『飛び立つ君の背を見上げる』を読んで

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『響け!ユーフォニアム』シリーズ(以下ユーフォ)等の作家で知られる武田綾乃先生の最新作です。『愛されなくても別に』で吉川英治文学新人賞を受賞されたとか。私まだ読めてないので来週か再来週にでも読んでみたいなぁと思ってたり。何にせよホットな作家さんです。

 いつもの如くネタバレの嵐なので悪しからず。

 ユーフォに登場する上級生の中川夏紀視点で進むお話ですが、ユーフォ未読でも読めると思いますよ(適当)。部活を引退してから卒業前後までのお話で、3章に分かれており「誰々は○○」という形で友人の優子・希美・みぞれに焦点を当ててそれぞれの人間性を観察しながら「自分自身への印象は?」という問いの答えを見つける内容です。

 1章の「傘木希美はツキがない。」は、夏紀の希美に対するイメージを中学時代から大量退部騒動に至るまでの二人のやり取りを回想しながらツキがない根拠を掘っていく感じ。人間関係の価値観の違いや夏紀が希美に対する負い目を感じていたことも分かり、希美が部に復帰しようとする際の「夏紀ありがとね」「礼なんていいよ」の下りがより深みのあるやり取りになるなぁと思いました。ツキがないというのと負い目の原因は夏紀の一言で退部してしまい、その次年度から部の体制が変化し希美たちが辞め損になるような結果になってしまった。もし自分が余計な一言を言わなければ希美はそのまま部に残り新しい体制下でリーダーシップを発揮し自分がいた副部長の位置に収まっていたかもしれないと後ろめたく思っていたのです。夏紀が「辞めたら希美からの誘いがなかったことになる」「希美の影響を受けた自分を失いたくない」という理由を挙げていて、ユーフォや映画『リズと青い鳥』(以下リズ)より希美の「罪な女」度がさらに上がりました。そんな回想をしながらかつて部をやめて軽音部に移った同級生と希美からバンドに出てみないかと誘われて快諾するのでした。

 「鎧塚みぞれは視野が狭い。」はみぞれの音大受験前後から合格祝いに行った遊園地でのお話です。バンドのお話から副部長に任命された頃の回想からみぞれの方に話題が流れて遊園地の時系列へ。「みぞれ何乗りたい?
」に「フリーフォール」と答え3人を「え?」と固まらせて希美と優子を乗り物酔いでダウンさせるまで乗るという天然鬼畜所業を行ったのち夏紀と希美が観覧車で二人っきりになり口数の少ないみぞれと言葉を交わすのでした。みぞれと夏紀の直接の会話はここのみで第三者(優子や希美)との会話を介して人物像を描いておりべったりな希美や甘々の優子とは違う距離感が伺えました。「アントワープブルー」という架空の曲の「僕は君になりたかった」というフレーズは夏紀と特定の誰かではなく彼女らのそれぞれの関係性に刺さるなぁと私は思いました。

 「吉川優子は天邪鬼。」では最も付き合いの深い優子とのお話がメイン。部長副部長として支え合う二人であったりバンドのパフォーマンスに至るまでの紆余曲折などが詰まっています。特に部活時代の二人は前章以前で出てきていたあすか先輩から告げられた副部長任命理由もあり優子の天邪鬼を一番理解していることがよくわかります。部長として部員に弱い部分を見せられない優子を強制的にスイッチをオフにする役目だということが改めて描かれています。カリスマ性(扇動性)があり1年前のような衝突の芽を摘んで回る優子は優秀過ぎたのです。部員の前ではしっかりしたリーダーでも二人きりの時はいつもの二人に戻るという描写がそれをしっかり描いてました。あとお泊り会で恥ずかしいこと言い合うのも二人の仲の良さを表していて好きな場面でした。そして「中川夏紀はめちゃくちゃ身勝手な人間やねん」という言葉。各章タイトルで「誰々は○○」形式で他人を表しエピローグで自分についてのイメージを言い表しますが、ぴったり優子の言っていた通り「中川夏紀は身勝手だ。」と言い表し物語は幕を下ろします。

 私の考えではタイトル中の「君」も結局は特定の誰か一人ではなく夏紀から他3人個人個人に向けた「君」なんだと思います。ユーフォやリズで「夏紀×優子」「希美×みぞれ」や「夏紀×希美」「優子×みぞれ」の関係が注目されていましたが「夏紀×のぞみ」が深堀されたんじゃないかと思いました。あとみぞれに彼氏ができたらという話題でむせる希美や数日寝込むと言う優子や存在しない優子の彼氏にマウントを取ろうとする夏紀は読んでいて「お前らそういうところやぞ」ってめちゃくちゃ突っ込んでました。

 と、ユーフォファン目線でしか感想書けませんでしたが、綾乃先生の心理描写や情景描写に改めて惚れ惚れしながら読み込みました。相変わらず人間の黒い部分が感じられて序盤の退部時期の回想はうへぇって思いながら読んでました。読了時間は3時間程度。早いのか遅いのか分からないけど久々の読書でいい気分転換になりました。

以上、感想になってない感想でした。

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