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咳嗽に対して用いる漢方薬はどのように選べばよいですか

〇はじめに

咳嗽に対して漢方薬が処方されることがあります。

様々に使い分けられているように見えます。いったいどのような基準で選ばれているのでしょうか。

病名だけでなく、漢方のパラダイムで使い分け方を解説します。記事は和漢の成書と以下の論文をもとに執筆しています。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/116/10/116_1093/_pdf/-char/ja

耳鼻咽喉科領域における漢方治療

〇代表的な2方剤

激しい咳き込みに用いる方剤に、麻杏甘石湯と麦門冬湯があります。

●麻杏甘石湯
[麻黄・杏仁・甘草・石膏]

激しい咳で顔面が紅潮し、身体に熱感(肺熱などの裏熱)があり、明らかな口渇や粘った汗を伴うときに用いられます。

少陽病期・胸内型・実証の方剤です。

●麦門冬湯
[麦門冬・半夏・粳米・大棗・人参・甘草]

ゲッとなるまで咳き込みがあり、咽頭絞扼感を伴う乾燥性咳嗽に用いられます。

気道の津液が枯渇し、熱(肺熱など)を帯びた状態です。口渇はあっても軽度で、自汗は伴いません。

少陽病期・胸内型・虚証の方剤です。

滋潤作用がある人参を含むために、痰(特に膿性)が極めて多い症例では悪化させる可能性があるので注意が必要です。

●少陽病期・胸内型について
少陽病期では、表の部を主座とした太陽病期で病変が寛解せず、半表半裏の部位に主座が移行しています。

病型は大きく6型に分類されます。そのひとつ、胸内型は気道や胸郭内の症状を呈するに至った病態です。

気管支炎・肺炎症状などの呼吸器疾患、虚血性心疾患などの心臓疾患が多く見られます。

〇咳の方剤 その他
六病位や虚実を判定し、同じ少陽病期・虚証/虚実間証にあっても、特異的症候を勘案して次のような使い分けがなされます。

●柴朴湯
[柴胡・半夏・茯苓・黄芩・厚朴・大棗・人参・甘草・ 蘇葉・生姜]

遷延した感冒後の咳で、咽頭閉塞感(気鬱:きうつ)や胸脇苦満があり、 痰が絡まるときに用いられます。

少陽病期・胸内型・虚実間証の方剤です。

●滋陰降火湯
[蒼朮・地黄・芍薬・陳皮・天門冬・当帰・麦門冬・黄柏・甘草・知母]

虚証で膿性痰が絡み、 乾性咳嗽でも皮膚が乾燥・萎縮(血虚:けっきょ)し、布団に入るとすぐ咳き込むときに用いられます。

少陽病期・胸内型・虚証の方剤です。

●竹筎溫胆湯
[柴胡・竹筎・茯苓・麦門冬・陳皮・枳実・黄連・甘草・半夏・香附子・生姜・桔梗・人参]

いらいら・のぼせ感があり、腹部膨満感や食欲不振を伴い、粘稠痰が出るときに用いられます。

少陽病期・胸内型・虚実間証の方剤です。

〇口腔・咽喉頭の乾
●麦門冬湯
[麦門冬・半夏・粳米・大棗・人参・甘草]

口腔・咽喉頭の乾燥症状に対して用いられます。シェーグレン症候群などによる口腔乾燥症を改善したとする報告があります。唾液分泌促進効果には速効性があり(20~30分)、ムスカリン受容体作動薬の約半分の効果がみられました。

〇まとめ
咳嗽・遷延性咳嗽は六病位で少陽病期・胸内型の病態に分類されます。半表半裏の熱証です。

六病位の他、証の虚実や特異的症候を勘案して、最終的に方剤が決定されます。

激しい咳き込みがある場合、明らかな口渇や自汗のある実証では麻杏甘石湯、虚証では麦門冬湯を用います。

虚実間証・気鬱で咽頭閉塞感がある場合は柴朴湯、虚証・血虚があり皮膚の萎縮のある場合は滋陰降火湯を用います。

また、虚実間証でいらいらや胃症状を伴う場合は竹茹温胆湯を用います。

〇推薦図書
症例から学ぶ和漢診療学


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