息継ぎ
深く、大きく、息継ぎをしようとするのに、浅く、小さく、しか出来ない。呼吸はしてるのに、口がパクパクしてるだけで、全然酸素が入ってこなくて、二酸化炭素が出せなくて、息継ぎの行為が上手くいかない。低酸素状態が続いて、頭と耳の裏側が熱くなっていく。頭に血が昇ってぼーっとして、口が開いちゃう。考える事が面倒くさくなってきた。
私の首にあるその手は、頚動脈をちゃんと明確に捉えてて、明らかに今まで何度かやっていたんだろうなと思わせた。苦しさもそうだけど、首を締められているという性的倒錯感で興奮するから、多分私は相当にオカシイ。
息は出来るのにずっとずっと苦しいまま。苦しくて手足がベッドの掴めない空気を掴もうとしている。バタバタと虫みたいに手足を暴れさせてみる。溜まった涙でまつ毛が濡れるのが自分でわかって、頬と唇が赤くなって、でも血の気が引いてくようなそんな感覚に堕ちていく。限界かもしれないと、私の首にかかってた相手の手を掴んだ。爪が手の甲に喰い込んでるんじゃないか。それくらいに力を込めて抵抗してみる。
あぁ、笑ってる。
「ねぇ?苦しい?無理なの?」
あぁ、ほら、ねぇ、笑ってる。私の事見て笑ってるその口元が好き。苦しい。好き。何にもわかんない。ねぇ、ねぇ。苦しいのが好き。苦しくしてくれるその手が好き。窒息しそう。好きに溺れて埋もれて、空気があるのに溺れて死にそう。私の生死が今、その手にかかってるのを感じる。感度が上がる。イキソウ。溺れちゃう。
首が固定されているから頷けないので、顎をわずかに下に向けて目を伏せた。パっていきなり手が離れる。
「がはぁっ!!あぁぁ!!」
酸素の入ってくるのが急すぎて、呼吸の仕方を忘れた私は、お腹の上にのってる相手を押し退けて背中を丸めて咳き込む。その丸まった背中をずっとずっと撫でてくれる。
「苦しかったの?がんばったね。偉いね。」
私の事を苦しくさせたくせに、ずっと猫を撫でるみたいに背中を優しくなでる。殺してくれなかったのに、ずっと優しい。私の代わりに私の事を考えてください。私の代わりに息継ぎしてください。
私は息継ぎを思い出したのに、手はもう首にかかって無いのに私はなんだか息苦しくて、思わず私は笑った。
目が合う。
あぁ、ねぇ、笑ってる。