コンサート vol.3」の公演の模様は、NHK-FM「現代の音楽」にて、2週に渡って放送された。読売新聞に掲載の「評論家4氏が選ぶ今年の公演ベスト3」にて、2023年の主催公演「Phidias Trio vol.9 “Re-interpret”」が選出される。

https://phidias-trio.com


お問合せ
phidias.trio@gmail.com

主催:Phidias Trio



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