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【タイ・音楽の旅2023】4日目:TAITOSMITH-今、最も熱いリアルなタイを歌う新世代の代弁者

2023年10月24日

前日に引き続きバンコク滞在。住んでいた事もあるし、コンサートメインの旅行だと夜が中心になるので、バンコクにいる時は昼間はそれほど出歩かない。

この日も朝は比較的早めに目が覚めていたが、すぐに外へは出ず、昼頃まで部屋でのんびりしていた。12時過ぎて昼飯を食べようと思い、近くのお店に向かう。

バンコクでの滞在ではラップラオ方面に泊まる事が多いんだけど、以前宿の周辺には目ぼしい食事処が少なかった。しかし、イエローラインが出来た影響だろうか、少しずつお店が増えているようで、この日はラップラオ通りに面したバス停の付近にできたお店でカオマンガイをチョイスした。

そんなに高くはないけど、きれいに盛り付けられたカオマンガイ

学校が休みなのだろうか、小学生くらいの年齢の男の子がお手伝いをしていた。ここはご飯もの以外にもクウィティアオなどの麺類やスムージーなどの飲み物も充実していて、味はもちろん美味しいし、値段もリーズナブルなので、重宝しそうだ。

この日、夜はランシット方面でのコンサートに行く予定だったけど、出発は夕方でも全然間に合うので、それまで充分時間があった。しかし、どこに行く当てもなく、とりあえずバンガピの様子でも見てみるかと、バスに乗ってザ・モール・バンガピに向かう。

途中、歩道橋からラップラオ通りを眺めてみると、イエローラインは開通したけど、その下はまだ工事の途中の場所があって、つぶされている車線もあった。これだとラップラオ通りの渋滞が完全に解消されるのは、まだ先になりそう。

モーチットへ向かう上り方面は特に渋滞しやすいラップラオ通りの現状

ザ・モールでは4階でワゴンセールをやっていたので、そこで小物を買い、その後は向かいにあるハッピーランドへ移動。自分には高級なザ・モールより、庶民感が漂うハッピーランドの方が居心地が良い。

今までハッピーランドには何度も来たことがあるが、じっくり時間をかけて見た事がなかったので、いろいろ発見があって面白かった。特に何も買わなかったけど。

まだ時間には余裕があったので、近くのロータスを経由して、バンガピの交差点近くにあったパンティップに入ってみる。ここに入るのは初めてだ。

ここも庶民向きの小さなお店がいろいろ入っていて、地下に行くとTシャツを売っているコーナーがあった。タイでは最近、ポリエステル製のTシャツが急速に増えていて、街中で来ている人をよく見かける。僕も何枚か持っていて、このTシャツは洗濯してもしわにならないし、サラサラしていて肌心地も良いので、かなり気に入っている。

特にヤックやナーガ、ガルーダなど、タイらしいデザインのものが好きで、あれば買おうかと探してみたら、なかなか良いデザインのものがあった。値段も1枚120バーツと手ごろだったので、2枚ほど購入する。

派手なデザインは好みが分かれそうだが、僕は好み

ここのパンティップはプラトゥナームにある同じ名前の建物と関係があるのか分からないが、PCや携帯関係のお店が中心で、最上階には職業安定所があったりする。ちょっと交通の便が悪いのが難点だけど、ローカルな雰囲気が好きな僕には面白い所だった。

一旦、宿に戻り、コンサートに行く準備をする。この日に行くコンサートはパブで行われるので、メインが出てくるのは遅い時間である事は予想できたが、席を予約していないので、少し早めに到着できるよう17時過ぎに出発した。

ランシットへ行くには、フューチャーパーク方面ならBTSモーチット前からロットゥーを使うのが早いが、この日のお店「Zync」はランシット大学よりだったので、SRTレッドラインを使い、ラックホック駅からモーターサイで向かう事にした。

まずラップラオ101駅からイエローラインに乗り、終点ラップラオ駅でMRTに乗り換え、そこからバンスー駅に行く。バンスー駅からレッドラインに乗り換え、ラックホック駅で下車した。

レッドラインに乗るのも今回初めてだったが、券売機で切符を買う時に戸惑ってしまった。というのも、画面で目的地を押しても金額が出てこないのだ。

よく分からないので、とりあえず100バーツ札を入れると、10バーツコインが8枚も出てきた。という事は、バンスーからラックホックまでは20バーツという事なのか?

その理由は、次の日にもう一度レッドラインを乗った時に分かった。どうやら10月16日からどこまで行っても20バーツ均一というプロモーションをやっていたのだ。

こんな事をやるという事は、乗る人が少ないのだろうか?

まぁ、安い分にはこちらとしてはありがたい事である。なんせ、レートが悪い上にタイも物価が上がっているので、お金がどんどん消えていく。少しでも交通費が減れば、とても助かる。

ラックホック駅は終点のランシットの一歩手前なので、30分くらいはかかっただろうか。駅を降りると周りが寂しくて一瞬不安になったが、少し歩くとエーク・タクシン通りという賑やかな通りがあり、そこにモーターサイが客待ちをしていた。

「Zyncまで」と告げると、「あぁ、Zyncね」とすぐに分かってくれた。結構有名な所なんだろう。エーク・タクシン通りは沢山のお店が立ち並んでいて、すごく面白そうな場所だった。今度ランシットの方に泊まる機会があったら、改めて探索してみるのも面白そうだ。

10分弱でZyncに到着。予約していないし、この日のTAITOSMITH(タイ・トッサ・ミット)は凄い人気があるので、入れるか不安だったが、あっさり入ることが出来た。

結構立派な門構えのZync
この日はTAITOSMITHとFree Handというバンドが出演した

入場料は200バーツ。それに、人数にかかわらず、ひとつのテーブルにLeoビール5本を頼む事になっているという。ひとりで5本というのもちょっと多いが、僕はそもそも酒に弱いのでそんなに飲めない。ただ、これに関しては仕方ないので、入場料だと思ってその分も含めた700バーツを払う。

中に入ってみると、その大きさにビックリ。やっぱり中心部を離れると、箱も規模が大きくなる。

最初に案内された席はステージから遠めの、ちょっと見づらい場所だった。しかし、優しい店員がいて、もっとステージ寄りの場所が空いているからと、そっちに移動してくれた。これは本当に嬉しかったな。

ステージでは若手のバンドが演奏していた。終わりは多分24時を過ぎるだろうから、ここでご飯を食べようかと思ったけど、500バーツのビール代が心に重くのしかかっていて、終わってから外で食べる事にした。

学生バンドの雰囲気が漂う前座

お店に入った時にはまだ19時過ぎだったので、お客は少なかったけど、時間が経つにつれてだんだん増えてきて、21時過ぎにはほぼ満席だった。

22時頃にFree Handというバンドが登場。僕はこのバンドの事は全く知らなかったが、タイの若者には人気があるようで、皆大合唱していた。

そして、23時近くになって、いよいよ待ちに待ったTAITOSMITHの登場である。観客のボルテージもさらに上がり、歓声も一段と大きくなった。

23時頃にTAITOSMITHが登場

TAITOSMITHのステージを観るのは昨年に続いて2回目だけど、前回の会場(サイアムのLIDO CONNECT)とは仕様が全く違うので、雰囲気もかなり違っていた。どちらかというと、このバンドにはこういう会場の方が似合っているような気がする。

1曲目の「Amazing Thailand」からものすごい盛り上がりである。TAITOSMITHは音楽性的にも単なるロックバンドではなく、歌詞の内容が社会の不満や政治性の強いプア・チーウィットであるので、ファンのリアクションもかなり危険な感じする。カラバオの全盛期の頃のコンサートもこんな感じだったんだろうな。

例えば「Amazing Thailand」の歌詞の一部はこんな感じだ。

タイは奇跡の国らしい
外国人がハマって遊びに来たがる
ヤーバー、覚せい剤、うちは安い
麻、大麻も栽培している
ピエロ(警察)は使えない
あいつらは自分たちで(ドラッグを)売っているからな

美しかった故郷は汚れた心で滅茶滅茶だ
心優しき人々は搾取され、上級市民は私腹を肥やす
国民は打ちのめされても、声を上げる事すら出来ない
これがタイという国さ 奇跡といわれる国の、な

TAITOSMITH ”Amazing Thailand"

他にも、モーターサイ(バイクタクシー)の運転手の生活を歌った曲や、ガトゥーイ(おかま)をテーマにした曲、対立する若者グループの事を歌った曲、ピーナツ売りの悲哀を歌った曲もあれば、大ヒットした「コヨーティー(コヨーテ)」のような風俗で働く人間をテーマにした曲などもあり、このバンドの曲のテーマは幅広い。しかし、全ての曲に共通するのはタイの庶民の目線で歌われているという事である。そこがタイの人々、特に新世代の若者たちの心をとらえる要因なのだろう。

当日撮影した動画の2本目は、コンサートも終盤のものなのだが、観客は疲れてテンションが落ちるどころか、さらにエスカレートしている様子が見てうかがえると思う。それだけTAITOSMITHの音楽はタイの人々に訴えかけるものがあるという事を証明しているようだ。

また、僕の様な歌詞を完全に理解している訳でもない人間にも彼らの音楽が響くのは、その音楽性が非常に高いからである。

TAITOSMITHの音楽には様々な要素があって、ロックだけでなくラテンやEDMもあるし、ルークトゥンやモーラム、そしてワイポット・ペットスパンとコラボした「タイ・テー」のようにレーを取り入れた曲まで、ヴァリエーション豊かなスタイルを取り入れているだけでなく、自身のルーツにもしっかりとアプローチしている所が、言葉を超えて我々にも訴えかける力を持っている要因だろう。

そして、もう一つ重要な事は、このバンドは極めて演奏能力が高いメンバーが集まっているという事だ。メインヴォーカルの二人だけが突出している訳ではなく、ギター、ベース、ドラムス、キーボード、全てがしっかりとした存在感を持ちつつも、それがぶつかり合わず上手く融合している所に、このバンドの最大の魅力があると言える。

左:モス(Vo.G.)、右:ジャーイ(Vo.G.)
左:ミーン(G.)、右:ジェー(Key.)
ジェート(B.)、※トゥック(Dr.)はポジションが悪く撮影できなかった

TAITOSMITHのライブは観客だけでなく、メンバーのテンションもものすごく高い。全編パワフルに歌っている事もあるけど、この日はジャーイ(ヴォーカルの髭の長い方)が最後にマイクなしで叫んでいて、酸欠になったんだろうか、ステージ上でぶっ倒れていた。こんなライブをほぼ毎日のようにやっているのだから、本当にシラフなんだろうかと勘繰りたくもなる。それは冗談だけど、とにかくそれだけ彼らのステージは熱いのだ。

1時間余りの若干短めなライブだったけど、内容の濃さに大満足で店を出た。

時間は24時を周っていたが、店の近辺はまだまだ賑やかで、食べる所も沢山開いていた。目ぼしいお店でご飯を食べ、果たしてランシットからラップラオの宿まで行ってくれるタクシーがあるかどうか不安だったが、すぐにタクシーも見つかり、スムーズに宿まで戻ってくることが出来た。

タイの音楽をすべて聴いている訳ではないが、自分にとってTAITOSMITHは今のタイ音楽の中で、間違いなく最高のバンドである。それを改めて強く感じた夜だった。

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