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かおる奥様ストーリー①

「それじゃ、おやすみなさい」
その言葉を聞く度、俺の胸には僅かな落胆が広がる。ごそごそと妻が布団を被る音に紛れたため息に気付くことなく、妻はそのまま目を閉じてしまった。おまけにこちらには背中を向けており、夫婦の営みを意識することさえないようだ。
「おやすみ」
 悪あがきのように少し間を空けて返事をする頃には、もう寝息が聞こえてきた。
俺達はいわゆるセックスレス夫婦である。もっとも妻が俺に盛る様子は全くないため、たまには男女として触れ合いたいと思っているのは俺だけなのだろう。とはいえ妻との仲が悪いわけではない。帰れば「おかえり」と笑ってくれるし、出てくる夕飯が冷たかったこともない。
それでも周囲にはドライな二人として見られているようで、人目も気にせずイチャついていた学生時代を懐かしく思ってしまう。同時に自分にはもう男の魅力がないのだろうかという不安もあり、俺はそれを押し殺すようにして眠りにつく毎日を送っていた。そんな中、自分を癒してくれる存在を家の外に求めてしまうのも無理のない話だ。

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