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漫画紹介「ニチアサ以外はやってます!」

ん?今この記事を開いたな?
これできらら&特撮と縁が出来たな!

というわけでこんにちは。ペッタ~です。

突然ですがみなさん特撮は好きでしょうか?

土曜朝に放送しているウルトラマンシリーズや日曜朝に放送しているスーパー戦隊シリーズ、仮面ライダーシリーズ、牙狼のような深夜特撮、シン・ゴジラのような怪獣映画…

これらの作品の話題はTwitterを眺めていると、関連ワードがトレンドに入ったり実況ツイートが放送時間帯に散見されたりと、良くも悪くも日本のオタク界隈での大きなジャンルになっていると思います。

そして今この記事を書いている私自身も他ならない、特撮が好きで毎週視聴している特撮オタクです。

そう…特撮オタク、それは「オタク」という大雑把な言葉で括られる生命体のある一つの形態であると言えるでしょう。

今回紹介する漫画作品「ニチアサ以外はやってます!」はそんなめんどくさいオタクが厄介な拘りをぶつけ合いながら特撮に向き合っていくちょっぴり素直じゃない青春活劇です。

めんどくさい拘りをぶつけていくオタク集団

「ニチアサ以外はやってます!」(以下:ニチ以)は猫にゃん先生により現在まんがタイムきららキャラットで2021年2月号から連載されている4コマ漫画です。

以下から試し読みできます。

タイトルにある「ニチアサ」とは日曜朝を略した「ニチアサキッズタイム」の通称で狭義にはプリキュア、仮面ライダー、スーパー戦隊を放送しているテレビ朝日系列の日曜朝8時半から放送している1時間半の番組群を指す言葉です。

ニチ以がどういう物語なのかを端的に説明すると「部活動として、特撮作品を自主制作していく女子高校生の話」でしょうか。

「きらら」といえば女子中高校生の部活モノ。「きらら」といえば女子中高校生の趣味モノ。これがステレオタイプか否かは受け取る人それぞれとして実際にきららに趣味や部活を描く女の子の作品は結構あるので、特撮を扱っているという点を除けば、レーベルらしいテーマの設定と言えると思います。

ただしこの作品のディティールの方向性は結構生々しいのが特徴です。「は?お前この作品好きなのww無いわwww」といった具合に大雑把な趣味のジャンルが同じということが必ずしも100%分かり合えるわけではなくむしろ細かな拘りの違いで起こる衝突を描いています。要は解釈違いで揉めるんですね。

しかし一方で、100%分かり合えないというのは0%を意味しません。揉めながら、いじり合いながらも「好き」という大まかな感情で連帯していきながら一つの作品を作り上げていく。

別に特撮に限らないのですが、サークルでバンドやってたり同人イベントで合同誌出したり、自主制作したり。他人と共同で一つの作品や発表を創り上げていく経験がある人ならこのファジーな感覚に共感できるのではないでしょうか?

そしてこの作品が面白いのは物語で一番最初に出てくるキャラクターの海城あかねは特撮をそれまでに知らず、紆余曲折あって特撮初心者ながら特撮作品研究部(通称:特撮研)に参加する部分なんですね。

良くも悪くも厄介な拘りを持たないあかねちゃんはプリミティブな「なにこれカッコイイ!」「なんかすごい!」といったポジティブな感情を周囲に伝播させていくことで一癖も二癖もあるメンバーをまとめるかすがいとして機能します。

『ニチアサ以外はやってます!』(著:猫にゃん)第1巻9ページより
あかねちゃんはカッコいいものが好き

更に中学の時はバスケットボールに取り組んでいたため抜群の身体能力を持ち、特撮研ではアクター兼スーツアクター(所謂着ぐるみの中に入ってアクションを行う人。着ぐるみにより視界が悪かったり身体の動きが制限されるため熟練に達するためにはかなりの技術が必要)を担当しています。

逆にめちゃくちゃめんどくさいオタクとしてデザインされているのがあかねちゃんと同級生の本郷苺ちゃんです。

最初は特撮が好きであることすら隠していた苺ちゃんですが、これには過去に解釈違いで他人と揉めた過去があり、そのトラウマから特撮語りをすると最終的に良くない結果になるから話題を意識的に封印していたからという理由があります。

『ニチアサ以外はやってます!』(著:猫にゃん)第1巻22ページより
重度の特撮オタクの苺ちゃん

しかし一旦語らせると止まらないどころか、ネットでTV放送の字幕キャプチャー画像を貼りながら実況していたりとかなりアレな人物であることが伺えます。(最近は作者の猫にゃん先生が息抜き的に投稿されるイラストでアレな属性を盛られています。なぜ作者が!?)

特に得意としているのは音楽方面で、特撮研では音響を担当しています。(特撮で劇伴は変身や戦闘、敵のアジトのシーンなど、場面ごとに流す曲がだいたい決まっていてシーンの流れやテンションを聴覚で訴えるのに重要な要素です)

そして部活といえば先輩キャラ。
というわけで特撮研2年生には造形・美術担当の早田唯先輩と監督・脚本担当の芹沢博見先輩が所属しています。

この二人も例にもれず、日曜朝は早起きして特撮番組に夢中になっている特撮オタクで担当役割からも分かる通りそれぞれの分野に関しての造詣が深いです。

早田唯先輩は、他でもなく苺ちゃんが喧嘩した中学時代の部員その人。何かの因果か運命の再会をしますが、その後も喧嘩したりなんやかんやで苺ちゃんと良しなに関わっている感じです。

『ニチアサ以外はやってます!』(著:猫にゃん)第1巻18ページより
造形担当の唯先輩

部内では美術やデザインを担当し、着ぐるみのスケッチや制作を担っています。

芹沢先輩は脚本担当にして特撮研の部長を務めています。3年が抜けて二人だけになってしまった特撮研は弱小部であり、どちらかというと廃部の危機に瀕していてその重責を感じており、彼女自身もまた脚本と演出のオタクでありながら比較的には常識人のポジションです。

『ニチアサ以外はやってます!』(著:猫にゃん)第1巻20ページより
部長にして脚本を担う

そしてまた、部活といえば…そう顧問の先生ですね。

本多立花先生は簡単に言い表すと新参者の敷居を上げるタイプのオタク。

最近特撮を知ったあかねちゃんに対して「ニチアサ以外の特撮は知ってんのか?」と知識と経験の無さを詰り、オタクとしてのあかねちゃんを否定するかの如く斜に構えたように接します。

そして「そんな甘い奴がいる部活で特撮が作れれるわけないので廃部にする」ということで1巻範囲における超えるべき壁の様なキャラとして登場します。

『ニチアサ以外はやってます!』(著:猫にゃん)第1巻75ページより
新参に絡むタイプの厄介オタク

なぜ先生の立場でありながらこんなことを言っているのかの真相は是非単行本で確かめて欲しいなと思います。

大体の登場人物の紹介は以上です。この通り個性豊かな、しかし一方でどこか心当たりのある言動をするキャラクターが織り成す新時代の部活モノであることが分かって貰えたと思います。

今までのきららの歴史がそこに詰まってる。卓越した漫画技法

さて、この作品もう一つ語っておきたい観点がありまして、4コマの技法の研究に余念がなくて斬新な演出を積極的に取り入れているところがあります。

たとえばこのシーン

『ニチアサ以外はやってます!』(著:猫にゃん)第1巻37ページより

きららでは4コマ専門誌でありながら、長年4コマの"フレーム"に関して保守的な傾向があったのですが、近年1ページに横長いワイド4コマを掲載するような作品が登場しました。

横に長いコマはシンプルに1コマに詰められる情報量が多くなるので1コマの中により長い時間軸を組み込めるようになります。

何が言いたいかと言うと他愛のない「駄弁り」の表現に関してリアルな間合いを表現しているということです。

きららの中では例えば「ゆゆ式」最近の作品だと「ぬるめた」などが口語での会話をリアルに再現しながら進行していく作品が"日常系"のなかでのメインストリームとして確立していますが、このシーンは紛れもなくこの流れを受け継いだシーンと言えると思います。

次にこのシーン

『ニチアサ以外はやってます!』(著:猫にゃん)第1巻29ページより

これは先ほどとは逆で2本の4コマが対比になりながら進行しているシーンです。

これもまた4コマ漫画を幾つも並べて掲載していくスタイルの中で育っていた「本来の4コマのように起承転結でそれぞれが独立しているのではなく、並列で載せることでお互いに繋がっている4コマ漫画」のシーンとして、4人のキャラクターそれぞれのオタクとして琴線に触れる箇所の差分を描いています。

そして界隈に衝撃が走ったのがこのシーン

『ニチアサ以外はやってます!』(著:猫にゃん)第1巻100ページより

かつて「まんがタイムきらら伝説の読み切り」として知る人ぞ知る作品に「グレーゾーン」という作品があるのですが、リンク先の記事を見てわかる通り4コマの枠を排して作画の中に巧妙に境界を組み込むことで「4コマじゃないのに4コマを表現」しています。

なぜグレーゾーンが伝説とされているのかはの理由はシンプルで、この後「脱フレーム」を取り入れた作品が続かなかったからなのですが、ここを引っ張り出している辺りが猫にゃん先生のきららと4コマへの情熱の大きさを物語っていると思います。

そしてこれは誤解のないように声を大にして言いたいのが、これらの技法が単なる流用に留まらず作中内で自然に取り入れられているので完全に猫にゃん先生自身の技術として昇華されているということです。

技術に振り回されてちぐはぐになることなく面白い4コマ漫画としての強度を保ちながら貪欲に技法を取り入れて進行する点はまさに特撮ヒーローの全ての歴代戦士の力を使える最強形態の如く覇気を纏っています。

©石森プロ・東映

特撮ネタは知らなくていい

この作品の反応を色々探してみると「特撮何も知らないのに面白いんだけど、特撮ネタが分からなくて...」という感想が散見されているのですがそういう人、あるいはこの記事を読んでいて似たように「興味あるけど特撮はなぁ...」という方にあえて言いたいのですが、

この作品の特撮ネタ、知らなくても全く問題ありません。

というのも、この作品に仕込まれた小ネタは局所的に流行った「ネットミーム」の側面が非常に強く、俳句における本歌取りの様な元ネタそれ自身の背景を前提として表現に重層感を与えている――なんてことはほとんどありません。(あるにはあるんですが割合としてはやっぱりネットミームが非常に支配的です)

例えば、落ち込んでいた部長が部員の励ましで立ち直るこのシーン

『ニチアサ以外はやってます!』(著:猫にゃん)第1巻72ページより

これは「劇場版 仮面ライダーゴースト 100の眼魂とゴースト運命の瞬間」という宮本武蔵などの実在の偉人の力を身にまとって戦う「仮面ライダーゴースト」という作品の劇場版の1シーンが元ネタです。

簡単に説明すると敵に狙われて囚われてしまったダーウィンの魂(何故敵に狙われたのかというとダーウィンは実際の歴史の中で生物の進化論を発表したため、その魂は生物の進化を促す力があるとされるから)が終盤主人公の覚悟に感化されて正気を取り戻すシーンでデカデカと顔が空中に浮かんでいる映像が非常にシュールということで一部からネタにされているシーンです。

「劇場版 仮面ライダーゴースト 100の眼魂とゴースト運命の瞬間」
監督:諸田敏
脚本: 福田卓郎
©石森プロ・東映

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B01MR55JMK/ref=atv_dp_share_cu_r

結構大事なシーンもこういうノリがぶっこまれるため、元ネタを知ってしまうとむしろ感情が迷子になる危険性を孕んでいます。

なので個人的な所感としては特撮ネタ知らないなら知らない方が良いかもな~(適当)って感じです。

どうしても「小ネタ込みで楽しみたい!」と気になるのなら3月から始まったスーパー戦隊シリーズ最新作「暴太郎あばたろう戦隊ドンブラザーズ」が史上初のプライムビデオでの追っかけ配信を始めたので、これを観るのが手堅いかなと思います。なぜかと言うとドンブラザーズ本編を見てもらうと分かるのですが、今作は非常に癖が強くネタにしやすい場面が多いので猫にゃん先生も多分いずれ作中に入れてきそうだろうなぁって思うからです。

まとめ

というわけで特撮を知っても知らなくても楽しめる2022年最先端の4コマ漫画「ニチアサ以外はやってます!」の紹介記事でした。

特撮を題材に扱ってはいますが、その実態はこじれたマニア同士が集まって自分たちでも作品を作っていこうと衝突しながら頑張る青春自主制作活劇なのでそのレイヤーで響く琴線を持ってる人には是非手に取って欲しいなと思います。

そして私がきらら系の紹介記事を書く時に繰り返しお伝えしているのですが、まんがタイムきららの生存競争は非常に過酷で最近は1年に1冊しか出せない単行本で初動の1週間(1ヶ月という説もあり)の売り上げで打ち切るか続けるかを判断するという説が濃厚です。

きらら好きとしても、特撮好きとしても是非この作品がもっと多くの人の目に触れて欲しいと願いこの記事の筆を取っています。

という訳で今回の記事は以上となります。
「ニチアサ以外はやってます!」是非ともよろしくお願いします。

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