生殖補助医療が流産組織の核型に及ぼす影響

Effect of assisted reproductive technology on the molecular karyotype of missed abortion tissues

Chromosomal abnormalities in products of conception of first-trimester miscarriages detected by conventional cytogenetic analysis: a review of 1000 cases

参考論文
Li G et al. Effect of assisted reproductive technology on the molecular karyotype of missed abortion tissues. Biosci Rep. 2018 Oct 17;38(5):BSR20180605.
Pylyp LY et al. Chromosomal abnormalities in products of conception of first-trimester miscarriages detected by conventional cytogenetic analysis: a review of 1000 cases. J Assist Reprod Genet. 2018 Feb;35(2):265-271.

要旨

前回の記事で、染色体異常が流産の原因となるのは、流産の約50−70%で、最も多いのが常染色体トリソミー、次いで3倍体、45,Xとなります。と書きました。しかしながら、この数値は自然妊娠とART妊娠の区別をしておりません。本論文では、生殖補助医療技術(IVFやICSIによって妊娠)が流産組織の核型にどう影響するか調べた論文を2報紹介したいと思います。

1報目 「Effect of assisted reproductive technology on the molecular karyotype of missed abortion tissues」

自然妊娠(404)、ART妊娠(IVF(772)+ICSI(317))合わせて1493症例をSNPアレイを用いて解析しました。

常染色体トリソミー ART妊娠:自然妊娠 = 487(65.6%):110(54.7%)
欠失 ART妊娠:自然妊娠 = 19(2.6%):4(2.0%)
重複 ART妊娠:自然妊娠 = 19(2.6%):4(2.0%)
3倍体 ART妊娠:自然妊娠 = 42(5.6%):21(10.4%)
常染色体モノソミー ART妊娠:自然妊娠 = 18(2.4%):0(0%)
45,X ART妊娠:自然妊娠 = 35(4.7%):17(8.5%)
モザイク ART妊娠:自然妊娠 = 27(3.6%):8(4.0%)
UPD ART妊娠:自然妊娠 = 16(2.2%):12(5.9%)
複雑異常 ART妊娠:自然妊娠 = 61(8.2%):17(8.5%)

染色体異常の内訳を調べてみますと、ART妊娠は自然妊娠と比較して常染色体トリソミーや常染色体モノソミーの割合が高い一方、3倍体、45,X、UPDの割合が低い傾向にありました。

2報目「Chromosomal abnormalities in products of conception of first-trimester miscarriages detected by conventional cytogenetic analysis: a review of 1000 cases」

自然妊娠(631)、ART妊娠(ICSI, 369)合わせて1000症例をGバンド法で解析しました。

常染色体トリソミー ART妊娠:自然妊娠 = (68.1%):(54.5%)
倍数体 ART妊娠:自然妊娠 = (14.7%):(26.5%)
モノソミー ART妊娠:自然妊娠 = (8.9%):(6.8%)
構造異常 ART妊娠:自然妊娠 = (5.2%):(8.1%)
複雑異常 ART妊娠:自然妊娠 = (3.1%):17(4.2%)

この論文でもART妊娠は自然妊娠と比較して常染色体トリソミーの割合が高い一方、3倍体、モノソミー(おそらくほとんどが45,X)の割合が低い傾向にありました。

考察

2つの論文に共通して言えることは流産における染色体異常率は、自然妊娠とART妊娠(PGT-Aは行っていない)に関わらず差はありませんでした。一方で染色体異常の内訳を比較してみますと、ART妊娠の方が常染色体トリソミーの割合が高くなる一方で、3倍体やUPDが低くなりました。おそらくART妊娠では、IVFやICSI後に受精卵を観察し、3PN胚や1PN胚の移植優先度を低くしていることが原因かもしれません。となるとPGT-Aでは倍数体やUPDを調べる必要性は低くなるかもしれません。次回はSNPアレイでPGT-Aを行なっているグループの論文を読んで、移植前の受精卵における3倍体やUPDの頻度を調べてみたいと思います。


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