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Obsidianで医学知識を管理する

はじめに

こんにちは。Phenolです。
何人かから要望があったので僕がどのようにしてObsidianを使っているかまとめたいと思います。

僕は特段IT関係に強いわけではないのでObsidianそのものについての使い方や説明は割愛しますが、医学を学ぶ上でObsidianを具体的にどう運用していけばいいかという点に重きをおいて書いていきたいと思います。
これはあくまで僕が現時点で辿り着いているひとつの方法論なので、万人にとっての最適解ではないと思いますし、今後僕ももっと良い使い方を開拓していくと思います。
ですので、とりあえず医学 ✕ Obsidianの取っ掛かりがつかめない人の第一歩を後押しできればいいなというマインドで書いてきます。

今回も最後のおまけ資料だけ有料設定になっていますが、記事そのものは最後まで無料で読めます!

Special thanks

今回の記事はしおんさん (@preproshio_med)主催のObsidianギャラリーに投稿した自分の記事に加筆・修正を加えて公開しております。
開催ありがとうございました。とても参考になるのでみなさんもぜひ!

総論・考え方

まずはObsidianで医学情報をまとめる際に僕が前提として意識している情報への向き合い方についてお話したいと思います。これはObsidianに限らず、医学のPKM (Personal Knowledge Management)に一般化できる気がします。
個人的にはこの総論にあたる部分を考慮するかどうかでObsidianの有用性が大きく変わると思うので、具体的な運用方法の前にまずお伝えします。

総論① PKMの強みは網羅性ではなく最適性

まず最初にObsidianを始めると、ここにすべての情報を集約しよう、という発想が生まれてくると思います。これ自体はいい方向性だと思います。
一つ注意をしなければいけない点は、その「情報」とは「自分にとって重要な情報」であるべきで「学問全体の情報」ではないという点です。
それでは「自分にとって重要な情報」とはなにかを考えたときに、僕は次の2点として暫定的な定義をしました。

1. 自分が知らなかった情報
2. Googleなどで検索しても出てこない情報

1についてはそのままですが、2について少し補足します。
ここではGoogleとしていますが、Googleでなくても自分にとって「すぐアクセスできる情報」であれば該当します。人によってはアプリ版のYear Noteとかはそうかもしれません。

逆に言えば、僕はこの2点のいずれにも該当しない知識は入れる必要がないと考えています。既知の情報は当然として、検索してすぐ出てくる&検索先がわかってる情報はそっちで探したほうが早いからです。不要な情報を入れすぎると、相対的に重要な情報の濃度が薄まるため、PKMにおけるノイズになるとすら考えています。

ただし、何度も検索をかけてしまうような頻出、かつその反復によっても覚えられていない知識に関してはケースバイケースで入れるのもありだと思います。

網羅性とアクセシビリティはトレードオフの関係にあります。
Obsidianの強みは広大なインターネットと異なり、自分だけの情報ベースを構築できる点にあるため、ここにおいては「なんでも載ってるデータベース」よりも「自分に最適化された第2の脳」と位置づける運用を僕はおすすめします。

総論② 可読性を高める

すでに述べたとおり、僕はObsidianの強みを最適性と捉えています。
①では入れる情報の最適化について書きましたが、ここでは情報を取り出すときの最適化について書いていきます。

情報を取り出す際には、

1. 重要な情報を
2. 必要なだけ

取り出すことが時間的・負荷量的な効率化に繋がります。
そのために僕がしていることを所感込みで列挙しておきます。

・基本的には箇条書きで情報を書く
 ↪ 余計な助詞や句読点、つなぎの文を省ける
 ↪ 情報の超最小単位が可視化されている
 ↪ 文章を読むより情報の取得が早い
・ネットや資料からのコピペはできるだけ避ける
 ↪ 楽だがノイズも入りやすくなる
 ↪ 自分が理解しないまま放り込まれる可能性
 ↪ 無数の情報の中から抽出して統合する過程が重要
・参考資料は末尾に記載しておく
 ↪ 自分の場合は論文やURLを記載しているため、将来的に根拠を求められたときにすぐアクセスできるようになっています

総論③ ひとつのノートは「最小限に統合された知識」

最適化3部作(言うのが遅い)の3つめ、情報単位の最適化です。
Obsidianにおいてはノート間をリンクでつなぎ、関連する情報の間をシームレスに行き来することが可能になります。

ここで問題になるのは「ノートの最小単位は何にするか」だと思います。
情報を分割しすぎると一覧性に欠けますし、情報を統合しすぎるとアクセシビリティが落ちリンクによるネットワークが活かせませんよね。

では医学における「一覧性が必要な場合」がどういうときか、つまり一度にまとまった情報を引き出し、かつその情報群が過不足なくなるグループはなにかということを考えましょう。

僕の場合は以下の3つを最小単位にするという結論に達しました。

1. 「疾患」のページ
1つの「疾患名」に対し、「疫学」「病態」「症状」「マネジメント」などの下位項目が対応するページ
例:Behçet病、アミロイドーシス、など


2. 「鑑別」のページ
1つの「所見(症状、検査値など)」に対し、鑑別に上がる「疾患群」が下位項目として対応するページ
例:開口障害、蛋白漏出性胃腸症、若年性の脳梗塞、など


3. 「知識」のページ
1, 2に該当せず、「あるトピック」→「1階層以内に収まる下位項目」を満たすページ
例:ウレアーゼ産生菌、輸入感染症を疑ったときの問診、など

ちなみにこれは人によって変わり得ると思っていて、薬を専門にされている場合は「薬剤名」、感染症が専門の場合は「微生物名」のように、他にも候補は多数あります。
3で述べた下位1階層までという点を意識して作ると良い気がします。

ちなみに余談ですが、1と2はリンク付けと相性が良くて、鑑別ページからそのまま疾患ページに行けたり、疾患ページからバックリンクで鑑別疾患を検索できたりして便利です。

各論

各論では実際の画面を見ながら話していきたいと思います。

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各論① フォルダ分けについて

タグのところで詳述しますが、Obsidianではタグに階層構造を付与できるのでフォルダで項目を分ける意味はあんまりないです。
というのも、フォルダでは1つのノートに対して1つの属性しか指定できませんが、タグは複数つけることができるので、タグのほうが自由度・網羅性が高いからです。
なので、新規ノートはたとえ循環器でも呼吸器でも、疾患ページでも鑑別ページでも、微生物でも薬剤でも全部InBox内にぶち込んでいます。
MOCに関してはよく使うので特別枠で設けてます。

唯一フォルダ管理が活きてくるのはファイルのお引っ越し時や人と共有するタイミングなので、医学フォルダ (=InBox)、日記、Obsidian関連などとそもそもの目的別には分ける意味があると思います。
また、zotero, attachment, templateなどはシステムの管理上ファイルの場所を1対1で指定する目的で必要になってきます。

あとこれはフォルダでもタグでも共通ですが、名前をつけるときは冒頭に数字ないしはアルファベットをおいておくときれいに整列してくれたり、検索やサジェストの際に1文字目を入れるだけで絞ってくれたりするので便利です。

各論② タグ管理について

個人的に、Obsidianを使う上で非常に重要度の高い部分がこのタグ管理です。
前述した通りObsidianではタグに階層構造をもたせることができるため、一般的にイメージするフォルダ分けをこのタグ管理に担わせます。

具体的に僕がどうタグ付けしているかは見ていただいたほうが早い気もしますが、大きく分けてSystem1タグ(直感的タグ)とSystem2タグ(系統的タグ)の2つの概念で使い分けています。
System1とSystem2についてはご存じない方いればググってみてください。
構成の都合上まずはSystem2タグから説明していきます。

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System2タグでは、フォルダ管理の代わりに担わせてる機能のメインになります。
僕の場合は病態(生理学的側面・機能的側面)、診療科(解剖学的側面・形態的側面)、症状(表現形)を3本柱にして、必要に応じて身体所見、検査所見、薬剤、病原体、診断特異度の高い病歴などを追加しています。
また、そのノートの属性そのものを指定するPropertyタグも使ってます。
Propertyではそのノートが、総論で触れた「疾患」「鑑別」「知識」のどこに分類されるのかを標識しています。

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ちなみに病態では自分がよく使うオリジナルフレームワークのMEDIC GATESを使ってますが、VINDICATEIIIPとかと同じ位置づけです。診療科では国家試験のA~Zを改良したもの、症状はよく使うものはcommonで括って上位に表示されるようにしています。

症状に関してはさらに最初からすべて網羅して作っておくのは難しいので、適宜追加できるように「症状の部位を表す上1桁」+「症状の追加順を表す下2桁」で整列させています。例えば1桁目は0が全身症状、1が神経症状、2が頭頚部、3が胸部…のように症状が関連する場所(解剖学的分類ではないのでざっくりと自分のイメージが優先です)を定めています。

System2タグはフォルダ管理の代わりを担わせているため、最低でも1つ以上はノートに系統的なタグを付与するようにしましょう。なぜなら属性を1つ指定するだけでフォルダ管理に少なくとも劣ることはなくなるからです。
僕は毎回記入するのが面倒なのであらかじめPropertyごとにタグ埋め込み済みのテンプレートを用意してます。
加えて例えば「病態-自己免疫」「診療科-膠原病科」「症状-発熱」などもよく使うタグセットなので、自己免疫疾患のテンプレートとして準備してあります。

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System1タグはSystem2タグと対称的に、あまり階層構造は設けていません。
これは直感的につけたくなったタグを付けていくだけなので、僕の場合は「スライド」「語呂合わせ」「日記」「ケース」など、適当につけてます。

ちなみにタグはTag Wranglerプラグインであとから一括編集したり統合したりができるので、とりあえず臆さずに適当に始めてみるのが良いと思います。

各論③ リンク付けについて

画面右下にはアウトゴーイングリンクとバックリンクそれぞれのサジェストをさせるペインをおいています。
これによって自分で意識してリンク付けしてしていく場面がだいぶ減るので、気づいたらノートがネットワークを形成してるようになります。
この機能を存分に活かすために、フロントマターのエイリアスはちゃんと記入しておくことがおすすめです。

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こんな感じでサジェストされます。

各論④ デイリーノートの位置づけ

デイリーノートには医学とは直接関係しない、日々の所感やToDoListなどを書いています。
日々の所感と言っても、僕の場合は診断プロセスの振り返りだったりキャリアについての考察、学習方法などについてが多いですが…

本編と違って気軽に書けるのが利点ですね。


あとこれは結構好みが分かれると思いますが、デイリーノートよく使う場合はカレンダーを表示しておくと過去のノートに直感的に飛びやすいのでおすすめです。
Obsidianギャラリーに投稿した際は僕はここにMOCプラグインを入れてましたが、カレンダーのほうが必要なタイミングが増えたので入れ替えました。

各論⑤ MOCについて

MOCは今もっと良い構成を考えているところですが、現状はこんな感じで自分のよく使うノートにアクセスしやすいようにしてあります。
基本的にはすべてのノートはMOCにつながるべきであると僕は考えているため、新しい話題はMOCのどこかにリンク付けしてからノートを作成しています。

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また、あとで作りたいなーというページはとりあえずMOCの当てはまる項目に「未作成のリンク」状態で保留しておいて、時間のあるときにクリックして新規ページを立ち上げています。
こうしておくことでFind unlinked filesプラグインを用いてMOCのトップに未編集のページを集約して表示させることができます。

その他

上でまとめきれなかった雑多なTipsに関して記載していきます。

その他① ランダムノート

分散学習ツールほどしっかりしたものではありませんが、作ったページをランダムで表示してくれる機能があります。作りっぱなしになってしまうともったいないので、ランダムノートで定期的に想起することで記憶への定着と新しい知識との統合が図れます。

その他② タグの作成

疾患ページを作る際にいちいち最初からタグを作るのが大変なので、テンプレートにはあらかじめよく使うタグ+{{title}}で用意しておき,ページ名のタグが自動的に入力されるようにしています。

その他③ Ankiとの使い分け

個人的にはObsidianは自分にとって必要な情報の集合体、Ankiに入れる内容はそのうちさらに次の条件のいずれかを満たすものにしています。

1. 試験対策
2. すぐに想起すべき必要のある単階層の知識(適応の薬、副作用など)
3. 語学

なので例えば複雑な病態とかはあまりAnkiに適さない気がします。
試験対策でなければ。

これは別なところでも言っていますが、Ankiは素晴らしいツールですがAnkiを使わずに覚えられるものは使わずに覚えたほうがいいですし、同じようにObsidianに入れるまでもなく知っている知識はObsidianに入れる必要がないと思ってます。
自戒も込めて、ツールに使われないように注意しましょう。

その他④ ノートテイキング

実はObsidianはまとめノートだけでなく議事録としても使ってます。
その場合はProperty/Recordというようにそれとわかるような属性を振っています。
あとからノートコンポーザーを用いることでそのまままとめ記事にもできたりするので、カンファレンス中や勉強会中に一定のまとまりがある話が出てきたら小見出しでまとめておくのがおすすめです。

その他⑤ 本のまとめ

本を読みながらObsidianにまとめることもあります。
本の内容をまとめるときは本のトップページを作る→メモしたいこと見つけたらリンク作成してできるだけ小さい単位でノート作成 (単位を小さくした方が他とリンクさせるときに関連度が上がる)って感じです。
bookやauthorでタグ作っておくと便利かもしれません。

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その他⑥ プラグイン

使ってるやつのスクショ載っけておきます。

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その他⑦ テーマ

Blue Topazがおすすめです!
他にも色々ありますが、自分にあったものを探してみると良いと思います。

その他⑧ テンプレート

テンプレートにはフロントマター、ノートタイトルをあらかじめ埋め込んでいます。フロントマターでは特にタグとエイリアスが重要です。

テンプレートの利点のひとつは面倒なタグ入力を自動化できる点だと思っているので、よく使うタグ(自分の場合はPropertyで分けた4つが頻用です)とよく使うタグの組み合わせで登録しておくと良いと思います。

これもフォルダやタグのネーミングと同様で、テンプレートファイルの頭に数字を振っておくのがおすすめです。例えばよく使うものは0番から(一番上に表示されるので)、タグセットは100番台、症状は200番台のように分けておくと挿入が便利になります。

その他⑨ チェックしておくと良いこと

ここまで読まれた方にはすでに不要なことかと思いますが、マークダウン記法、mermaid (マークダウンでの図表作成)、PCのキーボードショートカット、Obsidianのホットキー、医学辞書登録、医学英語のポップアップ辞書登録、大学回線のVPN設定、zoteroなどはチェックしておくと効率上がると思います。

今後やってみたいと思っていること

・エクセルからObsidianへのリンクを貼ったりして経験症例の管理をうまくできるようにする
・タグの検査所見を初期・スクリーニング検査のSnと診断を詰めていくときの検査のSpに分けてみる
・MOCの下に子MOCを作る
・勉強仲間のあいだで共有Obsidianを作る

この辺に関してアイディアある方いたらコメントか質問箱かリプライください!

最後に

ここまで読んでいただきありがとうございました。何かの参考になれば幸いです。

後半は説明が雑になってる気がするので(すみません)、もし詳しく加筆してほしいなどの要望があったらTwitterの質問箱に投げてください。気が向いたらやります。

また、ここはこうした方いいよとか自分はこうやってるよみたいな意見ある人いたらぜひ教えて下さい。ディスカッション歓迎なのでよりよい使い方を模索していければと思っています。

以下のおまけの説明

記事は以上ですが、この先には実際に僕が作ったノートのマークダウンファイルがいくつか例としてGoogle Drive経由で置いてあります。

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一応上で紹介した「疾患」「鑑別」「知識」のノートがそれぞれ例として入っていて、一部ですがリンク付けされたファイルも一緒に入れてあるので、自分のObsidianに入れてみるとより具体的な運用ができると思います。

タグについても紹介したSystem2タグのうち病態のみVINDICATEに置き換えたものが入ってるので、これを入れるだけで基本的なタグ設定は僕のものをそのまま踏襲できるはずです。

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記事書くのに意外と時間かかったので、もし投げ銭感覚で応援してくださる方がいると今後の更新の励みになります!

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