【MPP授業感想】Digital Transformation of Governments②

Week 2 Transformation or reinforcement
of existing systems?

今回の問題意識は、デジタル技術の導入は、改革をもたらすどころか却って既存のシステムを強化するのではないか、というもの。

政府であれ、民間企業であれ、デジタル技術は組織を通じて導入されることになるので、その組織の構造がデジタル技術のもたらす効果を規定することになる。今回読んだ論文において、政府においてこれまで真剣にデジタル化を検討してこなかった理由として、デジタル技術に知見を有する職員が組織の主流派ではなかったことが指摘されていたが、これは自分の省庁にも当てはまる問題だと感じた。本来であれば組織運営の設計においてITに関する知見を持つ職員も巻き込んで議論すべきところ、そうした知識を持たないジェネラリストの幹部の判断により、既存の組織構造を前提としてパッチワーク的にしかデジタル化を推進してこられなかった。組織としてデジタル化の効果を最大限高めるためには、副業も可能とする、待遇を高めるなど柔軟な人事制度も活用しながら、デジタル人材を組織の中枢に据えることが必要だと思う。また、既存の組織構造が存在する以上、デジタル化を急激に進めることは困難であることから、トップダウンでの長期的なコミットメントを前提に、非常に綿密に改革を設計・実行しなければならない。しかし、事務官のジェネラリストが主要ポストを占め、2・3年で幹部含めた職員が異動していく霞が関の組織構造においてこれらの方向性を実現することは容易なことではなく、強力なリーダーシップが必要不可欠だ。

既存システムの強化とは少し話がずれるが、デジタル化の推進により、却って行政の機動力が下がっており、かつ、システムトラブルや外部委託等によるリスクにより行政の脆弱性が高まっているとの主張は印象的だった。単なるシステム屋ではなく、政策立案機能との関係でこうしたリスクを考えることができる人材が求められる。

また、レガシーシステムの存在もデジタル化による効果を損なう原因となる。政府におけるデジタル化の優良事例としてよく紹介されるエストニアの成功の要因は、レガシーシステムが存在せず、一からシステムを設計することができたことであるという。日本政府では、各省庁・各部局が独自に導入した大量のレガシーシステムが存在する状況下において、デジタル庁が統一的なシステム体系の構築を模索している。正直に言って、ボトムアップ型での合意形成は不可能だと思うので、半ば強引にでもトップダウン的に膿を出し切ってもらうことを期待したい(が、彼らの組織的なリソースを考えると難しいかもしれない)。

最後に、レガシーシステムの再構築に当たっては、まずそもそもの業務プロセスの洗い出し、当該プロセスの合理化・単純化を丁寧に行うことが重要であることを指摘したい。単純に既存のプロセスを前提にシステムを置き換えるという思考法で進めてしまうと、再び非効率なシステムが構築されることになり、状況は改善しない。急がば回れ、ということだと思う。


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