光、再考
ふたつだけもらったこの手
ひとつは心臓を握りしめている
もうひとつはお花をそっと持っている
コンクリートの狭い部屋、鉄格子のついた窓からは満天の星空が見えた。触れようと心臓を握る手をはなすと目眩がした。インターホンが鳴った。
この晩の訪問者はかみさまだった。かみさまは手みやげだよと微笑んで、今さっき心臓をはなしたわたしの手のひらに、小さなオルゴールを握らせてくれた。
意地の悪い大人に夕食を盗られてしまい、しょぼくれていた私だったが、この件ですっかり上機嫌になり、先ほどはなした心臓を大切にオルゴールにしまった。
わたしたちふたりは冷たく固い床に横になり、いつものように格子窓から見える星を数えた。あの星はいつ生まれたの、どんな人が住んでるの、あとどれくらいで燃え尽きてしまうの、人々は知っているの、と次々に私がたずねると、かみさまはいつものようにひとつひとつ丁寧に教えてくれた。そんなことを話しているうちに、わたしは安心して、いつの間にか寝てしまうのだった。
空が青く明るみ始めた頃、かみさまは一度だけ私を起こし、じゃあね、帰るね、と穏やかに微笑んだ。金木犀の香りがした。
その日の朝のニュースで
私はかみさまが自殺したことを知った
鉄格子の奥、あの細く白い月で
喉を切り裂いたことを
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