ART妊娠における倍数性異常の頻度

Accurate Detection and Frequency of Abnormal Ploidy in the Human Blastocyst

Validation of a targeted next generation sequencing-based comprehensive chromosome screening platform for detection of triploidy in human blastocysts

参考論文

Kratka C et al. Accurate Detection and Frequency of Abnormal Ploidy in the Human Blastocyst. F S Sci. 2023 Feb 28:S2666-335X(23)00011-3.
Marin D et al. Validation of a targeted next generation sequencing-based comprehensive chromosome screening platform for detection of triploidy in human blastocysts. Reprod Biomed Online. 2018 Apr;36(4):388-395.

要旨

前々回の記事に、染色体異常が原因の流産のなかで、最も多いのは常染色体トリソミー、次いで3倍体、そして45,Xという記事を書きました。このようなメタ解析において、妊娠について自然妊娠やART妊娠を分類していることは少ないようです。流産における染色体異常が原因の割合が多いことから、PGT-Aでは、染色体異常を持つ受精卵の移植を避け、妊娠しない胚の移植や流産・死産のリスクを軽減することを目的としています。しかしながら、現在PGT-Aの解析技術で主流のNGSを用いたlow pass WGSによる染色体のコピー数異常を検出する手法は、その解析手法の特性上、流産検体における染色体異常のうち、10-15%程をしめる3倍体の検出を苦手としています。ということはPGT-Aで正常胚と判定された受精卵のうち、ある一定の割合で倍数体の受精卵が含まれているかもしれません一方で、前回の記事に書いたように、IVFやICSIによる妊娠に限定しますと(PGT-Aなし)、流産の染色体異常の中で倍数体の頻度は著しく減少していることが分かりました。これは接合体形成時に、前核が1PNや3PNと判定された受精卵は、移植の優先度を下げたり、もしくは移植に用いないという選択を取るためだと考えられます。ということはART妊娠の症例では、倍数性異常を持つ受精卵は少ないことが予想されます。本記事では、SNPを用いて遺伝子型から胚盤胞期における倍数体の頻度を算出している論文を2報紹介したいと思います。

論文1: Accurate Detection and Frequency of Abnormal Ploidy in the Human Blastocyst

倍数性異常が見られたのは、PGTを行ったうちの277/19,369(1.43%)
IVFかICSIかは、正確な数値はわからないが、ほとんどがICSI(著者談)
81(0.97%)が1倍体(haploid)、もしくは全染色体が片親由来(iUPD)
7(0.42%)が全染色体が片親由来(hUPD)、
188(0.04%)が3倍体
1(0.01%)が4倍体

論文2: Validation of a targeted next generation sequencing-based comprehensive chromosome screening platform for detection of triploidy in human blastocysts

ICSI妊娠した18,791の胚盤胞期の受精卵をTE生検して解析した結果
89(0.474%)が3倍体 (26が69,XXY、16が69,XXX、47に他染色体に異常を持つ)
10(0.053%)が1倍体(haploid)、もしくは全染色体が片親由来(iUPD)

考察

PGT-Aによる胚盤胞期の受精卵で3倍体の出現率は、流産検体の解析から予想される数値よりも低い数値を示していました。これはPGT-Aで見られる染色体異常は、トリソミー + モノソミー + 3倍体 + その他と、流産検体で見られる染色体異常は、モノソミーは45,Xと45,-21以外はほとんど見られませんので、トリソミー + 3倍体 + その他となり、多くのモノソミー染色体異常を持つ受精卵は妊娠しないか、妊娠10週前後よりも前に淘汰されることが予想されます。そのため流産検体で3倍体の割合がPGT-Aよりも高くなることは予想できますが、それにも関わらずPGT-Aで3倍体の頻度は低いです。
これは3倍体発生のメカニズムに起因するかもしれません。自然妊娠やIVFでは、dispermyと呼ばれる2精子が1卵子に受精する可能性があります。これは、1卵子に1精子を注入するICSIによって避けることができます。3倍体の原因としては、他にも精子数が少ない男性によく見られる、diploid精子との受精で3倍体が発生することもあります。また卵子形成時に第二極体が押し出されないこと、2つ核を持つ巨大卵子の受精、endoreduplicationによる3倍体化なども知られています。しかしながら、多くのARTクリニックでは、接合体形成時に前核数を調べます。前核が2つある接合体は、2倍体胚であることを示すため、移植の候補とします。しかし、多くのクリニックでは、1PNや3PNを持つ胚は移植の優先度を下げたり、PGT-Aの対象から外すことを選択しています。こういったICSI妊娠やPN数の確認によって、ART妊娠では3倍体の発生頻度が低くなっているかもしれません。
また3倍体の発生頻度はART施設ごとに異なるかもしれません。というのは、PN数に関わらずPGT-Aに用いるところもあれば、1PNや3PN胚をPGT-A検体から完全に除外している施設もあると思います。個人的にはPN数の確認をしないのであれば、PGT-A時に倍数性の確認もする方がいいかもしれません。これは胚培養士の負担を減らすこともできますし、前核消失によりPN数を確認できなかった受精卵も対応できます。また1PNや3PN胚であっても正常核型を示すこともあるようですので、PN数のみを信じて、妊娠出産可能胚を移植に用いないリスクがあります。PGT-A全胚ではなく、46,XXの核型を示す胚のみに追加検査として倍数性確認検査ができれば、PGT-A費用を抑えることもできます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?