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古典ブルーブラックと万年筆と私

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古典ブルーブラックインク (古典インク、没食子インク、タンニン酸鉄インク) について調べて、自作を試みて、古典インクの新色が商品化されるまでの話。
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古典ブルーブラックと万年筆と私 1 黎明篇

はじめに 古典インクの自作について、私なりのこだわりがあるのですが、そのこだわりの部分だけ話しても、何故そこにこだわるのか分かってもらえなかったり、誤解されたりしそうなので、自分の考えを整理する意味でも、古典インクと関わりだした最初の最初から書き出してみることにしました。 最初の万年筆 古典インクとの関わりは、最初に手にした万年筆まで遡ります。中学生の時に、使ってみるかと渡された父の万年筆はプラチナのシープでした。父が職場で記念に貰ったまま保管されていたもので全くの新品

古典ブルーブラックと万年筆と私 2 野望篇

古典インクを作ること自体は簡単だった プロジェクトXばりの失敗と成功のドラマがあれば盛り上がるのでしょうが、「インキと科學」の処方のまま調製してみるのは簡単でした。本に書かれているのは処方だけで、書かれていないちょっとしたコツのようなものはありますが、化学系の実験をやったことがある人なら経験的に勘が働く程度のものです。 2009年2月24日のことでした。古典的ブルーブラックを作ってみた。 - 趣味と物欲 また、「インキと科學」の紹介記事で分かるのは、古典インクの主要成分であ

古典ブルーブラックと万年筆と私 3 雌伏篇

WAGNERに初参加 WAGNERが福岡に来る!ということを、森さんのブログで知り、参加してみたい、でもちょっと怖い、と会場に着くまで悩みに悩んだあげく、興味が勝って参加しました。 2009年7月12日のことです。WAGNER九州大会に参加 - 趣味と物欲 参加してみると、楽しくて、いくら話しても話題は尽きず、自作古典インクも披露して、小分けしてβテストをお願いしたりしました。 そのままの勢いで、1ヶ月後の岡山大会にも参加、岡山でも自作古典インクの配布とβテストのお願いをし

古典ブルーブラックと万年筆と私 4 策謀篇

古典ブルーブラックか否か ブルーブラックインクが古典ブルーブラックなのか、そうでないのか、当時の万年筆愛好家の方は、筆記時の感覚や、書いたものを水に濡らした時の筆跡の残り方で、ほぼ正確に把握されていました。 色々な方の意見を総合してみると「モンブランとペリカンとラミーとプラチナが古典ブルーブラックだが、ボトルとカートリッジでは違うのでは」という感じではなかったかと思います。 二価鉄試験紙による古典インクの判別法 森さんからの宿題の1つ目「古典ブルーブラックか染料のブルー

古典ブルーブラックと万年筆と私 5 風雲篇

アスコルビン酸洗浄法の開発 古典ブルーブラックは二価鉄が酸化されて三価鉄になり、タンニン酸や没食子酸と水に溶けないキレート化合物を作り固まっている、それなら還元してやれば溶けるはず、と今考えてみれば当たり前のことですが、それまで使われていない方法でした。 還元剤と言っても色々ありますが、安全で、簡単に取り扱えて、ペンにも優しく、手に入れやすく、比較的安価なもの、と様々な条件に適合するものを探したら、局方アスコルビン酸の大瓶が目につきました。 化学系で還元剤と言えば、合成に使

古典ブルーブラックと万年筆と私 6 飛翔篇

再び古典インクの理想を掲げるために、日本よ、私は帰ってきた 2011年3月9日「ちょっと東京よってみる?」「いやもうお家に帰りたい」というような会話を妻として、成田から福岡行きに乗り換え、まっすぐ帰ってきたのですが、2日後jet lagの残る呆けた頭で「とんでもないことになった」と呆然とTVを見ていました。 古典インク関連の活動を再開 ペントレーディング用WAGNERインクを提供 WAGNERインクを、ペントレーディング in Tokyoの第12回 2012 (青黒、

古典ブルーブラックと万年筆と私 7 怒濤篇

プラチナ万年筆との話し合い 急いで日程を調整して、自作インクの試作品と資料を持って東京に飛びました。森さんと合流して、プラチナ本社を訪問し、中田社長をはじめとするプラチナ万年筆の方々と3~4時間くらい話をしたでしょうか。 終始和やかな雰囲気ですが、万年筆に一家言ある人ばかりの会議でしたので、大変盛り上がりました。最終的に、プラチナ万年筆の技術と処方に、私が提供した情報を加え、ハイブリッド的に開発するという結論に落ち着きました。 プラチナ クラシックインクの発売 プラチナ

古典ブルーブラックと万年筆と私 8 乱離篇

聿竹さんからの依頼 2018年11月に聿竹さんからTwitterのDMで青色1号古典インクを分けて貰えないかと連絡がありました。聿竹さんと言えばヌルリフィルで有名です。ヌルリフィルの商標登録ができたので、その記念として泉筆五宝展に並べたいとの依頼でした。 聿竹年萬 : 万年筆とヌルリフィルの部屋|Pen_Saloon その少し前に、WAGNERインクの新色として青色1号古典インクを海老沢さんに提案したのですが、既存WAGNERインクユーザーへのフォローのため、これまで作った