ACMG-ClinGenガイドラインによる、CNVの解釈と有用性

Utility and Outcomes of the 2019 ACMG-ClinGen Guidelines for Interpretation of Copy-Number Variants With Borderline Classifications at an Academic Clinical Diagnostic Laboratory

参照論文
Drackley, A. et al. Utility and Outcomes of the 2019 ACMG-ClinGen Guidelines for Interpretation of Copy-Number Variants With Borderline Classifications at an Academic Clinical Diagnostic Laboratory. J Mol Diagnostics 24, 1100–1111 (2022).

2019年に、American College of Medical Genetics and GenomicsとClinical Genome Resource(ACMG-ClinGen)は、検査室間の標準化と一貫性の向上を促すことを目的として、コピー数変異(CNV; Copy Nnumber Variation)の解釈と報告に関するガイドラインを発表しました。このガイドラインは前回の記事の1Mbの微細な欠失重複の臨床的解釈にも用いられています。今後PGT-Aの解像度が高くなり、微細なCNVを検出できるようになると、そのCNVがPathogenicなのか、それともBenignなのか臨床的解釈する機会があると思います。その際に客観的な評価ができるように、ACMG-ClinGenガイドラインが制定されました。また日本において、先天性疾患疑いのある患者における染色体変異関連疾患の検査としてマイクロアレイ染色体検査が保険適応となり、マイクロアレイ染色体検査で検出されたCNVについて、やはりACMG-ClinGenガイドラインを用いて、臨床的評価をしていると思います。本論文では、ACMG-ClinGenガイドラインがこれまでの各検査期間のCNV評価システムと、どれ程一致するか調べるために、145のCNVについて、ACMG-ClinGenガイドラインと検査室のシステムを用いて、病原性を比較評価しました。

方法

Lurie Children's Molecular Diagnostic Laboratory で、2019年2月から2020年1月の間にCMA検査を受けた患者において同定された145個のCNVについて、ACMG-ClinGenガイドラインと、Lurie ChildrenのCNV解釈を比較評価しました。Lurie Childrenの解釈では、、CNVのサイズと遺伝子含有量、内部および外部データベースとCNVとの重複の有無、一般集団におけるCNVの頻度を系統的に評価し、さらに臨床データを取り入れて、患者の表現型が調査中の遺伝子またはCNV領域と一致しているか評価しています。

結果

ACMG-ClinGenガイドラインと、Lurie ChildrenのCNV解釈の一致率は88/145, 60.7%でした。不一致の評価のうち、48/57, 84.2%は、Lurie Childrenもしくは ACMG-ClinGen カテゴリ間で Benign → VUS分類で、Pathogenic → VUS分類では、37/42,  88.1%でした。
Lurie ChildrenがVUSと評価した割合(49/145)とACMG-ClinGenガイドラインのVUS評価(98/145)の差は、統計的に有意となり(P<0.001)、ACMG-ClinGenガイドラインではVUSを過評価する傾向になりました。Lurie ChildrenがVUSと評価した49個のCNVのうち、4/49, 8.2% は ACMG-ClinGenガイドラインではPathogenicの評価でした。Lurie ChildrenがVUSと評価した28/49のCNVでは、両親の染色体検査も行い、27/28, 96.4%は、親から遺伝していることを確認しました。親から遺伝した26/27個のCNVは、ACMG-ClinGenガイドラインにおいてもVUSと評価されました。

考察

Lurie ChildrenとACMG-ClinGen間のCNV評価の一致率は88/145, 60.7%と低い結果となりました。ACMG-ClinGenガイドラインを用いて評価した場合、Lurie Childrenが評価した場合よりも有意に多くのVUSが得られました。特にLurie ChildrenがBenignと評価したCNVが、ACMG-ClinGenガイドラインではVUSと評価されたCNVが、不一致の48/57, 84.2%を占めていました。これは、ガイドラインが臨床評価を決定づけるデータがない場合、CNVをPathogenicやBenignと評価するのではなく、より保守的な解釈(つまりVUS)を好む可能性があることを示唆しています。
また包括的には、現在では、CNVデータベースが少ないことです。データベースは継続的にアップデートされていますが、データの欠如は依然として続いており、有効なCNV解釈への障害となり続けています。またACMG-ClinGenがgnomAD SVやDGV Gold Standardなどの高信頼性データセットのみを使用するよう勧告していることもBenigin CNVをVUSと過評価してしまう原因かもしれません。実際にDGV Gold StandardとgnomAD SVのデータのみではなく、DGVの全データを使用してCNVを再評価した結果、Lurie ChildrenでBenign、ACMG-ClinGenで当初VUSと評価したCNVの5/48, 10.4%がBenignと再評価されました。
ACMG-ClinGenガイドラインは時間とともにアップデートする解釈であることを期待しています。ガイドラインを利用するための課題として、CNVの解釈に利用できる高品質なキュレーションデータの不足だと思います。また最近のClinGenキュレーションの設定であっても一次文献を見直すことが重要です。
実際にACMG-ClinGenガイドラインを用いてCNV評価すると、大きなCNVであってもVUSと評価することが多かったです。友人にACMG-ClinGenガイドラインの使用法などについて相談したところ、「私はACMG-ClinGenガイドラインを使用せず、Common senseで解釈している」との答えが。。。

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