夜中に台所でぼくは谷川さんに話しかけたかった
十六歳の感傷に腰掛けて
ぼくは詩を書き始めた
ぼくの孤独といえば
せいぜいコップ一杯分の涙ほどしかなかったけれど
二十億光年の彼方の星からの引力で
コップの水が波立つことを幻想するのだった
十六歳の感受性の扉は
あけてもあけても無限に続いているようで
めまいを覚えながら
ノートのなかに扉の鍵をしまう毎日だった
ところが ある夏の昼下がり
いつものようにノートを開けたぼくは
たいせつな鍵をなくしてしまっていることに気づいた
あれ以来
鍵を探し続けて過去の町々を放浪したぼく