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「錠剤の効果をすぐに得るには服用姿勢が重要」なのかを考察した

CareNet.comという医療従事者向けのサイトニュースに「錠剤の効果をすぐに得るには服薬姿勢が重要」という見出しの記事が掲載された。

マジすか⁈の勢いで記事を読みに行く
もちろん会員なので全文を読める

記事を読んで「そうなのか?」と深まる謎
服用した錠剤が分解されるまでにかかる時間の差が姿勢によって10分だったり100分だとか書いてあるのだが
錠剤の分解って何?と突っ込みたくなるのが製剤を学んだ薬剤師
別に製剤学の記憶がおぼろでも、後発品の生物学的同等性試験とか溶出試験は薬剤師ならば説明可能な項目だし
簡易懸濁法を聞きかじりでも知っている薬剤師ならば
先ず「錠剤の分解」って言葉にツッコミたくなるし
崩壊に10分以上の時間がかかる錠剤とは?そんなのPMDAが通すのか?とツッコミたくなる
こんな笑えるネタは(記事にする時の)原著論文の訳のミスだろう

原著論文はこちら

本当に生きているヒトが薬をのんで効きかたの差を比較したのではない
胃の現実的な解剖学と形態に基づいたシミュレーター を使用して薬物動態を調査した。
ものだと
で、シミュレーションでは姿勢の変化が十二指腸へ の排出速度に大きな 影響を与える可能性があることを示していると
Abstractに書かれている。
本文は見れなかった。

薬は胃で溶けて腸から吸収されて血液に入ってから効果を発揮する。
というのが前提条件。
もちろんそうでない薬もあるが、大体の薬はそのような流れで効き目が出る。

薬の溶出試験は in vitro いわゆる人体の外、試験管で行われる。
試験管っていうのは言葉のアヤだけど、つまり目で見て確認できる状態で試験が行われる。
だから、本当に胃の中でも同じように溶けてる?とツッコみがはいると返答に困る。
溶けてるかどうかは不明だけど
薬を飲んだ後血液検査して血液の中に薬の成分が検出する試験を行っているので、この薬は服用して何時間後に効いて何時間したら効き目が無くなる、体の中から消えていく。は厳密に確認している。
そのデータを基に投与間隔や至適用量が設定される。

まぁでも、これ薬を飲む全員に同じように当てはまるのか?というとそうではない。
年齢とか性別とか体重とか疾患の状態とかで変化する。
薬剤師は日常業務の中で、処方箋に書かれた服用量がその人にとって適切な服用量かを必ず確認した上で薬をお渡ししている。
たまに、まれに、服用量これでいいのか?と疑問を抱いた時には処方医師に疑義照会を行う。
疑義照会前に調べたり、医師からの返答に時間を要したりで薬を待つ方をお待たせしてしまうこともしばしばある。
お待たせしてお怒りをかう時もある。
「医者の言う通りさっさと薬を出せばいいんだよ!」
「余計な口出しするな!」
と言われてめげる時もある。
こんなとき大概は「あなたのための疑義照会なんです」という正論は通じないからさらに悲しい。

ーーーーー   閑 話 休 題  ーーーーーーーー

ケアネットの記事の
姿勢により錠剤が分解される時間に大きな差があった
の部分はAbstractに記載無かった。

だからといって見出しのように
「効果をすぐ得るため」
というのは煽り文句ではないのだろうか?
少なくとも遅くする要因、姿勢の変化や胃不全麻痺に関連する洞収縮性の低下は確かめられているが、速くする要因については書かれていないし標準との比較も記載されていない。

薬をのむのは効いて欲しいからで、速く効いてくれた方が良いに決まっている。
と単純に思えるが
解熱鎮痛剤のように速く効いて欲しい薬もあれば
血糖降下薬や血圧降下剤のように速く効くのに適さない薬もある。
ということを知った上で

「じゃあ私がのむこの薬はどんな姿勢でどうやって服用するのが適切ですか?」
と、薬を渡している今あなたの目の前にいる薬剤師に問いかけて欲しい。

そして
納得のいく答えをくれる薬剤師を選んで欲しい
と切望する。


蛇足
通常の保険薬局の窓口業務で
水を飲んでも咽せず、誤嚥性肺炎のリスクが全くなく
三食きちんと食べて普段から水分も適切に摂っている慢性疾患の方に
私が訊かれた時は
「コップ一杯、約200mlの水道水で服用してください。」
「食後と書かれていたら食後直ぐで構いません。」
「ゴックンする時はやや俯きかげんで」
「上を向いて口に薬を流し込むのは危ないです。」
等々説明しています。


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