【MPP授業感想】Housing Policy②

Week 3: The Homeownership Dream

果たして持ち家政策を推進することに正当性はあるのか。住宅を所有することは、市民にとって、安定的な住居の確保、感情的な理由(例:「立派」な市民であることの証明)、経済的な利益(インフレによる債務価値の低減、キャピタルゲインなど)といったメリットがあり、政府としても、当時新自由主義的なトレンドに傾いていたこともあり、他の住宅政策や社会福祉政策のフェーズアウトを正当化するための理論的根拠、あるいは乗数効果を期待した経済政策の一環として、住宅所有を推奨してきた。これにより、先進国における持ち家比率は長らく上昇してきた。

しかし、近年においては、持ち家比率は低下傾向にある。要因は複雑だが、住宅価格が収入に比して上昇したこと、世界金融危機を経て住宅ローンの基準が厳しくなったこと、単身家庭の増加や生活拠点の多極化といった社会構造・生活スタイルの変化が主なものとして挙げられる。また、上述した持ち家に関する楽観的なナラティブの正当性も低下しつつある。すなわち、住宅価格が安定して上昇していくという前提は崩れつつあり、サブプライムローンの崩壊において顕著だったように、低所得者は住宅を購入することで却って経済的な不安定な立場に追い込まれている。また、若年層が親からの支援なしに住宅を所有することが難しくなる中で、親世代の資産の重要性が高まり、子世代における格差が拡大している。

日本においても伝統的に持ち家を推奨する政策を採用してきたし、実家で育ち、賃貸住宅で暮らし、家庭を持つようになると住宅を購入するという「住宅すごろく」が社会通念として広く普及してきた。しかしながら、こうした社会規範に覆い隠されがちであるが、日本において住宅を購入することは、安定的な住居を確保する以上の価値を持たなくなりつつあるように思う。経済的な価値の向上は、都心部以外では見込めず、その都心部では住宅の投機目的での所有が進み、とても中間層が手を出せる状況にはない。また、独身者や持ち家を持たない高齢者など、そもそも持ち家を必要としていない人々の割合も増えつつある。こうした状況を踏まえると、今後は住宅所有を優遇する政策だけではなく、賃貸住宅にも目配せをした政策が必要になってくるだろう。例えば、高齢者が賃貸住宅に確実にアクセスできるようにすることで、老後の不安から過大なリスクを背負って住宅を購入するケースを減らすことができる。また、住宅の購入が家庭を持つための条件として捉えられている状況を変えることは、家族を形成するハードルを下げることにつながり、少子化にプラスの影響をもたらす可能性がある。また、リモートワークの普及を考慮する必要があるものの、一般的に住宅所有は労働流動性を低下させることにも留意すべきだろう。


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