【読書メモ】シン・日本の経営 悲観バイアスを排す

MBAのインタビュー対策に読んだ本。ポイントを以下に記す。

・失われた30年は単なる停滞ではなく、グローバルな技術リーダーとしての役割を模索していたと捉えられる。
・日本企業は「舞の海戦略」を採用している。すなわち、コモディティ化した製品からディープテック事業へのピボットを図っている。(例:日立製作所)
・その結果として、日本企業は中間財の技術や生産設備の強みにフォーカスする戦略にシフトしている(「ジャパン・インサイド」)。
・優れた日本企業に共通するのは、Profit(利益)、Plan(戦略)、Paranoia(危機意識)、parsimony(効率性)、PR, People(リーダーシップ)、Pride(幸福感)の7P。
・舞の海戦略における選択と集中は、イノベーション・ストリーム・マトリクス、あるいは両利きの経営(既存事業の深化と新たな事業領域の探求)を用いて説明できる。すなわち、①既存の事業の深化、②新顧客・市場の開拓、③新技術の開発で既存顧客・市場を支援、④新技術で新顧客・市場を開拓の4ステップ。しかし④に当たっては、企業カルチャーの変革が必要。
・カルチャーには内容、合意、強度という3つの次元がある(オライリー)。タイト・ルーズ理論はこのうち合意と強度の強弱により文化を分類するもので、日本は「タイトな文化」に分類される。日本は災害や戦争等の外的ショックによりタイトな文化が形成されたと考えられる。日本の変革が遅いのは、社会的な選好によるものである。
・日本の企業カルチャーは①常に礼儀正しく思いやりを持つ②常に適切である③決して他人に迷惑をかけないの主に3点。改革を行うには3つのうち2つを満たしていれば問題ない。
・タイトなカルチャーを持つ日本企業での改革を行うためにはLEASHモデル(リーダーシップ、参画、連動した報酬、ストーリーと象徴、人事制度)に沿った改革を行うことが重要。タイトな文化であるからこそ、高度に構造化された体系的な手順が必要なのだ。
・シリコンバレーの少数の成功の影に多数の失敗があるというモデルは、日本の文化とは相容れない。日本のスタートアップはM&Aが少なかったが、M&Aが増えつつあり、1件あたりの規模も大きくなっている。終身雇用というベースを持ちながら、イノベーション・サバティカル(雇用保障付き起業家精神)という形態も生まれつつある。こうした日本独自のモデルが形成されつつあるので、単純にアメリカのシリコンバレーと比較して良し悪しを判断する必要はないのではないか。
・経済規模で世界一になることはないだろうが、経済活動、政治的安定、社会的結束と企業の成功とのバランスを図った独自の落とどころを探ることで、日本独自のモデルを形成できるのではないか。

感想は以下のとおり。
・日本的な組織の改革のためには総合的かつ継続的な取り組みが必要という主張には納得感がある。ごく一部のチームが単発的に始めた取り組みは、いずれ鎮火されてしまうのが関の山。幹部によるトップダウンの改革が有効なのだろうが、官庁は人事異動によりそうした取り組みの一貫性が維持できないので、本質的かつ全省的な改革が進まないのだろう。
・日本的な発展モデルを追求すべきというのはまさにその通りだと思うし、我々が目指すべきものだと感じる。他方で、この日本企業の舞の海戦略の大前提となっている日本の技術的優位性、政治・社会の安定が今後も継続的に維持されるのかは疑問であり、そこに国家としての課題があるように思う。
・イノベーション・ストリーム・マトリクスをインフラ・交通・観光分野に当てはめた時に、既存の規制体系では捉えきれないダイナミズムが生まれるように思う。それは観光分野におけるエアビー、交通分野におけるウーバーなど既に観測され始めているが、分野の垣根を超えた企業の動きに対して、官庁はどのように対処すればよいのだろうか。少なくともアンテナを高く持つことは必要だし、或いはこうしたイノベーションを意図的に使っていく姿勢も求められると思う。

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